表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

 夢幻世界・ドリムデラ。

 この世界には魔法がある。その中には、他の世界の存在を一時的に呼ぶ召喚魔法というものがあった。

 召喚士は歌で呼びかけ、踊りで場所を示し、召喚する対象を呼び寄せる。

 基本的には一人で行うが、怪我などの後天的な理由で歌えなくなった、踊れなくなった者は二人一組で欠けたものを補い合い、召喚する。

 だが稀に、先天的に片方しか出来ない召喚士も存在する。

 水の都・ファルガールの冒険者ギルド『抗う者の牙』に所属している双子の召喚士、アルカとリオがそれである。

 アルカは踊りが、リオは歌が壊滅的に下手だった。従って、二人は物心付いたときから二人一組で、いついかなる時も共に居た。

 それはいつまでも続く。そのはずだった。


 *****


「ふっざけないで!」


 フルカネルリが食堂の扉を開くと、テーブルを強く叩く音と共に女の叫び声が飛び出してきた。

 本気の怒気をはらんだ叫びに、酒場がしん……と静まり返る。

 こそこそとなるべく音を立てないようにしながら、一番近くのテーブルに居る仲間の肩をつついた。

「おはよ。……これ、何の騒ぎ?」

「おう、はよ。……いや、わからん」

 騒ぎの中心は、双子の召喚士。喧嘩したことがないほど仲が良く、以心伝心の二人が、いや、その片方が珍しく非常に怒っている。受け取ってる側は困った様子だ。

「ちょうどいい。お前、アルカの守護者だろ。行け」

「鬼かな!? サーシャは?」

「まだ来てない。ほれ、訊いてこい」

「ちくしょー……」

 召喚士は召喚している間は無防備になる。その間、護ってもらうために選ばれた者と契約を交わす事が通例だ。

 双子の召喚士も例に漏れず契約しており、アルカの守護者はフルカネルリ、リオの守護者はサーシャが請け負っていた。

 せめてもう一人の守護者と事に当たりたかった(あわよくば女性同士ということでサーシャに押しつけたかった)が、来ていないのならば仕方が無い。フルカネルリは一つため息をつき、恐る恐る二人に近付いていった。

「お、おはよう。アルカ、リオ」

「おはよう」

「おはよう、フルカネルリ」

 とりあえず無難な声かけは成功。アルカは不機嫌さを隠さず、リオはいつもの調子で返してきた。

「ええっと……喧嘩か? 何があったんだ?」

 元より口は上手くない。だから直球で訊いてみると、アルカはますます不機嫌になって、リオは苦笑を浮かべて、しかし二人同時にテーブルの上の物を指す。


「「お見合いしろって(!)」」


 声に乗る感情こそ違っていたが、やはり息ぴったりの二人だ。アルカの声の大きさに一瞬仰け反ったが、フルカネルリはその写真を目線だけで断りを入れて覗き込む。

 そこには若い騎士が写っていた。見た目の年の頃はフルカネルリと同じくらい。見た目と実年齢がかけ離れてる可能性もあるが、見合いならそこまで酷く離れてはないだろうと勝手に予測を立てる。

「あー……アルカがするの?」

 怒り具合からしてアルカがやらねばならないのかと問えば、リオが首を振って自分を指さした。

 『牙』に冒険者登録をしているが、この二人は一応水の都――この世界では都は国を指す。地球の言葉に直すと水の王国になるらしい――の王女だ。

 どの世界でも共通して、王女という立場は政略結婚をしなければならないらしい。

「断るから、結婚はしないよ。水の都は自由恋愛を推してるし」

 詳しく聞けば、王位継承権のない娘が行き遅れないように、早く結婚をさせたい親心、といった側面の方が強いらしい。

「だから、それなら私が行ってもいいじゃない!」

「相手は私を指名してるんだよ」

「双子だからわからないでしょ!」

 二人の言い争いを聞いていて、問題の概要がわかってきた。どうやらリオに来た見合い話をアルカが肩代わりしたいが、それをリオが拒否し続けてるらしい。アルカの過保護ぶりはわかっていたが、あまりの暴走ぶりに眉を寄せる。

「アルカ。どうしてお前がやりたがるんだ? リオは断るって言ってるじゃないか」

「リオは押しに弱いから、結婚させられるかもしれないじゃない!」

 フルカネルリは思わず眉間に手を当てて、めまいをやり過ごした。リオが押しに弱いと思っているのはアルカだけだ。

 どれだけ押されてもやんわりと断り、その答えを覆すことは決してない。リオが押されて折れるのはアルカにされた時だけだと、気付いていないのは本人だけか。

「……リオー……」

「うん、ごめんね、フルカネルリ」

 本当に過保護なのは姉のリオだ。強く文句も言えず、ため息と共に非難の意味を乗せてみれば、あっさり謝罪が返ってくる。

 それ以上何も言えず、ため息をもう一度吐いて、彼はアルカの説得へと回った。回るしか無かった。

「アルカ。心配ならサーシャに同行してもらおう。あいつならどんだけ押されてもきっちり断ってくれるだろ」

 今は居ないバディの名は、そこそこ効果があったようだ。不満げではあるが「それなら……」と小さく呟いて了承の意を示す。

 本人が居ない間に決めてしまったが、守護者が召喚士と共に行動するのは認められているし、サーシャもこのことなら断らないだろう。


 こうして、この問題は終わったはずだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ