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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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087 ルタ、暴れる


「エドワルドォォォォ!!」


「ルタ!?」


 魔族の王、エドワルド・エルドラークを認識した途端、鬼の形相でルタが飛び出した。

 咄嗟にカズキは止めようと手を伸ばすが、間に合わない。


「このヤロオオォォォォォ!!」


 目にも止まらぬ電撃的な速度でエルドラークへと突っ込んでいったルタは、接近中に手枷を力尽くで引き裂き、間髪入れずに右ストレートを繰り出す。


 しかし。


「おいおい、相変わらずだな。もう少し節度ってもんをわきまえたらどうだ?」


 ルタの拳を難なく受け止め、魔族の王は不敵に笑う。


「ぐぬぬぬぬ……」


「おーおー、五百年以上経ってもじゃじゃ馬ぶりは健在かよ」


「うがぁ!!」


「おっと」


 右手を掴まれたルタが、続けて左のハイキックを放つ。


 が。


 やはり、エルドラークは簡単に受け流す。

 流麗な体捌きは、百戦錬磨の戦闘経験を感じさせた。


「気持ちは分かるがやめとけ。今のお前じゃ、まだオレには勝てんよ」


「クソ! クソがぁぁ!!」


 エルドラークの諭すような口調に、牙をむき出しにして我を忘れたように怒り狂うルタ。


 カズキは、常に冷静で理知的なルタが、ここまで理性を失う様を見て少なくないショックを受けていた。


 しかし同時に、これだけ彼女が怒り狂う理由が二人の間には因縁としてあるのであろうこともわかった。


「おい人間。お前がこいつをここに連れて来たのか?」


 思考が入り組みつつあったカズキの耳に、エルドラークの低音の声が届く。

 ルタの右腕と左足をホールドしたまま、表情一つ変えず問いかけてくる。


「……ああ。ルタは俺に、この世界で生きて行く術を教えてくれた」


「ほう、このちんちくりんがねぇ」


「うがぁぁぁ!!」


「暴れるなっつの」


 言ったあとすぐ、エルドラークはルタの目を真っ直ぐに見つめはじめた。


「ぐ……き、きさ、ま……」


「眠っとけ」


 エルドラークの切れ長の目が、ルタの瞳を射抜く。


 数秒後、ルタはまぶたが重くなってきたのか、目がとろんとしてくる。

 眠気に襲われているのは他人から見ても明らかで、今にも眠ってしまいそうだった。


 そして。


「すぅ……すぅ……」


 最後には目を閉じ、眠りへといざなわれてしまった。


 催眠術かなにかのたぐいかと、カズキはエルドラークへの警戒心を強める。


「ルタになにをした?」


 手枷を魂力チャクラの放出によって外そうと試みつつ、腰を低くして構える。

 カズキの動きに合わせて、ルフィアも体勢を整える。


「おーおー、さすが、ルタに調教されてるだけあるわ。喧嘩っ早いったらねぇ」


 魔族の王は、カズキの牽制けんせいを一切意に介することなく言ってのける。

 口元には笑みすら浮かんでいた。


「話の邪魔になるから、ちょっと眠ってもらっただけだ。心配すんな、乱暴なんてしねーし、おめぇらと事を構える気もさらさらねーよ」


「……?」


「ここじゃなんだ、場所を変えよう。一応、こんな見せかけだけの城でも、会議室ぐれーはあるからよ。ついてきな」


 言うと、エルドラークはルタを「よっと」とお姫様抱っこし、そのまま部屋を出て行ってしまう。

 悠長な様子に、カズキとルフィアは肩の力が抜ける。


 二人が顔を見合わせ、首を傾げていると。


「はぁ……驚かせてすまない。本来なら、もっとしっかりとした手続きを経て、公的に話す場を設けるべきなのだが……如何いかんせん、本人が常にあの調子でね。申し訳ないのだが、付き合ってやってくれ」


 困っていたカズキらの隣に、金髪牙男が並びながら言う。

 言外には、彼も色々と苦労させられているというのがありありと感じられた。


「まったく、アタシらの苦労も少しは考えてほしいわよね……」


 奥の部屋へ、王を起こしに行っていた赤髪の女魔族も、カズキらの隣に並ぶ。

 肩を自分で揉みほぐしながら、溜め息を吐いている。


「なんにせよ、エドがキミたちと対話を持つと決めたのならば、我々も従う。手を出してくれ」


 言われるがまま、カズキとルフィアが手を出すと、金髪牙男は、瞬時に手枷を外してくれた。


「よし、これでいい。おっと、自己紹介がまだだったな。私はシャック・ルルフレード。エド――魔族の王、エドワルド・エルドラークの側近として働いている。ここまでの非礼を詫びたい、すまなかった」


 先程までの緊張感を醸し出す雰囲気とは異なり、金髪牙男――シャック・ルルフレードは、柔和な表情でカズキらに頭を下げた。


「い、いいよ。全然気にしてないし。な?」


「え、ええ」


 カズキとルフィアは、シャックの礼儀正しさに面食らうばかりだった。


「アタシも自己紹介しちゃおうっと。アタシ、アルア・アルマグド。まぁ、シャックがアイツの右腕だとしたら、アタシは左腕って感じかしらね。深い意味はないけど」


 赤髪の女魔族――アルア・アルマグドが、赤い睫毛を揺らして微笑みかける。


 艶っぽい表情に、思わずカズキがたじろぐ。

 それに気づいたルフィアが、若干口を尖らせた。


「さ、会議室まで案内しよう」


 シャックに促され、カズキとルフィアは王の間を出て、会議室へと向かった。


 魔族の長との、対話がはじまろうとしていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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