私の初恋は奴隷少女になった
『ん・・・』
視界が開ける。
まばゆい光が瞳をさす。
辺りを見渡す。
背中がガサガサする。
『ヒヒーン!』
『うわ!馬?!』
馬が目の前で口をパクパク言わせている。
ここはーー
糞尿のわずかな匂い。
藁の匂いがそこに混じる。
私は、馬小屋で寝ていた。
『匂いまで実装するなんてさすがね。』
スレイブユアセルフのゴーグルは鼻にもかかるようになっていたのはこの為か。
『しかしなんで、こんな馬小屋なんかに、、』
『お、お目覚めですか!!』
声の方を向く。
銀髪のロングヘアに、茶色の粗末な一枚のノースリーブの粗末な服を見に纏っている。
瞳は大きく、少しパンダ目だ。
うん、いいパンダ目だ。
『き、キミは?』
『私は、、ヨワです。あなたのお世話をするよう授かっております。』
『お世話?』
『ああ、、、この地下世界のルールというか、、その辺をお伝えするよう言われてます!』
『ああそうなんだ。』
『ここで話もなんですし、、あっちでご飯食べませんか?』
馬小屋を出ると隣は石造りの小屋のようなものがある。
中に入ると、木のテーブルとイス、そして石造りのかまどに何か、、シチューだろうか?
『今入れますね。座っていてください。』
促されるままに座る。
小さな体に大きな釜。
木ベラを両手で持って、体全体を使って、、あああんな小さな体で健気に。
『んしょ、んしょ。』
ああ、、、あんなに一生懸命に唇尖らせて、、アニメ口が、、、ああ、、
きゅんきゅんする。
『よし!できた!あ、飲みものはどうします?』
『にゃ、にゃにがあるのかなあ?』
『え・・・えっと、、搾りたての牛乳か井戸水ですが、、、』
『搾りたて・・・・その、ヨワちゃんが搾ったのかな??』
『ああ、、これから搾るんです。』
『じ、じゃあ、それください!』
『は、はあ。じゃあ、、待っていてください。』
『あ、ヨワちゃん。搾るの見学していい?』
『?別に構いませんが、、、』
ヨワと勝手口を出る。
『もぉ〜!』
『わっ!』
腰を抜かす。
出て目の前に乳牛の顔と泣き声。
『ああ、違さん、大丈夫ですか。』
『う、うん。ちょっとびっくりしただけだから、、』
『も!お客さま驚かせちゃ、ダメでしょ!めっ!』
『もぉ・・・・。』
ヨワに怒られた牛がうな垂れる。
てか、『めっ!』って・・・
あんな子が、、めっ!って・・・ギャップが、、
ああしかもふくれっ面。
ふくれっ面なんて、今日日拝めないぞ。
ああ画面スクショしたい。
スクショ機能があればなあ!!
『牛子ちゃん、お客さまに牛乳お出しするから、搾りとるからね!』
『もぉ・・・・』
牛子。
ストレート。
搾り取るのかあ。
私は自分の胸元を見る。
搾り取るならこちらでもと、思わず18禁なことを言いそうになるが、たぶん垢BANされるのでそっと思いの丈は胸にしまう。
『うーん!うーん!』
ヨワは指先に力を入れて、牛乳を搾り出した。
『全く、まだ出るでしょ!牛子!うーん!』
『もぉ〜』
ちょっとS。
私と同い年だが、少し童顔。
それでかわいい。
そんな子に『まだ出るでしょ。』なんて。
牛子になりたい。
牛子を見る。
『もぉ?』
心なしか少し口角が上がっているように見えた。
『『いただきまーす!』』
メインはヨワお手製のビーフシチューに、牛乳とバケット。
『うわっ、何これ!口に入れた瞬間にっ、肉がとろけっ、、ああ!バケットにつけたら!濃厚!!うまっ!!』
『えへへ、よかったです。』
ニコリと、微笑むヨワ。
天使かよ。
『あ、あの?私の顔に何かついてますか?』
『あ、いやっ!なんでもない、ご、ごめん。』
まずい見惚れていた。
シチューに集中する。
『ところで、、違さんはこの後は?』
『この後?』
『はい。地下世界に来た方は何か目的があって来られる方ばかりですから。』
『目的ね、、、』
目的か。
何だろうな。
ランカーになったけど、満たされなくて。
現実もつまらなくて。
何だろうな。
『あ、、ごめんなさい!何かまずいこと聞きました!?』
『いや、大丈夫だよ。あんまり目的はないかな。勢いで来た感じだよ。ゴブリンの首刎ねて金が手に入ってさ。金目に目が眩んだ感じかな。』
『・・・そうですか。』
ヨワの顔が曇ったように見えた。
気のせいか?
『ああ!ごめんなさい!お金は立派だと思いますよ!!』
何だろうな。
このヨワってNPC。
なんだか妙に人間くさいんだよな。
さすが、スレイブユアセルフだな。
ランカー様限定の高品質AIだろうか。
少し質問してみようかな。
『まあ、私は大した目的なんてないよ。ヨワはどうしてここに?』
『わ、私ですか。私は、、、生きていく為です。私に自由はないので、、こうやって役目を全うすれば、寝床と食事を与えられるので、、、』
『そ、そうなんだ。なんかーー大変だね。なんか、ゲームの世界でもいるよね。生活の為っていう、奴隷的思考。』
『・・・・。』
はっ、しまった。
ヨワが顔を伏せる。
私のいけない癖だ。
『あ、いや、ごめん。特に意味はないんだ。ごめん、生活の為に頑張ってるのさ、、そのとても、尊いよ。ごめん、私さ、表現下手でーーー』
『はい。そうです。』
『はい?』
ヨワは困ったように笑いこちらを見る。
そして絞り出すように声を出す。
『私、奴隷ですから。』