067 ルタとルフィア、どっち?
オレンジ色の夕陽が地平線の向こうに沈もうとする中。
すでに暗い森の中で、ルタとルフィアが互いを睨み合っている。
カズキは二人の“組手”の様子を、固唾を飲んで見守っていた。
のだが。
「わたしの方が、カズキさんのパートナーに相応しいと思うんです!」
「た、たわけ! おぬしが現れるずっと前から、わしがあやつの師として、色々と面倒をみてやっておったのじゃ!」
一発打ち込むたびに、お互いがお互いに対して抱いている不満などをぶつけ合っているうちに。
気がつけば、どっちがカズキの相棒、もしくはパートナーとして相応しいのか、という謎の意地の張り合い、もといのろけ合いとなってしまっていた。
当のカズキ本人としては、もはや辱めの拷問でしかなく、ただただ俯いて気配を殺すことしかできなくなっていた。
「いやー、モテモテだね。で、実際どっちが好きなのさ、カズキは?」
「あの二人は、そういうんじゃねーんだって」
当然のように冷やかしてくるフシンに笑われながら、カズキは仏頂面で戦局を見守っていた。
カズキにとってルタとルフィアは、どちらの方が好き、などという尺度で測れる存在ではすでになくなっていた。
ルタは命の恩人で、ルフィアは自分と同じ生き方をしてきた者。
そして二人とも、対等な同盟を結び、共に長い時間この世界を歩んでくれた同志だ。
「ルフィア、おぬしがカズキと出会えたのも、わしがあやつに生きる術をたたき込んでやったからなのじゃぞ!」
「だったら、ルタさんがカズキさんの元に戻ってこれたのだって、わたしのサポートがあったからってことになるじゃないですか!」
お互いに、売り言葉に買い言葉というような状況になっているルタとルフィア。
もはや組手というよりは、ただ取っ組み合いをしながらやんややんやと叫びあっているような状態といえた。
「はぁ……なんでこうなるかねぇ」
カズキは、深く溜め息をつく。
二人への感謝に優劣をつけることなど、カズキにはできるわけがなかった。
それでも、なぜか二人はどっちが上か下かで、どうしても競ってしまう。
人が本当の意味で多様な価値観を認め、競争ではなく個として価値を認め合うことがどれほど難しいことなのか、カズキにはそれがよくわかった。
「ふむん。なににせよ、このままじゃ効率があまりよくないね。なにか策を講じるとしよう」
ニヤニヤ顔で状況を見守っていたフシンが、少し真面目な顔で呟いた。
「じゃあ、組手での勝ち星が多い方が、カズキと一緒に風呂に入れる、というのはどうかな?」
相好を崩しながら、フシンが高らかに言い放った。
「「よし乗った」」
「息ぴったり!?」
寸前まで半ば殴り合いをしていたルタとルフィアが、示し合わせたように同じタイミングでサムズアップした。
「なんでフシンが勝手に決めてんだよ!? 俺の意志はどうなる!?」
「愚問だね。そんなものはない」
「相変わらず俺への扱いひどすぎ!」
カズキは自らの貞操が賭け事の道具にされてしまったことを、嘆き悲しむ。
「フハハ、こうなればわしも本気を出さざるを得んな……覚悟せい、エルフっ娘」
「ふふふ……ルタさんこそ、わたしの本気を目の当たりにして、逃げ出さないでくださいよ?」
目の前にニンジンをぶら下げられた格好だが、ルタとルフィアには効果覿面だった。
二人から発散される魂力が、明らかに増加する。
「これだよこれ。これならかなり効率がいいね」
「俺の貞操が犠牲になっているけどな」
してやったり、といった表情のフシンに対して、カズキはぼそりと悪態をつく。
目の前のルタとルフィアは、それぞれ戦闘力が上昇していた。
幼女から少女の身体になっていたルタが、さらに目に見えて大人の身体つきとなる。
ルフィアの持つ斧槍は、刃の輝きが鋭くなる。
確実に、カズキの貞操を糧として、二人の気合いが増していた。
「ルフィアよ、もはや無傷でいられるとは思うなよ」
「ルタさんこそ、いつまでも偉ぶってられると思わないほうがいいですよ」
睨みあい、発散される魂力が衝突する。
その圧力は、カズキの肌をヒリリと焼くほどだった。
「「カズキの正妻は――わし(わたし)だ!!」」
「言葉のチョイスがよくない!」
カズキとの混浴をかけた組手の火蓋が今、切って落とされた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




