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前編

 この間、勤め先の会社の業界でイベントがあったので、仕事と研修と社員旅行を兼ねて、三十人くらいの同僚たちと一緒に夜行列車に乗って広西壮族自治区の省都・南寧なんねいまで行くことになった。

 中国では何度も夜行列車に乗っているけど、団体で乗るのは初めてだ。しかも、同僚は、日本人が一人いるだけであとは全員中国人。さて、どうなることやら楽しみだ。

 夕方、五時前に広東省の広州駅を出発。

 乗ったのは日本のB寝台にあたる硬臥車こうがしゃで、三段式ベッドがずらりとならんでいる。

 上段、中段、下段のどれが快適なのかは好みによるだろうけど、僕は中段が好きだ。上段だとのぼりおりするのが面倒だし、窓の外が見えない。おまけにエアコンの吹き出し口の真下なので、風がけっこうきつかったりする。車内をぎんぎんに冷やすの好きな車掌にあたったりすると、こちらは凍え死にしそうな思いを味わうはめになってしまう。下段はのぼりおりしなくていいので楽なのだが、消灯時間以外は誰でも坐っていいことになっているから、眠りたいのに横になれなかったりする。この点、中段ははしごをちょっとのぼればベッドに上がれるし、窓の外も見える。眠りたい時にはすぐに横になることができる。けっこう便利だ。僕に割り当てられた切符は下段だったので、同僚に交換してもらい中段で寝ることにした。

 すこしばかり雑談した後で、案の定、トランプが始まった。案の定と書いたのは、中国人団体客と乗り合わせるとかならずトランプをしている姿を見たからで、どうやらこれがお決まりらしい。

「日本の『大富豪』をやろうよ」

 と僕が言うと、中国人の同僚は興味津々にうなずいてくれた。

 大富豪には八切りやらしばりやら複雑なルールがたくさんあるけど、それはカットして、革命だけOKということにしておいた。彼らに説明するとわりと飲み込みが早い。どうしてだろうと思って訊いてみると、中国にも似たようなのがあるそうだ。もしかしたら、大富豪はマージャンみたいに中国から日本へ伝わったものなのかもしれない。「革命」なんていうルールがあるのも共産主義国家らしいし(もっとも、二十一世紀の中国で社会主義や共産主義なんてもう完全に過去のものだけど)。

 けっこう盛り上がった。

 ずっとド貧民から抜け出せない同僚が一人いて、彼は「席を替わってくれ、ここは風水が悪いから」なんて叫んで席を替わってもらうし、誰かが革命をやってみせるとみんな叫び声をあげてはしゃぐ。日本だと寝台車のなかで騒ぐのはためらわれるが、中国人はそんなことを気にしない。陽気に騒いで楽しんだ者が勝ちだ。

 ひとしきりトランプで遊んだあと、小腹が空いたので同僚と連れ立って食堂車へ行った。だけど、もう品切れで飲み物しか出せないと言われてしまった。食堂車では職員たちがそこかしこに坐り、食い散らかした皿を前にして楊枝で歯をほじっている。そんな姿を見ると割り切れない思いと食い物のなんとかを感じるが、ないものはしょうがない。すごすごと寝台車へ引き返すともう消灯していた。十時すぎだった。

 消灯してしまうとはしゃぎ声がぱったりやむ。

 ひそひそ声で話している人たちはやはりいるけど、たいていは大人しくベッドへ入って横になっている。はしゃぐべき時は思い切りはしゃいで、寝るべき時はさっさと寝る。わりと規則正しい生活を送る人たちだ。僕はベッドで横になってすぐに眠りに落ちた。

 翌朝、用を足しにトイレへ入ると、水が切れていた。ぼっとん式なので、水洗式ほどひどいことにはならないが、やはり水で流さないとたまってしまう。車掌がときどき、バケツに入れた水でざあっと流すのだが、なにせ朝なので次から次へとみんな用を足すから追いつかない。くさいけどがまんするしかない。くさいのはがまんできるけど、もれるのはがまんできないから。それはいいとして、手を洗えないのにはちょっと困った。自分でウェットティッシュを用意しておくべきだった。

 慌しく身支度しているうちに、朝の六時半頃、南国の雰囲気が漂う南寧駅へ到着した。乗車時間は約十二時間半。いつもは元気いっぱいの同僚たちもさすがに眠そうだった。

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