083 クーパ地下大洞窟⑫ 決着!?
「これなら……どうだ!?」
カズキは叫びながら、両手から地面に多量の魂力を流し込んでいく。
彼の周囲の床が、瞬く間に青銅色に輝き出す。
輝きは一筋の線となり、真っ直ぐにストーン・ドラゴンの元へと伸びていく。
「ギギィアアアアアアアアアアア!?」
自らへ向けられた魂力に慄いたのか、一層甲高い叫びを響かせるストーン・ドラゴン。
足元目がけて伸びてくる光の線を向けて、火炎を吐き出す。
赤く高い火柱がいくつも上がるが――それでも、光の線は止まらない。
「捕まえたぞ!」
カズキの元から伸びた魂力の光が、ついにストーン・ドラゴンの足元と一直線に繋がる。
その間の床は所々が火炎によって焼かれ黒く焦げていた。
「ギギギアアアアアア!?」
巨体を支える四本の脚が、魂力の瞬きに飲み込まれていく。
岩石のようだった色と質感は急速に失われ、乾き切った木肌のような、脆い形質へと姿を変える。
「今だ! ルタ、ルフィア! いけ!!」
カズキのかけ声に合わせて、ルタとルフィアが駆け出す。
「思い切りいくぞ!」「ええ!」
弾丸のように弾き出された二人は、ストーン・ドラゴンの足元へ向かって最高速のまま突っ込んでいく。
「でぇぇい!!」「せいっ!」
そして、その巨木のような脚に攻撃を食わえ、すぐさま走り抜けるように退避する。
「ギギャアアアアアアアアアアアア!!?」
ルタとルフィアのクロス攻撃を受け、ストーン・ドラゴンは断末魔のような奇声を上げる。
岩が擦れ合わさるような歪な音が、空間内を震わせる。
「まだまだ!」「止まりませんよ!」
一度離れたルタとルフィアが、再び最高速で攻撃を加える。
ドラゴンの前脚は岩がひび割れるように頽れ、たまらず岩龍は体勢を崩す。
反撃の火炎を吐き出すが、時すでに遅し。
ルタとルフィアは一撃離脱、つまりはヒット&アウェイの戦法を取っているため、すでに火炎放射の範囲外へと身を翻していた。
「よし、上手いぞ!」
遠巻きから、継続的に魂力操作を施し続けていたカズキが、ルタとルフィアの理にかなった戦術を見て、声を上げる。
さらに地面から魂力を流し込み、一気にストーン・ドラゴンの防御を弱体化させようと腕に魂力を込める。
「このまま一気に……うぐぁ!?」
しかし、カズキの思惑を読んだのか、ストーン・ドラゴンがすかさず火炎をカズキ目がけて吐く。カズキの視界を、紅蓮の炎が埋め尽くす。
「カズキ! 逃げろ、炎に囲まれるぞ!!」
カズキの状況を見て取ったルタが、脚を動かしつつ叫ぶ。
「いい、こっちは気にするな! 二人はガンガン、攻撃を加えてくれ!!」
火柱の中、カズキはルタへ向かって声を返す。
自分の周囲を赤い炎の壁が囲んでいることはわかっていたが、カズキはそこから動くことはしなかった。
なぜなら、自分が床を伝って間接的に魂力操作をすることが、ルタとルフィアの攻撃でダメージを通すための条件だったからだ。
今は、順調にダメージを与えられている。
ならば、このまま押しきってしまえばいい。
ドラゴンを倒せれば、その魂力でできている炎は消え失せる。
カズキはそう考え、あくまでも勝利を優先したのだった。
「いけ、ルタ、ルフィア! ヤツがこっちに気を取られているうちに!」
半ば捨て身と言えるカズキの判断に、ルタとルフィアは顔を見合わせる。
しかし、二人が逡巡している間にも、ドラゴンから吐き出される炎の圧力は増え、カズキのいる場所を燃やし尽くしていく。
「やるぞ、ルフィア! 覚悟を決めろ!」
「はい! わたしのありったけ、ぶち込みます!!」
「その意気じゃ! わしも、ここに来るまでに溜め込んだ魂力を、思いっきり叩き込んでやる!」
ルタとルフィアは、カズキの覚悟を受け取り、ストーン・ドラゴンへ向かっていく。
「ギギ、ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
自らの危機を悟ったのか、ストーン・ドラゴンは自棄になったように叫び散らした。
双頭が四方へ向かって暴れる。
「覚悟、しろ……!」
カズキは灼熱の炎の中、絶えず地上からドラゴンへ向けて魂力を送り続ける。
それにより、岩の身体はみるみるうちに枯渇し、脆くひび割れていく。
そこへ――ルタとルフィアが、最高速度で突撃する。
「「いっけええぇぇぇぇぇ!!」」
金と銀の閃光が、強大な圧力となって裂帛の気合を迸らせる。
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………――」
激烈なまでの衝撃を受けたストーン・ドラゴンは、悲鳴のような雄叫びを上げながら、見るも無残に粉塵となって散っていく。
あとには――魂力の残滓と、叫びの残響だけが漂っていた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




