097 決闘、ガルカザン・カザスタヌフ②
「デカ……すぎ、だろ……」
カズキの口から、意図せず言葉が漏れ出る。
視界を覆うようだったガルカザン・カザスタヌフの巨体に加え、彼の魂装によって出現した魂装武具が――巨大すぎた。
「デケェだろ? 俺はこれよりデケェのを見たことがねぇ」
カザスタヌフの魂装武具は――巨大な盾だ。
もはやそれは防具というより、壁だ。
「お前のはちんちくりんもいいとこだな。そんなんじゃ、俺は痛くも痒くもないぜ?」
対するカズキの右手は、短刀。
カズキは巨体の相手を自分が上回るには、機動性で攻めるべきだと考え、小回りの利くショートソードを右手に形作っていた。
しかしカザスタヌフの強大な魂力と、大きな筋肉を纏った身体を見せられると、確かに自分の魂装武器では、ダメージを与えられないかもしれないと感じた。
相手が、大きすぎる。
格闘技で言うなら、別階級の相手と対峙しているようなものだ。
「さぁ、はじめようぜ!」
言葉と同時に、カズキ目がけてタワーシールドに倒れてくる。
素早い動きでカズキは右に動き、盾による圧殺攻撃を回避する。
気を取り直し、大きな相手を打倒する方法を導き出すため、頭を回転させはじめる。
が。
「っ!!」
「油断すんなぁ!!」
開けた視界に飛んできたのは、カザスタヌフの巨大な右拳。
「つぅッ!!」
豪速に、剛腕がカズキの身体へと襲い掛かる。
全身に魂力を巡らせているため、致命傷には至らないが、膂力によって吹っ飛ばされる。
「おい、油断すんなって? おらぁ!!」
高速で飛んでいくカズキに、カザスタヌフは追撃を怠らない。
「あぶねッ!」
カザスタヌフは、あの巨大は盾をブーメランのように横投げしてきた。
壁のようなあの盾をぶん投げる膂力にまず驚くが、それで思考を停止するわけにもいかない。
ここは――死地だ。
高速回転する分厚い盾は、風を切り裂いて飛んでくる。
魂力を纏って飛んでくるカザスタヌフの盾は、魂力を全身に滾らせているカズキでも、クリーンヒットすれば致命傷となるのは目に見えていた。
「ぐぅぅ!」
空中で無理矢理身体を捻り、盾をギリギリで回避する。
巨大な盾は回転を緩めることなく、空気を抉ってどこかへ飛んでいった。
「これぐらいは躱してもらわねぇとな!」
盾の次は、カザスタヌフ本人が接近してくる。
大地を揺らすかのような力強い足取りで、大質量の巨体がカズキ目がけて飛んでくる。
着地し、体勢を整えたカズキは、迅速に迎撃態勢を作る。
「おら、食らいやがれ!!」
またも右拳を振りかぶるカザスタヌフ。
カズキは、巨大な右ストレートへの対処を迫られる。
「ぶっ飛んでばっかいられるか!」
カズキは咄嗟に、エルドラーク戦で見せた、両足を硬質化させてその場に踏ん張る技術を繰り出す。
瞬時に両足を硬質化し、地面に突き刺し、カザスタヌフの拳を受け止めようと試みる。
が。
「甘いな」
ニヤリと笑う、ガルカザン・カザスタヌフ。
右の拳を瞬時に引っ込め、そのまま盛り上がった肩を突き出し、カズキへと突進してきたのだった。
「まず――」
カザスタヌフの体当たりは、言わずもがな大質量である。
しかも、かなり速度もついている。
さらに、カズキが自らをその場に固定したせいで、一切その勢いと威力を“いなす”ことができないのだ。
「がっ……」
ズゴオオォォォォ――
カズキの短い悲鳴は、カザスタヌフの突進で起きた地鳴りにかき消される。
「カズキさんっ!」
「ルフィア、耐えて。決闘での他者の介入は、介入者に近しい者の敗北となるわ」
潰されてしまったのではないか、という恐怖に駆られて叫んだルフィアを、アルアが制止する。
固唾を飲み、見守ることしかできないルフィア。
噛んだ唇の端に、血が滲んでいた。
「がはッ」
高く舞った土埃が引くと、口から血反吐を零すカズキがいた。
かなりのダメージを受けている。
「久しぶりだな……魂装手術をしながら、戦うのは」
自分の身体を丁寧に、しかし素早く検分し、魂力によって回復を試みていく。
今のカズキにとっては、戦闘を継続しつつ魂装手術をすることも、容易になっていた。
「俺の体当たりを喰らって立ち上がるとは。カズキ、お前人間じゃねぇな」
ふらりと立ち上がったカズキを見て、カザスタヌフは口角を上げた。
その表情は小馬鹿にしているわけではなく、カズキのタフさを認めたようだった。
「さぁて、どんどんいこうぜ」
「……ああ、望むところだ」
カズキは口元の血を手の甲で拭い、カザスタヌフへ突っ込んでいく。
二人の目はギラギラと輝き、生気に満ち満ちていた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




