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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第二章 大陸横断編

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080 クーパ地下大洞窟⑨ フシンの魂装真名


「――とまぁ、もったいぶったところで、ボクの魂装真名カルマ・ヴェーダはそこまで強力じゃないんだけどね」


「……うそつけ」


 と、フシンはおどけて言った。

 それに対してカズキは、ジト目で反応する。


 クーパ地下大洞窟の中層を過ぎ、下層といえる領域にまで進んだカズキら。

 魔物を一掃し、小さく浅い川がせせらぐ場所で、小休憩を取ることとなった。


 無類の強さを見せつけていたフシンが、いよいよ魂装真名を披露してくれる――と思いきや、出たのは先程の発言だった。


「いやー、ボクの真名の能力はあまり戦闘向きではないんだよね。どちらかと言えば、諜報活動や健全な日常生活に適した能力なんだよ。今だって現に発動中だしね」


「ん? どういうこと?」


「だから、今も発動中なの」


 フシンの言葉を理解できないカズキ、ルタ、ルフィアは、顔を見合わせて首を傾げる。


 現時点で、魂装真名を発動している?

 見る限り、魂装武器カルマ・ウェポンなども特に出現していない。


 にもかかわらず、発動している真名とは……?


 カズキらの頭の上に、再び大きな疑問符が浮かぶ。


「はぁ、仕方ない。あんまり進んで見せたくはないんだけど……ちょっと待ってて。今、魂装真名を解除するから――アーナンダ


 言うと、フシンの小柄な身体から魂力チャクラの粒子が多量に放出される。

 その全身が光り輝き、暗い洞窟内をまばゆく照らす。


 カズキらは反射的に腕で目元を隠す。


「……っ!」


 光が引き、カズキが腕を下ろすと。


 そこには、腰の曲がった白髪の老人がいた。

 彼は目元を――黒い布で隠している。


「アンタ……まさか、フシンか?」


 老人の姿を確認したカズキが、目を見開く。

 隣のルタとルフィアも驚愕な様子で、開いた口が塞がらない。


「驚いたかい?」


 老人の口から紡がれる穏やかな声は、確かにフシンの声に似ていた。

 ハリやツヤは失われているが、少しだけ高く鼻にかかったような声が、いかにもフシンが加齢した場合の声に感じられた。


「ボクの魂装真名は《別人邂逅シャブダ・シャムシャーラ》。全身の魂力を変質させることで、まったく別の誰かに成り代われるという能力さ」


「別人に、成り代われるとな……そいつは大仰な能力じゃのう」


 フシンの真名の力を聞いたルタが、感心したように言った。


「ただ、多少の制限はある。と、その前に――《別人邂逅シャブダ・シャムシャーラ》」


 体内の魂力を全身に行き渡らせたフシンが、真名を唱える。

 再び、その全身を魂力の光が包み込み、辺りの暗闇を瞬間的に照らした。


「ふぅ、やっぱりこの姿が落ち着くよ」


「あのおじいちゃんがその口調で喋ってると思うと色々と思う所があるけどな」


「うるさい」


「いででっ! 指で目を突くな!」


 イタい事実を指摘されたフシンが、若さを取り戻した肉体でカズキの両目を容赦なく突いた。


「制限というのは、まず魂力総量はボク自身以上にはならないということ」


 言いながらフシンは、右手の人差し指を立てる。


「例えば、カズキさんに変身したとしても、その無限のような魂力量までは実現できない、ということでしょうか?」


「ふむん。ご名答だよ、ルフィア嬢」


 的確な言葉を放ったルフィアに、フシンが得意げに左手の親指を立てる。


「次に、変身している間は常に魂力を消耗し続けるということ。しかも、成り代わる対象が自分より身体や魂力総量が大きく差がありすぎる場合、それだけ失う魂力も大きくなる」


 そこが悩ましいところ、といった表情で唇を歪め、フシンは二つ目の制限を話す。

 人差し指に続き、中指を立てる。


「最後は、変身する対象は、自分が一度でも魂力を“交信”させてものに限る、ということだね」


 右手、薬指を立てるフシン。

 三本の指を立て、自らの魂装真名のウィークポイントを晒す。


「大怪我を治療したカズキ、ボクの魂力で作った魂力場チャクラ・フィールドで特訓したルタ嬢、ルフィア嬢にはもう化けれるよ」


「わしに化けたらタダじゃおかんぞ」


「右に同じく。フルボッコします」


「二人とも怖い」


 フシンが軽い調子で吐いた言葉に、ルタとルフィアがマジレスする。

 カズキは顔を青くして、二人の威圧感に冷や汗をかく。


「ま、今のところは変身する気はないから安心して。それにさっきも言った通り、カズキに変身したとしても、キミの超大な魂力総量には、さすがのボクも及ばない。変身するメリットがないよ」


「それはそれでなんかヘコむ」


 フシンが躊躇なく言い切ったことに、カズキは若干ヘコむ。


「なんにせよ、ボクの魂装真名ははっきり言って戦闘向きじゃない。だからまぁ、あまり真名から見て盗むところはない」


「でも、戦闘向きな身体に変身して戦うとかなら、魂力操作の技とかも合わさって、めっちゃ強くないか?」


「ああ、カズキの言う通り、ボクの主な戦い方はそれだね」


 話していると、ふとせせらぎに異音が混ざっているのがわかった。

 カズキはすぐさま目を閉じ、周辺の魂力を読み、索敵する。


 フシンは突如現れた気配をすでに察していたのか、ストレッチをするように肩を回す。


「ふむん。ちょうど、下層の魔物が一匹迷い込んできたようだね。じゃあ、一応ボクの魂装真名の戦い方も見せておこうか。よっと――《別人邂逅》」


「っ!?」


 真名の解放で、フシンが変身したのは――なんと、巨大なストーン・ゴーレムだった。


「さて、サクッといくよ」


 岩の巨人から、フシンの声が聞こえる。

 カズキらが倒したゴーレムとは、軽快さと溢れ出る魂力の量が段違いだった。


 ゴーレムの姿をしたフシンが向かう先には、黒く不気味な八本の脚が、折れ曲がって地面に突き立てられていた。


 現れた魔物は、漆黒の巨大な蜘蛛。


 それが、小川を踏み荒らしながら接近していた。


「う……俺、蜘蛛苦手だ」「わたしもです……」


 その見た目に、思わずカズキとルフィアが後退る。

 ルタだけは「わしは慣れっこじゃ。あの大きさはさすがにはじめて見たが」と冷静だ。


「さ、いっくよー。むん」


 と。


 黒く巨大な蜘蛛の恐怖に苛まれていたカズキたちを、差し置いて。


 フシン――ストーン・ゴーレムの姿――は、羽虫を潰すような気軽さで、黒蜘蛛を殴りつけた。


 放たれた大砲のような拳を受け、蜘蛛は粒子のように爆散する。


「……どこが『戦闘向きじゃない』んだよ」


 カズキはその強大な威力を目の当たりにし、恐ろしさにただただ立ち尽くした。


 蜘蛛から放出された多量の魂力が、光の粒になって空間に漂っていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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