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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第二章 大陸横断編

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074 クーパ地下大洞窟③ 新技


 暗い洞窟の中をカズキたちは、一列になって進んでいた。

 相変わらず、頼りになるのは魂装道具カルマ・サーダンの光だけだった。


 再びの、クーパ地下大洞窟への潜入。


 カズキを先頭に、今度はルタ、ルフィアという順番だ。

 前回の飛び出しを反省したルフィアが、自ら最後尾を務めると言い、この配置順となっている。


「そろそろだ。油断しないようにな」


 カズキが小声でひっそりと呟く。

 後ろのルタ、ルフィアが音を立てずに頷いた。


「……来た」


 目線の先、全てを飲み込むような暗闇に目を凝らすと、闇がそのまま一塊ひとかたまり転がり出たかのように、漆黒のスライムが現れた。


 ぶるんと一度その身が揺れると、魂装道具の光が全身を黒光りさせる。


「来い、スライム」


 カズキが一歩、踏み込む。

 片手を後ろに出し、ルタとルフィアにステイを指示しつつ、距離をじわりと詰めていく。


 と。


「ぐっ!?」


「カズキ!」「カズキさん!!」


 瞬時に飛び掛かってきた黒いスライムを、カズキは右手で反射的に受ける。

 半液体の粘り気を持った身体が、カズキの魂装カルマの右手を覆いつくす。


 その様を見て取ったルタとルフィアが、声を上げる。


 が。


「……へえ、結構冷たくて気持ちいいかも」


 カズキの口から出たのは、予想とは正反対の気の抜けた台詞だった。


「なんじゃ、あやつは……」


「心配させないでくださいよ……心臓に悪い」


 ルタとルフィアのジト目が、カズキの背中にビシバシと刺さる。

 が、本人は気にも留めずにスライムを観察し続ける。


「んー、今も魂力が吸い取られてるのはわかるけど、俺にとってはそこまで致命的にはならないっぽいな」


 カズキは真っ黒に染まった右手をぶらりぶらりと動かしながら、呑気のんきにそんなことをのたまう。


「はぁ……わたしなんて、接触されて数秒で立っていられなくなったのに。なんか、自信なくします」


「そればっかりはわしも、うぬに同情するよ。カズキが異常なんじゃ」


 常識離れしたカズキの姿を見ながら、ルタとルフィアが遠い眼をする。


 うん、俺引かれてるみたい。

 カズキは女子に引かれることの辛さを知り、心で泣いた。


「で、ここからが本番だな」


 気を取り直して、カズキは右手から吸い上げられていく魂力に意識を向ける。

 フシンから伝授された“技”を試すためだ。


 右手を通して、スライムの体表面の冷たさだけでなく、魂力の質感までもが感じられいている。

 カズキはそれを、自らの魂力と融和させようと試みる。


 今まさに魂力が流れ出ている右手を媒介とし、接触しているからこそ感じるスライムの魂力を自らの魂力と共鳴させていく。


 そうして、カズキの魂力とスライムの魂力が、同質へと変化していく。


「なんか、不思議な感覚だな」


 カズキの意識に、スライムの身体感覚に似たものが介入してくる。

 少しすると、さらに生体情報までもが意識できるようになってきた。


「ここから……こんな感じか?」


 リンクした“スライムの感覚”を意識し、カズキはスライムの体表面の魂力を“固く”する。

 ちょうど、筋肉に力を入れて浮き上がらせるような感覚だ。


 すると、右手を覆うように拡がっていたスライムの身体が、氷のように凝固した。


「お、できた! やれ、ルタ!」


 固まったスライムは粘着性を失い、カズキがぶんと腕を振っただけで簡単に剥がれ落ちる。

 スライム自身も固まってしまった身体に順応できていないのか、小刻みに震えるだけでその場から動かない。


「おお、これなら殴り放題じゃのう! ていや!」


 身動きを取れないスライムを、ルタが容赦なく殴り砕く。

 一撃でスライムは砕け散り、黒い結晶となったあと、光の粒となってルタの魂力として還元された。


 フシンがカズキに伝授した技とは――他者の魂力操作チャクラ・コントロールをすることだった。


 これによりカズキがスライムの軟体な身体を硬質化させることで、武器や徒手空拳での攻撃をいなせないようにしてしまう。

 そこへ、ルタ、ルフィアが攻撃を繰り出していく、というのが今回の探索における対スライム用の作戦だった。


 ただし、この“他者の魂力操作”はこの世に生きるほぼ全ての生物の生体構造を書き代えてしまえる恐れがあるがゆえ、神に等しい力と言って過言ではないとフシンは言っていた。


 絶対に悪用をするな、と。


 カズキと長い時間共に生活をしたのは、キミがその技術を授かるに相応しい人格を持っているか、それを判断するためだった――とも話していた。


「確かに、これは悪用しちゃいけないな」


 自分の魂装の右手を見つめながら、カズキは自らを戒めるように呟いた。


「さ、油断せず進もう」


 カズキのかけ声で、三人は行軍を再開する。

 洞窟の暗闇に、三人の背中が消えていく。


 フシンはカズキには言わなかったが、フシンが他者の魂力操作を体得するまでに、五十年以上の月日を要していた。

 カズキはいとも簡単に、たった今それを成し遂げてしまった。


 未だに、カズキ自身が一番理解していないのだ。

 自らがどれほどまでに、魂力に愛されているのかを。


 洞窟の中にはひんやりと、湿った風がゆるく吹いていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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