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 話が逸れかけたが、咳払いをして場を仕切り直す。

 ひとまず前提は分かっているので安心した。問題なのは次だ。

「この王位継承権、嫁ぎ先によっては残った片割れに与えられないことになってる」

「……それは、私も知らないわ」

 勉強をしているリオも知らないということは、この法律が追加されたのは最近ということだ。

 だから今回の婚約話かと納得した。

 フルカネルリはアルカの守護者になるに当たって、水の都について猛勉強した。その勉強は今も続けており、最新の法令にもちゃんと目を通してある。

「一ヶ月前に読んだ法令集に書いてた。

 辺境伯、公爵に嫁いだ場合、残った片割れには与えないことになってる。

 どちらも、戦争になった際に最前線を駆けることになるからだ」

「んん? そこと結婚したら奥さんも最前線で戦うものなの?」

 アルカの疑問には首を振る。普通なら妻に求めるのは主人不在の家での采配だろう。

 だがしかし、嫁いだ妻が強い力を持つ人間なら。その戦力を後方で腐らせるのは勿体ない。

「例えば、リオがまだ踊れるのに嫁いだとする。そこにまだ歌えるアルカが援軍でやってきたら、召喚術を使って敵を一掃出来るよな」

 国からの援軍は、人数が多くなればなるほど準備や移動に時間がかかる。しかし、女性一人だけならばいくらでも輸送手段がある。最小限の人員で千人以上の敵を相手取れるのなら、そちらの方が断然良い。

「そこで問題なのが王位継承権だ。こんなもん持ってる人間がホイホイ戦場に行けないだろ。ただの事故死でも暗殺だの騒がれて王宮が大騒ぎになるのは目に見えてる。

 だから、嫁ぎ先が辺境伯、公爵の場合は王位継承権を与えないことになってる」

 分かったか? と確認を取ると、双子とサーシャだけでなく、他のテーブルに座ってるヤツらも頷いた。聞き耳を立てるくらいならいっそこのテーブルに集まってちゃんと聞いて欲しい。

「んでな。一番の問題は、水の都は自由恋愛を推してるんだよな」

「そこなの?」

「あー……」

「なるほどー……」

 今度の疑問はサーシャだ。双子も同じ気持ちなのか首を傾げている。

 一方、レグルスとアークは気付いたようで、納得したような声を上げた。

「宰相としては辺境伯や公爵に早めに嫁がせて、二人に王位継承権を与えられないようにしたい。あれこれ面倒だからな。

 だから今回のお見合いを持ってきたんだろ。上手く行けばラッキー。行かなくても、お前たちに結婚を意識させられる。

 そして今回、エドゥアルド様が『惚れて』求婚をしにきた。

 ガチで惚れた子を口説きに来ました! ってヤツを、自由恋愛推してる家が追い払える?」

 これが侯爵以下ならば、いくら惚れようが門前払いが出来る。家の家格が違う。不敬だと。

 だが、辺境伯だ。しかも恥も外聞もなく王都の『牙』の本拠地までやってきたのだ。

 自由恋愛を推す水の都の王家としては、彼を無碍に扱うわけにはいかない。

 フルカネルリの言いたいことがきちんと理解できた三人は、顔を青ざめさせてどうしようと顔を見合わせている。自分の犯した罪を理解したようだ。

「きちんと謝罪し、きちんとお断りしろ。いいな、アルカ、リオ」

「はい……!」

「わかりました……」

 守護者からの強い命令に、双子はそれぞれ頷いた。


 その日の夜、エドを尾行していた仲間が帰ってきてフルカネルリに報告しに来てくれた。

「エド様、本当に家とは関係なく来たみたいで、後から追いかけてきた従者に辺境伯家の別宅でこっぴどく叱られてた。

 まずはお手紙で諦めきれないことを伝えて、会いに行きたいと、時間を取ってくれないかとお伺いを立てろって。

 でもエド様は、それが本人に届くかはわからないし、他に婚約者をあてがわれたらと思ったら居ても立っても居られなかったってさ」

「行動派なのはいいね。これが他の王位継承権持ちだったら、貴族としてのマナーを知らない奴だと門前払い食らっただろうけど」

 貴族として正しい行動は、従者の言った通りだ。きちんとマナーに則らない行動をする者は、伝統を重んじない者として排斥されるのが貴族の世界。

 その点、彼はある意味、運が良かった。リオは王族だが召喚士としての立場が優先されるため、多少の貴族のマナーは無視するし、無視される。

 アルカに至っては平民寄りの感覚なので、家を通さず直接本人を口説きに来た事に対しては高評価のはずだ。それ以外が最低評価になってるだろうが。

「明日は昼に来てから、一度領地に帰るみたい。でも帰ったらきちんと仕事とか割り振って、別宅に移り住むつもりみたいだよ」

「長期戦に挑むつもりか……」

「明日、きちんと説明しなよ」

「分かってる。てことで作戦なんだけどさ。明日の昼の歌姫をアルカにさせたいんだが」

 仲間は、その提案だけで全てを理解してくれた。その人の悪い笑顔はちょっとやめて欲しい。

 『牙』の食堂では昼と夜に歌を披露してもらっている。地球でいうところの店内BGMみたいなものだ。

 始まりは双子の歌と舞だった。店の手伝いをしたいが、給仕があまりにも下手な双子のために、フルカネルリが考えた。

 意外と受け入れられ、楽器が得意な者と歌が得意な者もやりたいと言い始めて、舞はやめて歌と楽器演奏となり、今では当番制になっている。

 明日の歌姫は彼女だった。

「二日酔いになれば交代するのも自然よね!!」

「んなわけあるか。朝一で説明するからもう寝ろ」

「ちえーー」

 この酒好きの元盗賊、すぐに酒を飲もうとするから油断も隙も無い。


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