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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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094 有力魔族の一人、ラモン・レモン氏の悲哀


「どうしてこうなった……」


 カズキの嘆きの呟きが、デーモニアの大地にポツリと零れる。

 空はカズキの憂鬱ゆううつな気持ちを反映したような曇り空だ。


 今カズキがいるのは、デーモニアの広大な領土の最北端、ランギィバ半島の突端である。


 打ち寄せる波が岩肌を削り取ることで、反り返るような断崖絶壁が形成されている。


「貴様が、エルドラーク氏が認めたという人間か。ふん、見るからに貧弱そうであるが」


 崖に叩きつけられる波の音でかき消えることもなく、カズキの耳に届いた声。


 声の主はカズキの眼前で、腕組をしている。


 さらに、槍のような大きなもりも二本、持っている。


 彼はなんと“腕”が四本あるのだった。


 他にも身体的特徴が様々あり、カズキはまじまじとその身体を眺めた。


 下半身は端的に表すならば、大きなたこだ。

 八本の吸盤つきの脚が、ウネウネと四方八方にうねっている。


 上半身はまさに筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な人間の身体をしていたが、一番目を引くのは頭だ。


 なぜか、彼の頭は魚だった。

 魚が一匹、そのまま首の上に乗っかっている感じだ。


 ……まぐろっぽい。


「ふん、吾輩の威圧感に腰を抜かす寸前のようだな。最低限の見る目はあるようだな」


「……マグロが、喋ってる」


 カズキが彼を見たまま固まっていると、魚頭の口から、堅い雰囲気をまとった言葉が紡がれる。


 その口調が、カズキには笑えて仕方なかった。


 鮪の感情がない目が、逆におもしろい。


「カズキ、彼が北の領土を治めているラモン・レモン氏よ。彼は海にいられなくなった生物が、魂力チャクラによって結合し変異した魔族よ。海洋由来の高い魂力を持っているから、油断しないでね」


 決闘の審判役を買って出て、カズキとラモン氏の間に立っていたアルアが、饒舌じょうぜつに説明する。


「カズキさん、ファイトです!」


 カズキの後方、遠くの方では、ルフィアが声援を飛ばしてくれている。


「さぁ、構えるがいい人間。吾輩の銛の、さびにしてくれようぞ!」


「りょ、了解です」


 ラモン・レモン氏の渋い声と堅苦しい物言いに引っ張られ、思わず敬語で返してしまうカズキ。

 言いながら、戦闘態勢を整えていく。


「エルドラーク氏の友人となったとは言え、デーモニア北の領土を治めているこの吾輩が、憎き人間の小童一匹のため……そう、こんな些事に時間を割けるほど暇ではないのでな。

 ぬふふ、アルア氏、吾輩の雄姿、その目によく焼きつけておいてくれたまえよ」


「あーはいはい」


 が、ラモン氏は突然アルアへと視線を向け、おごそかさなど一切ない、軽薄な声を出した。


 ……うん、そういうことか。


 カズキはラモン氏が、アルアに惚れており、イイトコロを見せたいのだと理解した。

 さらに、アルアの適当にあしらう態度に、アルアが一切ラモン氏に興味がないことまでわかった。


 どんまいです、マグロさん。


「ふぅ……なんにせよ、早いとこ済ませるか」


 カズキは全くもって決闘に気乗りしなかったが、友人となったエルドラークのためだと言い聞かせ、腰を低くし構えを取った。


 全身の魂力が、波打つように脈動する。


 カズキはフシンとの修行以来、日頃から常時、均等な魂力を全身にまとい続けるようになっていた。

 そのため、いざというときには一瞬で臨戦態勢に入れるほどに、魂力がみなぎっているのだった。


「む、むむ……よ、予想以上の魂力総量だな。この吾輩にも匹敵、いやそれ以上…………え、ちょ、これ、やばくないか?」


 たぎりはじめたカズキの魂力を感じ取ったのか、眼前のラモン氏は魚頭を右へ左へ振り回しはじめる。

 感情のないはずの鮪の目に、明らかに焦りの色が浮かんでいる。


 だって台詞の後半、素になってるし。


「よーし準備整ったみたいね。それじゃ、両者共に真剣勝負を心掛けるようにね。構え――」


「ちょちょ、ちょっとアルア氏? 負け負け、吾輩の負け、行くから、デーモニア城。

 もう『些事に時間を割けるほど暇ではない』とか言わないから。言ってみたかっただけだから、些事って!」


 圧倒的なカズキの魂力総量に、焦りどころか敗北宣言のラモン氏の声を完全に無視し、アルアが決闘の開始を合図する。


 カズキも、慌てふためくラモン氏をスルーし、拳に力を込める。


「――はじめ!」


「よっ」


 カズキは軽い調子で、右手を一閃する。



「あひぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃいいぃぃぃぃ…………」



 奇声を上げて、ラモン氏はどこかへ吹き飛んでいく。

 カズキの軽い一撃で、ラモン氏のプライドはズタズタに砕け散った。


 彼が消えていった空の彼方を見もせずに、アルアが欠伸を噛み殺していた。


 カズキはラモン氏の悲哀に敬意を表し、空の彼方に敬礼した。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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