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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第二章 大陸横断編

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084 いざ、新大陸への旅立ち


 石灰のような小さな砂粒が、柔らかい風に乗って舞っていく。


 ストーン・ドラゴンの砕け散った残骸は、先程まで暴れていた姿とは打って変わり、やけに美しくカズキらの目に映った。


「……終わったな」


 カズキは地についていた両手を上げ、誰にともなくつぶやく。


「痛っ」


 腕を上げた瞬間、両肩から肘の辺りにかけてがズキズキと痛む。

 見ると、高温の炎によって両腕が焼けただれていた。


「カズキ!」「カズキさん!!」


 カズキの状態を確認したルタとルフィアが、一目散に近寄ってくる。


 大したことない、と笑みを返そうと試みるカズキだったが、腕から伝わる鈍痛は無視できるようなものではなく、思わず口元は食いしばるような形に歪められる。


「カズキさん、動かさないでください」


「ルフィア、大丈夫だ。そんなに心配しなくても……」


「ダメです。カズキさんはいつもいつも無理する癖があります。また無理して何日も眠ってしまったら、わたしは絶対許しませんから」


「……はい、ごめんなさい」


 ルフィアに強く言われ、カズキは頭を垂れて謝った。


 そんな二人の様子を見て、ルタが八重歯を覗かせて笑っている。


「くっく、すっかり尻に敷かれておるのう」


「ほっとけ」


 そんなルタとカズキのやり取りを意に介さず、ルフィアはフシンから伝授された回復術を試みる。


「カズキさん、腕、そのままで」


「うん」


 だらりと垂れたカズキの両腕に、ルフィアが触れるか触れないかのギリギリに手を伸ばす。

 ルフィアの手から、じんわりと緑色の光が滲んでくる。


「うぅ……」


「ルフィア、あんまり無理するなよ。俺自身の魂力操作チャクラ・コントロールで、ある程度のところまでなら回復させられるし」


「ちょっと黙っててください」


「は、はい」


 再びルフィアに強く言われ、カズキはおずおずと引き下がる。

 またもルタが、くつくつと笑っていた。


「えい……!」


 ルフィアの両手から発せられた魂力の光が、焼け爛れたカズキの両腕を癒していく。

 痛々しい火傷の痕が消え、血色の良い肌の質感が戻ってくる。


「はぁ……はぁ……ど、どうですか?」


 額に汗したルフィアが、肩で息をしながら訊いてくる。

 カズキは両腕を肩から回し、痛みの有無を確認した。


「――うん、いいよ。直ってる! すげーよ、ルフィア。ありがとう!」


「よかったぁ……また、カズキさんの役に立てた」


 額を拭いながら、ルフィアは満面の笑みを見せてくれる。


 実は少しだけ肩の辺りに痛みが残っていたカズキだったが、その美しい笑みを見て、そんなものは吹っ飛んでしまう。


「カズキ、あれを見ろ」


 と、そこで周囲を見回していたルタが、カズキとルフィアを呼ぶ。


 視線を向けると、ルタの足元には二つの大きな姿見が転がっていた。


 カズキはその鏡に見覚えがあった。

 転送用の魂装道具カルマ・サーダン――自らがオブリビオンに捨てられた際に使用されたものに酷似していた。


「ついに、違う大陸に行けるってことか」


 立ち上がって魂装道具に近づいたカズキが、鏡面を確認しながら言う。


「でも、これ……片方割れてしまってますね」


「確かに……割れていない方に飛び込むでいいのかの?」


 二つの大きな鏡、その片方は大きくひび割れていた。

 割れた鏡はいかにも不吉で、いやが上にも忌避感を煽ってくる。


 そのため三人は、ヒビのない姿見の方へと進むことに決めた。


「そういえば、あのストーン・ドラゴンはルタの同族ではないのか?」


 出発の支度を整えながら、カズキがルタに訊ねる。


「愚問じゃ。あれは先祖の代に造られた、我が一族を模した石像じゃ。

 我が先祖はあれを人類に与え、崇め奉るよう言い伝えていたと聞くが、恐らくはそれを魂装道具などで稼働するようにして、迷宮を護らせておったのじゃろうて」


「そっか。偶像崇拝みたいなもんか」


 カズキの疑問に、ルタが淀みなく答える。


 返答するルタの様子を見て、カズキはまだまだ、ルタの同族を探す旅は続くのだと実感した。


「んじゃ、次こそは石像じゃなく、本物に出会いたいな」


 旅支度を終え、大きな革袋を抱えなおしたカズキが言う。


 その荷物は、フシンら星の声を聞く民が整え、魂装道具によって小さく収納してくれていた物だった。


「二人とも、準備はいいか?」


「うむ」「はい」


 カズキのかけ声に、ルタとルフィアが威勢よく頷く。


 二人の顔を順繰りに見やり、カズキは鏡に映った自分の顔へ視線を向けた。


「それじゃ、行こうか――新大陸へ」


 鏡の中、カズキ、ルタ、ルフィアの三人が、決意に満ちた顔で笑っていた。


 踏み出した三人を、光が包んでいった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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