068 混浴の行方
「おんどりゃぁぁぁぁ!!」
「はあぁぁぁぁぁ!!」
すでに陽は落ち、辺りは完全な闇に包まれていた。
木立に囲まれた特訓場では、ルタとルフィアが互いに譲らぬ攻防を繰り広げている。
二人が組手を行っている場所だけは、フシンの魂力の輝きを光源として、明るさが保たれていた。
そんな灯りの中で、光沢を放つ金と銀が、四方八方に疾駆し、躍動する。
カズキとの混浴をかけた、ルタとルフィアのガチ組手は、完全に長期戦の様相を呈していた。
「ふわあぁぁ……これ、いつまで続くんだ?」
胡坐をかき、戦況を見守っていたカズキも、思わず欠伸が出る。
「ふむん。まさか、ルタ嬢とルフィア嬢の混浴にかける執念が、これほどとはね……正直、誤算だったよ」
カズキの隣に座り込んでいたフシンも、さすがに両者の執念に感服(というかドン引き)したのか、こめかみの辺りを冷や汗が伝っていた。
それほどまでに、ルタとルフィアの戦いは一進一退と言えた。
「いい加減、膝をつけ、このエルフっ娘が!」
ルタが叫び、魂力で硬質化させた拳で右ストレートを叩き込む。
が、それを魂装武器で、軌道を逸らすようにいなすルフィア。
魂力を高めているおかげなのか、斧槍によってルタの拳が切れることはない。
「そっちこそ、ギブアップでもしたらどうですか……この、のじゃロリドラゴン!!」
「なんじゃそのネーミングは!?」
と、ルタに果敢に言い返すルフィア。
「それは言わないって約束だろ、ルフィア……」
「あぁぁごめんなさいカズキさん、本人に言っちゃいましたぁ!」
頭を抱えたカズキの声が聞こえたのか、ルフィアが足を止めずに言った。
どうやらカズキは、ルフィアと会話する際に、ルタの事を『のじゃロリドラゴン』と形容することがあったようだ。
それを覚えていたルフィアが、煽られ、煽り返すためにと無意識に言い放ったしまったのだった。
「カズキ貴様ぁ、あとで覚えておれよ!? このわしを、のじゃロリドラゴンなどとっ! いったいどういう意味なんじゃ!?」
「つ、つ〇ぺたロリよりはたぶんマシだ、たぶん!」
「なんじゃとゴルアァァァァ!?」
混浴をかけた組手中のため、ルタは怒鳴り散らしてくるだけで済んだが、今度からはガチギレして襲い掛かってくる可能性がある……カズキは、自分の背中を冷や汗が流れているのがよくわかった。
「フ、フシンさ、あの二人、状況どう?」
睨みを利かせ続けていたルタから目を逸らすように、カズキはフシンに話を振った。
フシンは面白がって、ニヤニヤと笑っている。
「まぁ、一戦の時間がかかりすぎてはいるけど、かなり順調だよ。その証拠に、ルタ嬢は肉体強度が上っているし、ルフィア嬢もボクの魂力の中で元気よく動けている」
言いながらフシンは顎に手を当てて、ふむふむと何度か頷いた。
「ルフィア嬢は実際、結構サポート系の能力に覚醒する素養がありそうだね。
ぶっちゃけて言うとね、今このフィールドにはかなりの量のボクぼ魂力を込めている。飽きてきたし、早く終わってほしいからさ」
「はっきり言ったなオイ」
「あと、この魂力の濃度であれだけ動けているルタ嬢も、かなり上達していると言っていい。ほぼ大人のように身体を大きくした上でルフィア嬢の攻めを受け切っていると考えれば、体内から引き出せる魂力も増えている」
「そ、そうだったのか……ふざけてるようにしか見えなかったけど、ちゃんと上達してたんだな」
フシンの言葉を聞き、カズキは思わず息を飲んだ。
ルタもルフィアも、あまり怒らせないようにしないとな……そんなことまで一人考えてしまっていた。
「おっと、でもそろそろ混浴ドーピングの効果も切れつつあるかな」
「なんちゅーネーミングだよ」
フシンが示した先、ルタとルフィアがそれぞれ、膝に手をつき肩で息をしていた。
両者共に無理がたたったのか、疲弊が色濃い様子だった。
「そろそろ決着だね。さぁ、最後の一撃を経て、どちらが立っていられるのか」
心底楽しそうに、フシンがワクワクした様子で言った。
カズキはどちらも応援しつつも、自分との混浴が賭けられているがゆえ、あまり素直に勝負の決着を望めずにいた。
だってね、久しぶりの風呂、一人で入りたいじゃない。
「ぬ、ぬふふ……おぬしがここまでやるとは、思わなかったぞ」
「ふふふ……わたしも、これほどまで手こずるとは思ってもみませんでした」
ここまでのお互いの健闘を称えるように、ルタとルフィアは手を膝についたまま、ニヒルに笑い合った。
賭けているものが俺の混浴じゃなければ、美しいスポーツマンシップに溢れていたろうに――カズキは思わず遠い眼をした。
「「次で……決める!」」
ルタとルフィアのかけ声が重なる。
両者ともに、最後の力を振り絞って、跳ぶ。
中空で、拳と魂装が――衝突する。
「「黙って、正妻の座を譲れぇぇぇぇぇぇ!!」」
「あーもうだからぁ言葉のチョイス!!」
カズキの悲しいツッコミが、夜の森にこだました。
隣でフシンが、肩を揺らして大笑いしていた。
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