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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第二章 大陸横断編

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066 ルタとルフィアの選択


 朝食を終えたカズキたちは、三人横一列で座り込んでいた。


 三人の眼前には、今回の特訓の先生となるフシンが、どこか得意げな表情で立っていた。

 目元には当然、黒い目隠しをしたままである。


「はい、ちゅうもーく」


 教師然としてフシンが言うと、カズキ、ルタ、ルフィアはフシンへと視線を向けた。


「今回は、ルタ嬢とルフィア嬢の特訓の説明をします。ご飯のあとなので、眠くならないようできる限り簡潔に、楽しく伝えられればと思っているよ」


 冷やかすような態度で、フシンは話し出す。

 ここ数日、付きっ切りで特訓を受けていたカズキには、今フシンが、すごく楽しんでいることが手に取るようにわかった。


「まず二人にいておきたいのは、どういう方向性で強くなりたいか、ということだね。前提として言っておきたいのは、カズキのような変幻自在の魂力チャクラ操作コントロールは、たぶん二人にはできないということだ」


 フシンは声のトーンを少しだけ落として、ちょっとした事実を二人に告げた。

 驚いたのはむしろ、カズキの方だった。


「どうして、二人にはできないんだよ? ルタは、俺に魂力の色んな知識を与えてくれた。魂装カルマがただ出すだけじゃなくて、調整できるってことだって、ルタが――」


「カズキ、言ったはずさ。キミは魂力に愛されていると」


 カズキの発言を、ぴしゃりとさえぎって言うフシン。

 ぐっ、とカズキは続く言葉を飲み込むしかない。


「しかも、異常なほどにね。ぶっちゃけ言うけどね、キミがこの調子で精進を続ければ、簡単にボクすら超える。そのぐらいに、キミのあらゆる魂力の素養、才能はずば抜けているんだ」


「マジか……」


「でもだからって調子に乗ったら、ボクがすぐに指導してあげるけどね」


「指導というかありゃ体罰だろ」


 フシンが軽いノリで言った言葉に、カズキはマジなトーンで返す。

 断固、体罰反対。


「で、今の話を前提に、二人はどう、強くなりたい?」


「……わしは決まっておる。魂装が使えん今、とにかく近接戦闘力を向上させたい。あとは今後、魂力の暴走がないよう、力に飲まれぬようにする鍛錬もしておきたい」


 先に決意を表明したのはルタだ。

 どこか表情が硬いのは、やはり自戒的な意味合いが言葉にあるからだろうか。


「わたしは、できればカズキさん、ルタさんの戦闘のサポートができるようになりたいです。今現状では、斧槍ハルバードを振り回すしかできないので、もう少し器用さとか、補助的な力を持てたら、と……」


 ルフィアは少し控えめに、小さく手を挙げながら言う。


「ふむん。二人の希望はよくわかった。少し考えてみよう」


 二人の言葉を聞いたフシンが、ルタとルフィアの顔を交互に眺めた。

 目隠しをしているフシンの目線はうかがえないが、しっかりとそれぞれに顔を向けてくれていた。


「よし、二人の特訓内容を考えました。発表します。イエー」


「「「い、いえー」」」


 フシンのおかしなノリに、カズキ、ルタ、ルフィアの三人も乗っかる。


「ルタ嬢とルフィア嬢には――組み手をしてもらいます」


「「……え?」」


 笑顔のままさらりと告げられたフシンの言葉に、ルタとルフィアの表情が凍り付く。


 要するにフシンは、ルタとルフィアに殴り合え、と言っているのだった。


「それじゃ、特訓の意図を説明するね。まずルタ嬢については――」


「ちょ、ちょっと待つのじゃ」


「ん?」


「わしらが組み手をして、強くなれるのか? カズキのように、フシン、おぬしに相手をしてもらわねば、上達しないのではないか?」


 ルタは座ったまま挙手し、考えを吐露する。

 隣に座っているルフィアも、何度も頷いて同意の意を示していた。


「ノンノン。ただ二人で組み手をするわけではないよ。二人には、ボクの魂力を満たした場所で、組み手をしてもらうよ」


「そうすると、どんな効果があるんですか?」


 少し半信半疑な様子で、ルフィアが言葉を割り込ませた。


「ボクの魂力を満たした場所は、色々とボクの思い通りにできる空間となる。そこで実戦形式で組み手を行えば当然、通常空間で打合うよりも、様々な点で上達は速くなる」


 フシンは人差し指を立てて、それを細かく揺らして話している。

 まるで、先生が授業のポイントを解説しているときのようだと、カズキは思った。


「ルタ嬢はそこで格闘術を行えば、シンプルに身体機能、技のキレが増すだろう」


「うむ。確かにな」


 説明に納得がいった様子のルタが、頷く。

 それを見て取ったフシンは、次にルフィアの方に顔を向ける。


「ルフィア嬢はそれに比べたら、少し複雑だ。ルフィア嬢にはまず、サポート的な能力に目覚める素養があるのかどうか、それを見極める必要がある」


「はい」


「それを判断するために、ボクの魂力を利用するんだ。ボクの魂力が満ちた空間で呼吸しながら組み手を行うことで、ルフィア嬢の体内に、他人の魂力が入り込んでいくことになるよね?」


「え、ええ。でも、それって大丈夫なんですかね?」


 ふと“他人の魂力”が自分の身体に入っても大丈夫なのか、心配そうにルフィアが確認する。


「いいところに気が付いたね。そう、そこでルフィア嬢がボクの魂力を受け入れるかどうかで、素養の有無がわかるんだよ」


「それでなんで、素養がわかるんだ? フシンは俺のことを、自分の魂力で治療してくれたんだろ?」


 疑問を差しはさんだのはカズキだ。

 自分にフシンがしてくれたことを思い出し、質問をぶつけてみる。


「カズキ、何度言ったらわかるんだい? キミは魂力に愛されている、異常なほどにね。

 本来、他人の魂力は血液型みたいなもので、違うタイプのものを体内に入れてしまうと、色々と肉体に悪影響が出るんだよ」


「マ、マジかよ……」


「ところがカズキ、キミは一切の拒絶反応なく、ボクの魂力を受け入れた。一応、ボク自身星の声を聞く民として、他者に受け入れられやすい特殊な魂力を持ってはいるのだけれど、あんなにすんなりと受け入れられたのは、キミがはじめてだよ」


 ぱちぱち、と小さく拍手しながらフシンはカズキをたたえた。

 でもここで調子に乗るとまたボコられるので、カズキは黙って頭を掻くしかなかった。


「で、だ。ボクの魂力は本来、回復術などに長けたものなんだ。だから、これに適合できるなら、ルフィア嬢にもその素養がある、ということだね」


「そういうことですか」


 ルフィアが得心がいった様子で、頷く。


「さ、そろそろ説明に飽きてきたところだろうから、実践に移ろうか」


 フシンのかけ声に合わせて、三人はすっと立ち上がる。

 座っていたせいで硬くなった筋肉をほぐすように各々ストレッチをし、準備をはじめる。


「ここからもう少し森を入ったところに、四方を木立で囲まれたちょうどいい場所がある。そこにボクが魂力を満たすから、その間、ルタ嬢とルフィア嬢は準備をお願いね」


「うむ」「はい」


 言いながら全員で、特訓場所まで移動する。

 すぐにフシンが魂力を充満させ、周囲の空気が若干変化する。


 なんとなく、全身が少し重たくなったような、そんな変化だ。

 屋外なのに、まるで水中にいるかのような負荷が、全身に感じ取れた。


「うむん。準備おっけー。それじゃ、はじめよう。ルタ嬢、ルフィア嬢。準備はいい?」


「いつでもオーケーじゃ」「わたしも、問題ありません」


 向かい合う、ルタとルフィア。

 二人のガチバトルに興味津々のカズキは、思わず息をのんだ。


 実際、どっちが強いのか――カズキの好奇心が、否応なく高まっていく。


「レディ……ファイっ!」


 フシンの合図に合わせて、金と銀が、激突した。

 森の木々が、震えた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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