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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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091 対等以上の相手


「オラオラァー!」


「ぐっ?!」


 エルドラークの空中殺法を、カズキが辛うじていなす。

 しかし身体の離れ際、右の頬に一撃をもらってしまい、口の端が切れる。


 デーモニア城、屋上庭園。


 そこで繰り広げられているのは、カズキと魔族の王エドワルド・エルドラークによる、決闘だ。


 魔族の通過儀礼とも言える力比べは、常人が決して立ち入れない領域にまで“盛り上がって”いた。


「おーおー、オレの体術をここまで出させたのはお前がはじめてだよ、ちんちくりん」


 距離を取り、相変わらず宙に浮いたまま、エルドラークはにやけ顔で言い放つ。


 全身に魂力チャクラまとっているカズキの口が切れるということは、エルドラークがカズキ以上の平均値で、魂力を全身に行き渡らせているということを意味していた。


 異常なほどに魂力に愛され、無尽蔵とも思える魂力総量を誇るカズキ。


 しかし、それ以上の魂力を常時身体から放出し続けているということは――エルドラークは、カズキ以上の魂力総量を持っている可能性があった。


「俺はちんちくりんじゃない……カズキ・トウワだ」


 口元を手の甲で拭ってから、カズキは力強く言った。

 言葉を聞いたエルドラークが、さぞおかしそうに口角を引き上げる。


「名前で呼んでほしけりゃ、もっと力を示してみろよ――なあ、ちんちくりん二号?」


「望むところだッ!」


 カズキは瞬時に下半身の魂力を増加させ、跳躍する。


 打ち出された弾丸のように一直線に、浮遊するエルドラークへと突っ込む。


「また突進とは、愚直だな!」


 カズキを愚直、とあざけりつつも、口元の笑みを消さぬまま、受けて立とうと宙で体勢を整えるエルドラーク。

 あたかもそれは、自らもカズキと同じようなものである、ということを誇示しているかのように見えた。


「セイっ!」


 カズキは、突進のスピードを乗せた右ストレートを繰り出す。

 エルドラークはその拳を左掌で、真正面から受け止める。


 当然、生半可な魂力しか持たない者がそんなことを試みれば、左手はたちまち吹っ飛んでいるであろう。


 が――エルドラークは難なく、カズキのパンチを受け止めた。



「どーしたぁ? こんなもんかよ、お前のパンチはぁ!?」


「くそ!」


 カズキの魂装カルマの右腕を掴んだまま、挑発的に煽ってくるエルドラーク。

 口元には絶えず笑みが浮かび、この戦いを楽しんでいる様子がうかがえた。


「もう限界かぁ? あぁん? おらっ!」


「おわっ!?」


 エルドラークはカズキの右手をぐっと引き、空いている右手で頭を鷲掴わしづかみにしてきた。

 魔族の王により、カズキの頭がアイアンクローされる。


 カズキの頭を右手で固定したまま、エルドラークは空高く舞い上がった。


「これで死んじまうんじゃねぇぞぉぉ!!」


「ぐ、ぁぁ……!」


 ある程度の高さまで上昇すると、一気に急降下するエルドラーク。

 カズキは右手を振りほどこうと必死に抵抗する。


 だが、その強靭な握力によってホールドから逃れることができない。


 そして、空からの勢いを維持したまま、エルドラークはカズキの頭を――


 地面に叩きつけた。


 ゴゴゴ、という地鳴りを伴いながら、庭園中央にクレーターのようなひび割れが出来上がっていく。


 遠く、出入り口付近のベンチで状況を見守っていたルフィアが、口元を押さえて立ち上がっている。


「……やべ、つい調子に乗ってやりすぎちまったか?」


 攻撃のあと、再び宙へと離脱したエルドラークが、カズキが“墜落”した地点を見下ろしながら言った。

 その顔には、若干の焦りの色が浮かんでいる。


 が。


「……おーおー、やるねぇ」


 砂煙の引いた落下地点を視認したエルドラークは、表情を変える。

 口元から牙を覗かせ、心底楽しそうに笑う。


 庭園に即席で出来上がった巨大なクレーターの中央には――カズキが立っていた。


「…………俺の“とっておき”、見せてやる」


 カズキは呟き、小さく笑う。


 そして態勢を低くし、右肘を腰の辺りで引くような格好で、力を溜める。


 岩や亀裂などで切ったのか、額からは血が流れ出ていた。


「つくづく、楽しめるヤツじゃねーか。オレもここまでくりゃ、応えないわけにゃいかなくなっちまうぜ」


 巨大な魂力を収斂しゅうれんさせていくカズキを見て、空中のエルドラークは凄惨な笑みを見せた。


 カズキにはその顔がなぜか、ルタの凶暴な笑みに似ているように感じられた。


「さぁ、オレを楽しませろよ!!」


 叫び、最高速でカズキの元へ突っ込んでくるエルドラーク。


 カズキは空から矢のように飛んでくる魔族の王を見据えながら、さらに腰を低く、右肘を引いて構えた。



魂装カルマ――爆破拳エクストレート



 両者の衝突の瞬間――魂力が、震えた。


「――ッッ!?」


 爆裂的で炸裂的な魂力の奔流ほんりゅうが、庭園に溢れ尽くした。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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