私はランカー様
『よっしゃあ!100万Gゲットぉ!』
レッドドラゴンが唸り声をあげて倒れる。
通常の冒険者なら、即死するくらいの相手だ。
それを1人で倒した。
ドラゴンクラスを倒すと、通知が全プレイヤーにくる。
ピロン!
ピロン!
『来た、来た来た!!』
VRゲーム『スレイブユアセルフ』の掲示板だ。
ランカーを晒すというタイトルのスレッドがある。
晒すと言っても、基本的には褒め称え、かつパーティーにスカウトするために使われている。
・tagaさん、またソロでドラゴン倒した?
・ランカーやばい
『ふふーん♪』
極上だ。
こういった書き込みこそ、至極のご褒美だ。
自分のことを書かれているので、
自分も投稿してみる。
・パーティー組めば最強じゃね?
・プロチーム来いや
私はこのゲームでランカーだ。
私のことを知らない人はいない。
キーボードをカタカタ叩きまくる。
他の人の書き込みを見る。
・ソロでドラゴンかあ。
・レベチだわ
・ついていくの大変。
書き込みはどんどん増えていく。
片手でポテトチップスを雑に掴む。
バリバリといつも以上に音を立てて食べ、
コーラで流し込む。
ゲームパットを握り直し、酒場へ行く。
『taga様、ようこそいらっしゃいました。今日はどうされますか?』
『いや、、特にブラブラしに来ただけだから。』
酒場は冒険者で賑わっている。
ガハガハと下卑た笑い声を上げながら酒を酌み交わすパーティー。
異性だけを侍らせるハーレムパーティー。
いろんなタイプのパーティーがいる。
私は、空いているすみっこの席に座る。
『おい、あれって・・・』
『ああ、ドラゴンを倒したランカー様だ。』
『ランカー様くらいになるとああやって席を1人で使えるからいいよな。』
『ねえ、あの人パーティーとか組んでないの?』
『シッ!その話題は・・・・。』
全て聴こえている。
皮肉たっぷりだ。
『おい、特上ステーキをくれ。』
『はい、かしこまりましたあ。』
酒場の給仕を呼び止め一番高い食事を頼む。
特上ステーキは、レベルを10あげられるチート級のアイテムだ。
『すげ!はじめて見たわ、特上ステーキ。』
『いやあ、ついてけねえなあ。』
『まだまだレベルあげるつもりなのね。』
『金持ちランカー様は違うわな。』
しばし待つ。
『お待たせしましたあ!』
テーブルとほぼ同じ大きさのステーキだ。
食べるだけでもMPを消費する劇薬だ。
私は剣士だから、MPはあっても仕方ない。
自分の剣で肉を切り刻み、口にそのまま運んでいく。
『うん、美味い。』
この劇薬を食しているときは、隙が生まれやすい。
だからか。
『食らえ!ランカー様を倒せば、経験値もごっそりいただけるぜ!』
弓矢が飛んでくる。
『遅いな。』
矢を避ける。
楽勝だ。
落ちた矢を拾う。
弓矢に装備を変える。
矢が来た方向に弓を番える。
『わっ!みんなやばいぞ!ランカーの弓だ!』
『防御フィールドを張って!』
『逃げろ!』
矢を放つ。
衝撃波が生じ、そのまま矢を打ってきた冒険者の額に当たる。
当たった瞬間、顔は割れ、上半身の3分の1が吹き飛んだ。
『ひっ、ひぃぃ!!』
『店主。この店は、こういう輩がいるのか。』
『いやあ、悪いね、ランカー様。自分の命は自分で守ってくれよ。』
はあ。
いつもと同じセリフを吐かれた。
冒険者が冒険者を襲うのはアリだ。
酒場だろうと宿屋だろうと、
なんでもあり。
特に警察組織が動くことはない。
だから基本的にはパーティーを組んで、自衛する。
本来はそうする。
『はあ、腹一杯だ。』
どよめく酒場を横目に金を払い、扉に手をかける。
一瞬、その手がぴたりと止まる。
『あんなお構いなしのKYだから、組みたくねえよなあ、、、、』
ずいぶんと店の端にいた、冒険者が呟いていた。
私は、そのまま扉を出た。
『うーんと、ゴブリンでも屠ろうかなあ。』
ゴブリンの巣窟は血だらけで、肉片がその辺に散らかっていた。
『つまらない。弱い。楽しくない。』
『ギィ。』
まだ生き残りがいた。
生き残りのゴブリンは、たぶん仲間が死んだのだろう。
近くにいた死骸の近くでギィギィ言っていた。
なんだか泣いているように、ギィギィと言っていた。
『NPCのくせに。』
こいつに剣を使うのはもったいない。
拳に力を込める。
当たるまでもなく、衝撃波で死ぬだろうけど。
ゴブリンの巣窟を出る。
巣窟を掃討してしまった。
空はすっかり暗くなり、満月が煌々と光る。
その光は私を照らすことはない。
私はただこの作られた空間で剣を振るうしかない。
それでもーーー
叫ばずにはいられなかった。
『わたしは、私は!私は!ランカー様だああああああああああああああああああああああ!!』