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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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095 順調な決闘行脚


「キミは強いな。私の負けだ」


 カズキの目の前で、一人の魔族が頭を下げる。

 動きに合わせて、カズキは構えていた拳を解く。


「こちらこそ、良い勉強になりました。ありがとうございます」


 差し出したカズキの左手に、相手の魔族は応えてくれた。

 握手した手に、ぐっと力を込める。


「すごい順調ね。これなら本当に、デーモニアの有力魔族全員を集められるかも」


 カズキと魔族の決闘を見届けていたアルアが、感心したように言った。


 今現在カズキは、魔族の国デーモニアを北から南へと全国行脚ぜんこくあんぎゃし、有力魔族に自らの力を認めさせるという試練をこなしている。


 はじめは乗り気でなかったカズキだったが、様々な特徴を持った魔族たちと拳を交えるうちに、かなりの戦闘経験を積めると確信し、前向きに取り組むようになっている。


 もはや、はじめの相手であったラモン・レモン氏だけが、ぞんざいに扱われたと言ってよかった。


 可哀想なまぐろである。


「なんていうか、魔族の人たち? 人たちって言うのもなんか変だけど、その、人間を嫌ってる割りに、戦ってみるとすぐ認めてくれるよな。なんで?」


 カズキは先の戦闘で乳酸の溜まった身体をストレッチでほぐしながら、アルアに訊ねた。


「そりゃ、魔族は強い者に従うのが本能だからよ。それが人間だろうが亜人だろうが、自分より力が上なら従うのが種の定めなのよ」


「ふーん、エルドラークが言ってたのって、そういうことなんだな。あ、じゃあ、なんでみんな、エルドラークに従ってるんだ? 全員とやり合った、てこと?」


 アルアの返答を聞き、カズキの頭にふと疑問が浮かぶ。


「ええ、決まってるでしょ。アイツ、ああ見えても最強なんだから」


 カズキの疑問に、アルアは事もなげに応える。


「……デレ、とかではないよな?」


「ちょ、ち、違うに決まってるでしょ!?」


 カズキの言葉に、アルアは顔を赤くして叫ぶ。


 実際にエルドラークと拳を交えたカズキの感覚から言えば、確かに自ら“最強”と名乗ってもいいだけのポテンシャルは、否応いやおうなく感じさせられた。


 まず、カズキですら会得しきれていない魂力チャクラによる空中浮遊。


 あれだけの戦いの中でも、操作コントロールを一切乱すことなく、ほぼ浮遊したまま戦い抜いていた。


 さらに、カズキを凌ぐほどの圧倒的魂力総量。


 身体に魂力をまとい続ける場合は、魂力を完全に身体から離すわけではないので、魂力が枯渇してしまうということは例外を除いてほぼない。


 しかし、身体を宙に浮かせるためには、体外へと魂力を放出し続ける必要がある。


 ということは、浮き続けている場合、常に多量の魂力を消費し続けている状態ということになるのだ。

 そんな状況で、エルドラークは余裕たっぷりに、決闘それ自体を楽しんでいた。


 皆から“魂力に愛されている”と評されるほどのカズキですら、エルドラークの領域には達することができていないのだった。


「次が最後、南の領土を治めている魔族、ガルカザン・カザスタヌフが相手ね」


 カズキの思考を他所に、アルアは次の決闘相手となる魔族の名を、思い出したように呟いた。


「でも、マジで次は気をつけて。ガルカザン・カザスタヌフは、未だに定期的にエドに挑戦してくるようなヤツだから。実際、かなり強いし」


 移動用の魂装道具カルマ・サーダンを調整しながら、アルアは言う。


「いや、強ければ強いだけありがたいよ。良い特訓になる。俺も、これだけ実戦経験を積ませてもらえて、かなりありがたいし」


 カズキは肩をほぐすように回しながら言葉を紡ぐ。

 その顔に、恐怖や不安といったものは一切うかがえない。


「ふーん、カズキったら、前向きなのね。巻き込んでおいてあれだけど、アタシもアタシで、ここまで上手くやってくれるとは思ってなかったわ。

 ぶっちゃけ、カズキが勝てない相手を城に呼んだところで、一緒に酒飲もうがなにしようが意味ないから、後々の面倒を潰しておく意味で、こんな感じのことをやってもらってんだけどね」


「うん、そんなことだろうと思ってたよ」


 悪びれる様子もなく言ってのけるアルア。

 カズキもそれをとがめることなく、受け入れている。


「ま、でも良い特訓になってるんなら、集大成って意味じゃ、一番いい相手かもね。――さ、準備できたわ」


 アルアは言い終えると、移動用の魂装道具をばさりと広げた。


 移動用の魂装道具は、端的に言えば“空飛ぶ絨毯じゅうたん”のような代物だった。


 ここに来る際にも使用し、カズキとルフィアはすっかり乗り方に慣れてきていた。


「全員乗った? じゃ、行きましょう」


 アルアの掛け声に合わせて、絨毯が宙に浮かぶ。


 振り落とされないよう、カズキとルフィアは布の端を掴む。


 ある程度の高さにまで昇ると、絨毯は目的地へと向かって動き出す。


 その速度はまるで、吹き荒ぶ風のように感じられた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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