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 この事件、ギルドマスターが居ればしっかりきっちり叱ってくれただろう。そもそもこんな事態を引き起こさなかっただろうと思うも、奥さんの誕生日なんだからと三泊四日の旅行を押しつけたのは、間違いなく自分だ。

 見合いの話が出る前日だったのが運が悪かった。

「お前ら、入れ替わっただろ」

 事態の深刻さから、自然と声が低く厳しい物になった。軽く怒られる程度だと考えていたのだろう三人は、それぞれ困惑したように顔を見合わせた。

「……相手が辺境伯と知ってたらもっと真剣に説明したんだが……確認を怠った俺が悪い。うん。そこは責めない」

「なんか、問題あるの?」

 首をかしげるサーシャに大きく頷いた。

「大問題だ。本来ならギルドが潰れてもおかしくないレベルの」

「はぁ!? なんでそんなことになるのよ!」

 噛み付いてくるアルカの横でリオが気付いたのか、目を見開いてフルカネルリを見た。あまりの事態に動揺して顔が青ざめている。

「セングルド辺境伯を、騙してしまった」

 サーシャも気付いて息を呑んだ。聞き耳を立てていた周りの仲間も同じく。もっと早く気付いてほしかった。

 分かってないのはアルカだけだ。

「だ、騙したのは悪いけど、リオも断るつもりだったんだから結果は一緒じゃない!」

「そうだな。そのまま話が終われば一緒だった。でも、エド……エドゥアルド様が来た。通常の状態でリオが歌えば、一発で違うとバレる。そしたら大問題だ。

 『牙』は辺境伯に対して誠実な態度を取らなかった。あー……平たく言えば、セングルド辺境伯を馬鹿にしたって事になるんだよ」

「そ、そんなつもりじゃなかったわよ!?」

「でも、騙すってのはそういうことだ。あーもー、どーーーしよーーー」

 頭を抱えてテーブルに突っ伏し、意味の無いうめき声を上げるフルカネルリに、3人は謝罪しても無意味とわかっているので飲み込み、だからといってかける言葉もなく、ただ黙り込んだ。


「『牙』の仲間にはできませんか?」


 後ろから聞こえた声に、一斉に振り返る。

 同時に見つめられて一瞬怯んだように身を引いたアークは、気を取り直してテーブルに人数分の飲み物を置きながら話し出す。

「仲間に引き込んでうやむや作戦です。いつものやつですね」

 暖かくなってきたからか、出されたのは麦茶だ。そういえば長い時間、何も飲んでいなかったことを思い出し、双子は同時に飲む。

 フルカネルリは黙り込んで考えに集中しており、それを心配そうにサーシャが見守っていた。

「それが一番なのかなぁ……」

 ポツリと漏らしたのはアルカなのか、リオなのか。

 どちらか判断がつかない声にサーシャが双子へと視線を向けた瞬間、

「――見合いは名指しか?」

「え?」

 フルカネルリがぽつりと問うた。

 唐突さに驚いていると、もう一度同じ問いを繰り返す。

「……いいえ。双子のどちらかと言われたので、宰相が私に行くようにと」

「え、何それ聞いてない」

「宰相からってだけで聞かないじゃない」

「そうだけどさ」

 フルカネルリの耳には双子の会話は聞こえていなかった。深く深く再び考えに没頭し、

「下手に小細工するより、素直に話して謝った方が良いと思うけどな」

 レグルスの意見に撃沈した。

「でも、最悪ギルド解散とかなるんじゃ……」

 少し怯えた言葉はアークだ。それをフルカネルリがテーブルに突っ伏したまま片手を振って否定する。

「家としては終わった話なのに、追いかけてるっては外聞が悪い。だから本当に個人的に来てるんだと思う。ちゃんと正直に話せば、分かってくれる相手だとも話してて思った」

「あんたさっきギルド解散かなって言ったじゃない」

 先ほど脅したのが効果が無いと知って、アルカが少し苛立ちをこめてフルカネルリの頭をつつく。整った爪が頭皮を刺して痛いので振り払いつつ身を起こす。

「本来ならって言っただろ。エドゥアルド様個人だけの問題なら、彼自身を説得すりゃ良い」

 ため息をついて説明を付け加えた。

 レグルスはおやつにクッキーを持ってきてくれたようで、テーブルの真ん中に置かれたそれを一つ囓る。

「……よし。今回はエドゥアルド様がとてもいい人だから、素直に謝る方向で行こう」

 いたいけな青年を騙してしまった罪悪感を感じるべきなのは双子とサーシャであって、自分ではない。

 自分が負うべき責任は、確認を怠ったことだ。

 そもそも二人は一国の王女なのだから、相手の地位もそれなりに高いことを念頭に置いておくべきだった。

 侯爵までは、一度断ったにもかかわらず個人で来るなど王族に対して不敬だ。と門前払いが出来る。

 だが、辺境伯の場合は困ったことになる。

「アルカ。今回のことがどんだけヤバいかをきちんと説明するから、覚えろ。今後同じ事態が起きたら、ガチでヤバい」

「……わかったわよ」

 二度同じ事を犯さないとは思うが、何が問題なのかを認識させておくことは無駄では無い。

「まず前提を確認するぞ。お前ら双子には王位継承権がない。何故だ?」

「それは私達が召喚士だからよ。召喚士の力は強大。故に制御のための勉強をしなきゃダメだから、政についてなんて学んでらんない。

 それに精神が荒れやすい政に関わって精神崩壊なんてして、魔法が使えないならいいんだけど、暴走なんてしたら目も当てられない。

 だから、王位継承権を最初から与えられていない」

「例外はあるよな?」

「ええ。召喚士としての力を失えば、王位継承権が改めて与えられる。踊れなくなる。歌えなくなる。魔力を失う。私達の場合は、私が歌えなくなる、リオが踊れなくなるってなれば二人とも王位継承権が与えられるわね」

「あとお前らのどっちかが嫁いでも与えられる。アルカが嫁げばリオに、リオが嫁げばアルカに与えられる」

「え!?」

 フルカネルリの補足にアルカが驚き、リオに顔を向ける。リオは知っていたようで、逆にアルカを驚いた顔で見ていた。

「だからリオ、フェステのこと避けてるの……?」

「彼は関係ありません!」

 アルカがすまなそうな表情でリオを見つめるが、向けられた彼女は全力で否定した。

 フェステとは『牙』に所属する冒険者だ。フルカネルリが『牙』に復活する少し前に所属した。魔導書を使った魔術師ではあるのだが、肉弾戦も得意とする一風変わった魔術師である。

 リオとの間で何があったのかは知らないが、誰に対しても穏やかなリオが、唯一感情を荒立てる相手である。

 しかしそれは嫌悪では無く、照れや意地や羞恥、好意を素直に認めたくないが故の攻撃性だと、フェステ以外の全員が理解している。

「あんな顔だけは良い本の虫、好きじゃありませんから!」

 顔を真っ赤にして全力で否定しているが、あまり説得力が無いと指摘してやっても良いだろうか。いや、話が逸れるのでやめておこう。


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