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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第三章 魔族交流編

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085 魔族との邂逅


 真っ白な光で埋め尽くされた視界から、ゆっくりと白光が引いていく。


 カズキはゆっくりと瞼を上げ、目を慣れさせていった。

 ざっと周りを見ると、自分たちが使用した姿見の魂装道具カルマ・サーダンは、大樹の幹にくくりつけられていた。


 入り組んだ木の根を踏み分けつつ、足場の良いところまで進む。


「ここが……新大陸か?」


 平らな草地まで歩を進め、周囲へ視線を回したカズキが、誰にともなく問う。


 眼前に広がっているのは、深い霧に覆われた森だ。

 霧深いせいで、それ以上詳細なことはあまりわからなかった。


「カズキ、あそこに水源があるぞ」


 ルタの指し示す先へよく目を凝らすと、確かに大きな水面があるのがわかった。

 波は立っておらず、端が見通せないところを見るに、かなりの面積を誇っているようだ。


 カズキはそういった状況から、自分たちが湖畔にいるのだろうと推察した。


 さらに周囲をよく観察すると、木々は全て微量の魂力チャクラを湛えており、かなり魂力濃度の高い場所であることも判明した。


 カズキは静かに右眼を閉じ、フシンにもらった布で目隠しをしていた左眼――魂装カルマの義眼を開放する。


「かなり、魂力の濃度が高いな。元いた大陸ではこんな風に“える”ことはなかったから、やっぱり俺たちは海を渡ることができたらしい」


 ルタとルフィアに聞こえるように、カズキは事実を伝える。

 各々に周辺の状況を確認していた二人が、カズキの方を振り向いて頷く。


 カズキは再び、左眼を黒い布で覆った。


「……ん?」


 しかし、すぐに周辺の魂力が揺れ動くのを感じる。


 木々がざわめき、生暖かい風が吹き荒ぶ。


「ルタ、ルフィア。俺の後ろに来てくれ。――誰か来る」


 何者かの存在、魂力の接近を感じ取ったカズキが、周辺観察を続けていたルタとルフィアを呼ぶ。

 二人はすかさず、カズキの背後に回る。


 と。


「「「っ!?」」」


 カズキが瞬きをした一瞬の間に、目の前に“人垣”が現れた。ルタとルフィアも、カズキの背後で仰天している気配があった。


 どうやら、大勢が魂装道具を使って移動してきたようだ。


 ただ、人垣とは言っても、それは“人々による垣”ではなかった。


 並んだ者たちの姿は、どことなく獣のようであったり、身体が歪な形状をしていたり、手足が六本以上存在したりと、多種多様な見た目をしていた。

 良く言えば色とりどり、悪く言えばかなり不気味な集団と感じられた。


 それを視認したカズキの脳裏に、フシンの予言めいた言葉が蘇る。


 まさか……これが“魔族”?


 人垣の中央、髪を逆立てたガタイの良い男――カズキは古風なヤンキーっぽいなと感じた――が、羽織ったマントを翻しながら一歩進み出た。

 男は豪華な鎧を着て、他の者たちよりも身なりがしっかりしている印象だ。

 その上、見た目はほとんど人間と変わらない。


 口元――その口から、口中に仕舞い切れない“牙”が生えていること以外は。


 金髪牙男の身体から迸る魂力を受けて、カズキの背筋を悪寒が走る。

 それだけで、男が只者でないことが重々感じられた。


「ここに“部外者”が来たのも何百年ぶりか……貴様、人間だな?」


 男は鋭い目つきで、カズキを睨みつける。


 肉食の野生動物のようなその目つきに、カズキは思わず威圧される。

 こめかみを一筋、冷や汗が伝う。


「こやつは人間じゃ。だが、貴様らの考える一般的な人類とは違う。

 わしの許可なくこやつをどうにかしようというものなら、タダではおかぬ――のう、“野蛮な魔族ども”よ」


 カズキの隣からルタが一歩進み出て、どこか挑発的な調子で言う。

 未踏の地でも、ルタは一切物怖じしている様子はない。


「貴様っ!!」


 ルタの言葉に対して、男の後ろ、集団の方が騒ぎ出す。


「黙れ!」


「っ……!」


 しかし、金髪牙男の一喝により、瞬時に喧騒は収まる。

 威圧感と統率能力の高さが、窺い知れた。


「まさか、貴様はドラゴン族なのか?」


「いかにも。ドラゴン族の正当なる王位継承者、ルタリスア・I・アイシュワイアじゃ」


「ルタリスア……!」


 ルタの名を聞いた男の目が、驚きで見開かれる。

 驚かれた当の本人は、ドヤ顔で薄い胸を張って仁王立ちしたままだ。


「……それを聞いてしまったら、なおさら貴様らを自由にしておくわけにはいかないな。全員拘束しろ」


「な、なんでそうなるんだよ!?」


 金髪牙男の指示で、長い触手が幾重にも伸びた、まるでメデューサのような姿の魔物が進み出てくる。

 メデューサと入れ違いに金髪牙男はカズキらに背を向け、話は終わりと言わんばかりに歩き出す。


 カズキはただ拘束されてたまるものかと身構える。


 が。


「悪いことは言わない。黙ってついてくる方が身のためだ」


 振り向き様に発せられた男の威圧感により、カズキの身体が硬直してしまう。


「心配するな、獲って食おうなどとは思っていない。我々は確かに魔族だが、対話もできぬ“野蛮な魔族”ではないのでな」


 金髪牙男は半ば殺気のような鋭い魂力を発散し、カズキらを牽制していた。

 ルタとルフィアも、男の強さと威圧感を正しく理解していたため、無用な抵抗の無意味さを悟り、構えを解いた。


 こうしてカズキたちは、新大陸到着早々、魔族の集団に拉致されることとなった。


 波乱含みな展開を暗示してか、東の空で雨雲がうごめいていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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