089 会議室にて
「お前が“異界の勇者”ってわけか……そりゃ、ジプロニカとしちゃおもしろくないわな。こんなちんちくりんじゃよ」
円卓を挟んだ反対側、カズキの正面に座るエルドラークは、肩を揺らして笑った。
カズキの隣に座るルフィアは、カズキが笑われておもしろくないのか、ムスっとした表情を隠すつもりもない様子だった。
「まぁ、召喚されたばっかりの頃は、俺自身全然強くなかったけど……だからって、勝手に呼び寄せておいてあんな仕打ちをされちゃ、俺だって腹が立つ」
カズキは素直に、当時の自分の感情を吐露した。
自分の右手――すでに魂装の右手を出していることが当たり前となっている――を、無意識に眺める。
「おーおー、その言い方だと、今は強いって言ってるように聞こえるが?」
「カズキさんは強いです! カズキさん以上に、魂力に愛されている人間はいません!!」
挑発的なエルドラークの言葉に応えたのは、カズキではなくルフィアだった。
食い気味にフォローされ、カズキは妙に気恥ずかしくなる。
「まぁ、ルタや『星の声を聞く民』の長にも鍛えてもらったし……そこそこだとは思いたい」
頬をポリポリと掻きながら、カズキは照れ臭さを感じたまま言った。
「星の声を聞く民の長って、あのフシン・アヌザァイか?」
カズキの言葉に反応を示したのは、エルドラークの隣に座るシャックだ。
長い牙が覗く口元が驚きに歪んでいる。
「魂力操作の精度なら世界一とされている、あのフシン・アヌザァイの薫陶を受けていたとは……キミも、つくづく侮れないな」
シャックの言葉によって、魔族にまでフシンの名が轟いていることがわかった。
ルタにしてもフシンにしても、自らの師匠筋と言える人物たちが一角の者であると知り、カズキは妙に鼻が高くなるような感覚になった。
「あーそうそう。俺たち、そのフシンに言われてこっちの大陸に来たんだ。今のところの目的は、ルタの仲間を探そうってことなんだけど……」
フシンの話が出たので、カズキは何気なく自分たちの目的を話したのだが――カズキの言葉で、エルドラークらの顔色が、一気に怪訝なものに変わる。
「……ドラゴン族は、絶滅した。こっちの大陸にだって、いやしねーよ」
そっぽを向くかのように、エルドラークは突っぱねた。
両側に座るシャックとアルアも、どこか沈痛な表情を浮かべて、唇を噛んでいる。
「でも、フシンさんがこっちの大陸に行くようにって、わたしたちを導いてくれたんです」
ルフィアも必死に訴えかける。
が、魔族の三人は目を逸らすように、沈黙を貫くだけだった。
対面の三人の様子を見たカズキは、確信する。
――魔族とドラゴン族の間には、なにかあったのかもしれない。
「……わかった。なんにせよ、俺たちはこっちの大陸でやっていかなくちゃならない。ルタと旧知ってことだし、色々と助けてもらえるとありがたい」
カズキは、核心を避けつつ、自分たちの願いを言った。
「ま、ルタの連れってわかった時点で、こっちもそのつもりさ。なにより、魔族は人間を毛嫌いしてるもんでな。お前をデーモニアの街中に放っちまうと、色々といらん問題が起こりそうでめんどくせーし」
「ありがとう。助かるよ」
エルドラークの反応に、カズキは素直に礼を言う。
「んじゃ、一応……アレ、やっとくか。魔族の通過儀礼だしな」
エルドラークはカズキの礼を受け取り、両側のシャックとアルアに目配せをした。
目配せに合わせ、二人も頷きを返している。
「アレって?」
先が読めないカズキが、何気なく質問する。
と。
「ん、オレと決闘」
「……はぁ!?」
告げられたのは、あまりに物騒な言葉だった。
こうして、カズキとエルドラークの決闘が、急遽行われることとなった。
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