077 クーパ地下大洞窟⑥ カズキ、圧倒
「――やってくれたな」
ゴーレムの右腕を片手で持ち上げながら、眉間に皺を寄せたカズキが言う。
「カズキ! 無事じゃったか」「カズキさん! よかった」
カズキの無事を見て取ったルタとルフィアが、安堵の声を上げる。
ストーン・ゴーレムの会心の一撃は、カズキに間違いなくヒットしていた。
が、カズキはほぼ無傷と言えた。
全身に魂力を均等に充溢させた際のカズキの防御力は、本人を含めた全員の予想を、遥かに上回る身体的防御力を誇っていたのだった。
むしろ、ダメージを受けているのはゴーレムの右拳の方に見える。
強固な岩の拳はカズキを殴りつけた個所がひび割れ、攻撃をした側であるにもかかわらず、いかにもダメージを受けているように見受けられた。
「グオオォォ……」
自分の攻撃を物ともしないカズキに焦りを覚えたのか、ストーン・ゴーレムは地響きのような唸り声を洞窟内に響かせ、右腕を振り上げる。
間髪入れず、それをハンマーの要領で、カズキ目がけて振り下ろす。
ルタとルフィアが声を出す間もなく、視界を砂埃が埋め尽くした。
「……重いな。まぁ、効かないけどな」
砂煙が引いた後には、またも右手一本で攻撃を受け止めているカズキがいた。
魂装の右手ですでにゴーレムの魂力操作を施しているのか、ゴーレムの右腕が萎れるようにひび割れていく。
「ルフィア! 斧槍を投擲しろ!」
「っ! は、はい! 魂装、燃!!」
カズキの指示に、咄嗟にルフィアは魂装する。
そしてすぐに、出現させた魂装武器の斧槍を、ゴーレムの右腕を狙って投げつけた。
ルフィアの放った斧槍の先端が、真っ直ぐにストーン・ゴーレムの右腕を貫く。
カズキの魂力操作によってすでに変質させられている右腕は、いとも簡単に粉末のように、粉々に散った。
「グオオオオォォォォォォォォ!!」
カズキとルフィアのコンビネーションで、左腕に続き右腕をも失ったストーン・ゴーレム。
痛みなのか怒りなのか、またも唸りを上げてもがく。
「ナイスルフィア! コントロール良いな」
「ありがとうございます! カズキさんこそ、タイミングばっちりです」
目配せしあい、コンビネーション攻撃の成功を称え合うカズキとルフィア。
未だゴーレムの攻撃射程内にいるにもかかわらず、カズキには焦りも恐怖も一切ない。
「グヌオォォォォ!!」
そんな様子が怒りに火をつけたのか、ストーン・ゴーレムは再び咆哮を上げる。
巨大な胴体を捻るようにして、大木のような片脚を高く振り上げた。
腕を粉砕されたゴーレムが次の攻撃手段として選んだのは、脚での踏みつけだった。
「脚が来るぞ、カズキ!」
「任せとけ!」
ゴーレムからほぼ真下の位置にいたカズキが、ルタの心配を他所に、自信満々に応える。
巨体を誇るストーン・ゴーレムが、全体重をかけた足裏でのスタンプが、カズキの頭上から襲い掛かった。
しかし。
「くぅぅぅ…………効かねぇ」
カズキは掲げた両腕で、ゴーレムの足裏を受け止めていた。
踏ん張ったカズキの両足が、地面の岩に突き刺さるようにヒビを作っている。
「ルタ、ルフィア、ブチかませっ!!」
「任せるのじゃ!」「了解です!」
カズキは足裏を受け止めたそのままに、ゴーレムの足を変質させて攻撃の隙を作る。
そこへ、ルタとルフィアが同時に攻撃を仕掛ける。
「グオォォォォ!?」
片脚をも破壊されたゴーレムは、その巨体を支え続けることができず、転倒する。
巨人のような体躯が頽れた反動で、周囲を先ほど以上の砂煙が埋め尽くす。
「……そんじゃ、トドメは俺が」
砂埃が引き切らぬ中、倒れたゴーレムの巨躯の上に登ったカズキ。
全身に満ちる魂力はそのままに、魂装の右手にさらなる膨大な魂力を流し込んでいく。
熱を持ち、血脈は踊り、拳は岩を砕くほど強靭に。
カズキの右腕は、大量の魂力を充填した、大砲のような存在となる。
「くらえ――『魂装爆破拳』」
ズドオオォォォォォォォッッ――――――
洞窟内を真っ白に染める閃光のあと、岩石が砕かれる轟音が周囲に木霊した。
さらなる砂煙が上り、地鳴りがゴウゴウと空間を震わせる。
超威力の右ストレートが、ゴーレムに炸裂した。
砂の靄が引くと、あれほどに存在感のあったストーン・ゴーレムの巨躯は、すでに跡形もなくなっていた。
四肢のある人型はもはや絶たれ、ただそこかしこに転がる岩石に成り下がっている。
「よし、勝ったな」
散り散りとなったゴーレムの身体――転がる岩々の中に仁王立ちしたカズキが、にっこりして言った。
ルタとルフィアもそれを見て、応じるようにニコっと笑う。
洞窟内にはいつの間にか、心地良い柔らかな風が、吹いていた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




