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若君は金平糖を贈ろうと思う。

 宗家からの急ぎの文を担う者達は街道町毎に、馬を替え駆け抜け、目的地を目指し、(あずま)へと戻る。四の宮の返事と五芒星に下がり藤の紋が組み合わされ描かれた、漆の塗りも艷やかな長持ちが藤色の組紐で括られた文箱と共に、西の丸屋敷へと運び込まれた。


 御殿に送った文を納めた色褪せた組紐が目を引く、漆がハゲハゲな箱と共に、一重を納めたこれまた、すっかり塗りが禿げ、金具が錆を浮かせている長持ちは、これでは駄目だと、一目で殿上人達を青ざめさせる効果は抜群だった。大急ぎで修繕方へと送られ、塗り直し、組紐も金具も新しくなり、薄れていた紋も銀泥でくっきり濃く描かれ、ピカピカ。


「若。西(さい)よりお返事で御座います」


 荷を受け取った帯刀が訪れた珍しく晴れ間が、領地に広がった午後。婚約が整った宣旨を受取る儀を近々催すとの知らせを受け、それが当然ながら松の丸屋敷が知ったと聞き、しばらくは屋敷に籠もろうかと鬱々と考えていた晴紀。


「速いな。戻りに合わせたのだな。四の宮殿は」


 その事にふと、姉と違う合理性のような、何かを持ち合わせているやもと、感じ取った。部屋仕えの小姓がえっちらおっちら、長持ちを運び込む。


「その様に思われます」

「なら良い」


 いや、母上様や先の姫宮を思い出せ。人形遊びに現をぬかしていた姫宮と、茶筒占いでガラガラやってる母上だぞ。西(さい)育ちの姫を侮るな。楽観的なそれを打ち消す晴紀。



 差し出された箱を開ければ、透かし模様が姫宮に相応しい料紙を取り出し広げた。書かれる文字には品性が宿ると思う晴紀は、なよやかな女手で書かれた文に、しなやかな強さを快く感じたのだが。


「は?帯刀、荷を開け!」

「はい。かしこまりました」


 小姓達が長持ちの蓋を開き、中身を確認をし収められていた、畳紙に包まれた物を畳の上にそろりとと取り出す。それを確認をした帯刀。


「着物のようですが」

「開けてみろ」

「はっ、かしこまりました」


 括られた紐を順々に解き、ハラリと広げられた。そこにあったのは、丁重に仕立て上げられた、男物の一重の着物。


「は?若。この布地は」

()が送ったそれだな」

「人形のご衣装にとの事でしたが」

「喜べ。帯刀、吾の着物を四の宮殿が手ずから縫って下さったぞ!」

「は?宮家の姫が?手ずから?」


 帯刀の戸惑いう声に、晴紀は。


「くくくく、ふふふ、わーはっはっはっ!」


 突如として高笑い。普段あまり見ぬ主の姿に、目を丸くし、眺める帯刀と小姓達。


『次の文には、寸法もお書き下さいませ候。』


 この一文が鬱々と婚儀に悩む、晴紀の何かに響いた。可笑しかった、声を立てて笑った。清々しかった、これまで形作っていた、人形遊びを飽きずに日がないちにち繰り返す、姉宮と対して変わらぬ妹宮の偶像が、粉々にぶち壊された。


「ふう。四の宮殿の事が知りたい。詳しい事を調べよ。それと、取り急ぎ本丸奥屋敷へ出向き、お郷の方様に、内々でお頼み申し上げたいことがあると伝えろ」


「かしこまりました」


 目を白黒させつつ帯刀は、命を受け部屋を下がる。晴紀は、心逸るままに文机に向かう。小姓の一人が慌てて墨を擦り始めた。


「返事を書きたいと思ったのは初めてだ。四の宮殿」


 小さく呟くと。さて、どうしようか、産まれて初めて好ましく想った姫に、どう返事をしたためようか、頬杖をつき、草稿を練り始めたが、気持ちのままに筆を走らせる。どう出そうか。戻りの者達は休ませないといけない。新たなる悩みが産まれる。


「そうか。町民の早飛脚に頼もう。住まいは御殿ではないことは、確かなのだ。調べたら解ることだろう」


 ふと、思いついた。


「そうだ。甘い物も添えよう。お郷の方様もお好きだ」



『ご機嫌麗しゅう。雨が多いのか、庭の池にて早くも  雨蛙が鳴き始めし候。如何お過ごしだろうか。


 御身自ら、針を持たれたとは感謝してもしきれぬ。とても上手く縫えており、素晴らしい。

 産まれて初めての事で、吾は上手く言葉が綴れぬ。


 それ程、嬉しい。寸法は残念ながら吾は知らぬのだ。問い合わせてから後で送る。


 大切にする。有り難う。甘い物を少し。お好きなら良いのだが。


                     はる』


  

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