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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第二章 大陸横断編

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077 クーパ地下大洞窟⑥ カズキ、圧倒


「――やってくれたな」


 ゴーレムの右腕を片手で持ち上げながら、眉間にしわを寄せたカズキが言う。


「カズキ! 無事じゃったか」「カズキさん! よかった」


 カズキの無事を見て取ったルタとルフィアが、安堵の声を上げる。


 ストーン・ゴーレムの会心の一撃は、カズキに間違いなくヒットしていた。

 が、カズキはほぼ無傷と言えた。


 全身に魂力チャクラを均等に充溢じゅういつさせた際のカズキの防御力は、本人を含めた全員の予想を、遥かに上回る身体的防御力を誇っていたのだった。


 むしろ、ダメージを受けているのはゴーレムの右拳の方に見える。


 強固な岩の拳はカズキを殴りつけた個所がひび割れ、攻撃をした側であるにもかかわらず、いかにもダメージを受けているように見受けられた。


「グオオォォ……」


 自分の攻撃を物ともしないカズキに焦りを覚えたのか、ストーン・ゴーレムは地響きのような唸り声を洞窟内に響かせ、右腕を振り上げる。

 

 間髪入れず、それをハンマーの要領で、カズキ目がけて振り下ろす。


 ルタとルフィアが声を出す間もなく、視界を砂埃が埋め尽くした。


「……重いな。まぁ、効かないけどな」


 砂煙が引いた後には、またも右手一本で攻撃を受け止めているカズキがいた。


 魂装カルマの右手ですでにゴーレムの魂力操作チャクラ・コントロールを施しているのか、ゴーレムの右腕がしおれるようにひび割れていく。


「ルフィア! 斧槍ハルバード投擲とうてきしろ!」


「っ! は、はい! 魂装、アグニ!!」


 カズキの指示に、咄嗟にルフィアは魂装する。

 そしてすぐに、出現させた魂装武器カルマ・ウェポンの斧槍を、ゴーレムの右腕を狙って投げつけた。


 ルフィアの放った斧槍の先端が、真っ直ぐにストーン・ゴーレムの右腕を貫く。


 カズキの魂力操作によってすでに変質させられている右腕は、いとも簡単に粉末のように、粉々に散った。


「グオオオオォォォォォォォォ!!」


 カズキとルフィアのコンビネーションで、左腕に続き右腕をも失ったストーン・ゴーレム。

 痛みなのか怒りなのか、またも唸りを上げてもがく。


「ナイスルフィア! コントロール良いな」


「ありがとうございます! カズキさんこそ、タイミングばっちりです」


 目配せしあい、コンビネーション攻撃の成功を称え合うカズキとルフィア。

 未だゴーレムの攻撃射程内にいるにもかかわらず、カズキには焦りも恐怖も一切ない。


「グヌオォォォォ!!」


 そんな様子が怒りに火をつけたのか、ストーン・ゴーレムは再び咆哮ほうこうを上げる。


 巨大な胴体を捻るようにして、大木のような片脚を高く振り上げた。

 腕を粉砕されたゴーレムが次の攻撃手段として選んだのは、脚での踏みつけだった。


「脚が来るぞ、カズキ!」


「任せとけ!」


 ゴーレムからほぼ真下の位置にいたカズキが、ルタの心配を他所よそに、自信満々に応える。


 巨体を誇るストーン・ゴーレムが、全体重をかけた足裏でのスタンプが、カズキの頭上から襲い掛かった。


 しかし。


「くぅぅぅ…………効かねぇ」


 カズキは掲げた両腕で、ゴーレムの足裏を受け止めていた。

 踏ん張ったカズキの両足が、地面の岩に突き刺さるようにヒビを作っている。


「ルタ、ルフィア、ブチかませっ!!」


「任せるのじゃ!」「了解です!」


 カズキは足裏を受け止めたそのままに、ゴーレムの足を変質させて攻撃の隙を作る。

 そこへ、ルタとルフィアが同時に攻撃を仕掛ける。


「グオォォォォ!?」


 片脚をも破壊されたゴーレムは、その巨体を支え続けることができず、転倒する。


 巨人のような体躯がくずおれた反動で、周囲を先ほど以上の砂煙が埋め尽くす。


「……そんじゃ、トドメは俺が」


 砂埃が引き切らぬ中、倒れたゴーレムの巨躯の上に登ったカズキ。

 全身に満ちる魂力はそのままに、魂装の右手にさらなる膨大な魂力を流し込んでいく。


 熱を持ち、血脈は踊り、拳は岩を砕くほど強靭に。


 カズキの右腕は、大量の魂力を充填した、大砲のような存在となる。



「くらえ――『魂装爆破拳カルマ・エクストレート』」



 ズドオオォォォォォォォッッ――――――


 洞窟内を真っ白に染める閃光のあと、岩石が砕かれる轟音が周囲に木霊こだました。

 さらなる砂煙が上り、地鳴りがゴウゴウと空間を震わせる。


 超威力の右ストレートが、ゴーレムに炸裂した。


 砂のもやが引くと、あれほどに存在感のあったストーン・ゴーレムの巨躯は、すでに跡形もなくなっていた。

 四肢のある人型はもはや絶たれ、ただそこかしこに転がる岩石に成り下がっている。


「よし、勝ったな」


 散り散りとなったゴーレムの身体――転がる岩々の中に仁王立ちしたカズキが、にっこりして言った。


 ルタとルフィアもそれを見て、応じるようにニコっと笑う。


 洞窟内にはいつの間にか、心地良い柔らかな風が、吹いていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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