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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第二章 大陸横断編

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061 星の声を聞く民、その長

「皆さん! カズキさんが、目を覚ましました!」


 カズキが目を覚ましたことを確認したルフィアが、洞窟の入り口付近で叫ぶ。

 ルフィアの声に反応したらしき人々のざわめきが、カズキの耳にも聞こえてきた。


 カズキは自らの身体と、状況を確かめるように、ゆっくりと上半身を起こした。


「カズキ!」


 いの一番にカズキのいる洞窟に飛び込んできたのは、金髪碧眼の幼女姿に戻ったルタだった。


 聞き慣れた声が、やけに久しぶりに感じる。


「ルタ、お前――」


 カズキが声をかけようとすると――ルタが、飛びついてきた。


「お、おい……苦しいよ」


 強く強く抱きしめられ、カズキは苦笑交じりに言う。


 ルタは小さな身体で、カズキの上半身にぎゅっと抱き着いている。

 両腕だけでなく、脚すらも腰に回すようにして、全身でしがみついているような格好だ。


「すまぬ、カズキ……すまなんだ……!」


「……謝るなって」


 抱き着いたまま、身体を震わせるルタ。

 金髪の頭頂部を見ながら、カズキは穏やかに言う。


 ルタは自分がドラゴンとなり、暴れ、カズキをボロボロにしたことを悔いているのだった。


 だが、カズキはそんなことは気にしていない。

 こうしてここにいてくれることが、なによりも重要だった。


「俺はルタのボディガードだ。ルタを守るだけじゃなくて、ルタを止めるのも、俺の役目だ。そうだろ?」


 カズキの言葉に、ルタは顔を上げる。


「……しかし、今回ばかりは――」


「そもそも、ルタのせいじゃないだろ。俺はただ、自分ができることをしただけだ」


 しがみついたまま、ルタは上目遣いでカズキの顔を見ていたが、返ってきた言葉に感極まったのか、胸元に顔を埋めるようにした。

 ルタは自戒するかのように、何度も何度もカズキの胸板に頭をとん、とん、とぶつけた。


「カズキさん……ルタさん……本当によかった」


 そんな二人の様子を、ルフィアも安心したような顔で眺めていた。

 ふと見ると、ルフィアのいる洞窟の入り口付近には、見慣れないローブ姿の人々がたむろしていた。


「お話中失礼するよ」


 と。

 入り口の人々の中から、一人の小柄なローブ姿が進み出てくる。

 フードが顔を覆っており表情は窺えないが、声音からして男性だろうか。


 彼は、洞窟内の湿っぽい空気を一掃するように、快活な声を洞窟内に響かせた。


「はじめましてだね、カズキ・トウワ。ボクはフシン・アヌザァイ。星の声を聞く民の長をしている者だ。よろしく」


 カズキの元まで進んだ男性――というより少年の小柄さだ――は、フードを片手で脱ぎつつ、もう片方の手をカズキへ向けて差し出した。


「あ、ああ」


 口元に、柔らかな笑みを湛えているフシンと名乗った者。

 妙な人懐っこさと押しの強さに呆気にとられたカズキは、ルタに抱き着かれたまま腕を伸ばし、握手した。


「驚いているようだね、カズキ・トウワ。魂力チャクラが揺れている」


 少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、フシンは言う。

 図星を突かれた格好だが、カズキが驚くのも無理はなかった。


 フシンは、目元に黒い布を巻いていた。

 にも関わらず、一切の淀みなくカズキの元へと歩み寄ってきたうえ、正確に手を差し出してきたのだ。


 カズキは、フシンが自分と同じような『魂装カルマの義眼』に似た能力を持っているのだろうと察する。


「カズキ、色々と勘ぐっている様子だけど、ボクは星の声を聞く民だからね。視力を奪われても、このぐらいの芸当はわけないよ。

 ちなみに、こう見えて今生きている人類では最高齢のさ」


「さ、最高齢!? え、ええ!?」


 さらに驚愕の事実を告げるフシン。

 カズキの目の前にいるのは、どう見積もっても十代後半ほどに見える、中性的な顔立ちの少年だった。

 長めの前髪の隙間から覗く口元は瑞々しく、いかにも若さを感じさせていた。


「ま、魂力への造詣ぞうけいや操作を極めていくと、自ずと肉体が若々しくなっていったりするものだからね。それはカズキ、君もよく知っているだろう?」


 言いながらフシンは、カズキの肩を馴れ馴れしく揉んだ。

 一瞬、痛みを感じたが、すぐに収まった。


「この辺りの骨は、ほとんど砕けていたんだよ。まぁ、ボクが必死に治療をしたので、問題なく回復したけれどね」


 言ったあとフシンは、ぽんとカズキの肩を叩いた。

 確かに痛みはなく、問題なく動かせた。


「そうじゃぞ、カズキ。フシンら『星の声を聞く民』の助けがなければ、わしら全員どうなっていたことか」


 ルタが、念を押す。


「そっか。ありがとう」


 告げられた事実に、カズキは改めて礼を言う。


 自分が寝ている間、なにがあったのか。

 カズキの思考が、そんな疑問を思い浮かべる。


「そう言えば、俺は何日眠ってたんだ?」


 ふと、気になったことを問いかけるカズキ。


「一週間ほど寝ていたよ」


「い、一週間も!?」


 再び、驚きに目を見開くカズキ。

 それだけ、自分の身体にはダメージがあったのかと、今さらながらぞっとした。


「そう聞いたら、急に腹が減ってきた……」


 しかし肉体とはゲンキンなもので、経過した時間を意識すると、急激に腹の虫が騒ぎ出す感じがした。

 カズキはぺしゃんこに凹んでいるお腹をさすることで、それとなく周囲に空腹を訴えた。


「よし、それじゃまずは腹ごしらえといこうか。ボクの仲間たちに食事を準備させるよ」


 カズキの様子に気を利かせたのはフシンだ。

 彼が手を上げると、洞窟の入り口付近にいた人々が、どこかへ降りて行った。


 どうやら、食事の支度をしてくれるようだ。


「さて、カズキくん。そろそろ動けるだろう? 身体もほとんど回復しているはずだ」


 そう言い、フシンはカズキの背中を所々揉む。

 少しくすぐったい。


「ああ、痛みはないよ」


「よし、なら行こうか。ほら、ルタ嬢も離れて」


「う、うむ」


 カズキとフシンの会話の間、抱っこされる赤ん坊のように引っ付いていたルタも、おずおずと離れた。

 頬が若干赤くなっており、思わずくっついてしまっていたことが恥ずかしい様子だった。


「メシでも食べながら、色々と話そうじゃないか」


 立ち上がったカズキに、フシンは不敵な笑みを浮かべて言った。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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