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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第一章 ジプロニカ王国編

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043 饒舌な考古学者とランチタイム


「いやー、皆さんと食事できるとか、マジでテンション上がりますわー」


 カズキの目の前で、嬉しそうに料理を頬張っているのは、フェノンフェーンお抱えの考古学の権威、ヴェノッキオである。

 城内にいくつか設えられているというテラス型の食事スペースに、カズキらは移動していた。


 正午の空は太陽が高く、強い日差しが席に降り注いでいる。


「「「…………」」」


 各席にセットされているパラソルの下、カズキたちは豪勢なコース料理を目の前に、なぜか皆ふくれっ面で食事を進めていた。


「ここね、結構人気のスポットなんすよ。でもやっぱ一人じゃ来る気しなくてねー。

 何度かペネッペ誘ったことあるんすけど、一度も付き合ってくれないから、ボク、今日がはじめてなんすよー。風が気持ち良いっすわー。あと料理、ウマいっすねー」


 カズキたちの目の前では、ひたすらヴェノッキオが一人ペラペラと自分がしたい話をマイペースに話し続けている。


 あぁ、早く解放されたい……カズキは心中で切実に願う。


 なぜ、こんなことになっているのかと言えば。


 遺跡で手に入れた耳飾りを受け取り、ようやくヴェノッキオのチャラさとマイペースさから逃れられると思った矢先。


「お近づきの印にー、メシいきましょ、メシー」


 急遽、皆でランチをしようと言い出すヴェノッキオに、半ば強引に連れ出されたのであった。


 ペネロペだけは、上手く途中退場をやってのけた。

 研究所を出た途端、突如として「私はちょっと用事があるので……」などと見え透いた嘘を並べ立て、そそくさと場を離脱したのだ。


 めんどいヤツを俺らに任せて逃げやがった……カズキたちの苦虫を噛み潰したような表情は、ペネロペに対しての悪態からなのだった。


「ルタちゃんもルフィアンヌも、カズキーヌも遠慮しないで良いっすよ。食事代も王様持ちなんで」


「ちゃんはやめいと言っておる! せっかくのメシがまずくなろう!」


「わ、わたしだってなんですか、アンヌって……恥ずかしい!」


「二人とも全然マシじゃん……俺なんか犬の仲間みたいにされてんだぞ……」


 まったく持って犬が悪いわけではないのだが、犬でもないのに犬のような名前を付けられ、カズキは心で泣くしかなかった。


 泣くことしかできなイーヌ、である。


「それにしても、色々と好奇心を刺激されるなー、三人といると。『ローブズ』だっけ? 三人のチーム名」


「「「チーム名じゃない」」」


 ヴェノッキオが聞いていないのはわかりつつも、カズキ、ルタ、ルフィアの三人は異口同音いくどうおんにツッコむ。


 先ほどから、ヴェノッキオはたった一人で好き放題喋り倒している。

 なんの脈絡もない話をしたり、急に貴重な知識をひけらかしたりと、話の内容がピーキーすぎて、カズキたちには到底捌ききれなかった。


「そうそう、この国って一応、幻獣伝説ってのが伝承であるんすよー」


「ぶほっ!」


 と、またもやなんの前触れもなく核心を突くような話題を話し出す。

 カズキは思わず咳き込んだ。隣のルフィアが気を利かせ、ハンカチを貸してくれる。


「その話、詳しく聞かせい!」


 やはりと言うべきか、ルタが食事の手を止め興味津々に食いつく。


「やっぱ興味ありますかー? あれも一応研究はしてたんすけどねー。でも外れっぽいっすよ」


「はずれ? どういうことじゃ?」


 要領を得ない回答に、ルタが怪訝な表情をする。


「ルタちゃんの同族とは、たぶん関係ない話っすねーアレは」


「っ!?」


 ヴェノッキオは、こともなげに言い切る。

 ルタとなにか話をしたわけでもないだろうに、彼はルタの目的を、なんとなく理解している様子だった。


 ルタの言動などを観察して、推察したのだろうか。

 チャラくてズボラでマイペースだが、やはり頭は切れるらしい。


「なんか、レイブラムさんのお父さんっぽいんすよね、伝承の元ネタになってるのは」


 赤みの肉をくちゃくちゃと頬張りながら、ヴェノッキオは続ける。

 元ネタて。

 カズキは心内でツッコんだ。


「実際、レイブラムさんのお父さんがこの国を大きくしたんすけど、その最初期、国をこれから大きくするぞって過程で、幻獣伝説は“創られた”みたいなんすよ」


「“創られた”……? というと?」


「亜人は、人間に支配されてきた歴史があるじゃないすか? そういう背景を覆して、亜人が国家規模で反抗するためには、人間の民衆に対して、亜人の支配階級にだって由緒正しい血族がいるんだ、ていうのをアピールする必要があったみたいなんす。


 で、そのためのプロパガンダとして、誰もが知ってる古代種、ドラゴン族の血筋を引く幻獣がこの地には元々いて、その幻獣の血を引いているのが王となるリングラン一族だ、という風に伝承として定着させていった……というのが幻獣伝説の正体っぽいんです。

 この説自体は父親の受け売りなんすけど、まぁ確かに文献読み漁ると、そうだなーって感じで。


 まぁ、今では伝説とされてるドラゴン族が祖先にいると思えば、亜人たちは自ずと人間への敵対意識で一致団結できますしねー。上手くやったもんすよ」


 早口で語り切ると、ヴェノッキオはスープを一口啜って喉を潤した。

 カズキは早口すぎるのと情報が多すぎるのとで、理解が追い付いていなかった。


「ふむ……そうか。なんにせよ、空振りだったということだな」


 だが、ルタは話の概要を察した様子だった。

 幻獣伝説が創作だとわかり、肩を落としたようだ。


 カズキはいたたまれない気持ちになり、食事する手を止めた。


「あー、でもレイブラムさんみたいな龍頭の亜人ってのは、実際ルーツはドラゴン族だって考えられてるんすよ」


「な、なんじゃと!?」


 ヴェノッキオがもたらした情報に、ルタは驚きの声を上げる。

 カズキとルフィアは、黙って話を聞いている。


「今現在わかっている在りし日のドラゴン族の生活様式は、かなーり多種多様だったみたいで。

 どうやら数体で構成された小さな集団が、世界各地に点在してて、各々、独自に暮らしを発展させていったみたいなんすよねー。


 それがまた超ー興味深くて、同じドラゴン族なのに、海で暮らす者たちもいれば、山で暮らす者たちもいたみたいでー。

 で、その中で比較的平地に暮らし、人間に近い生活様式を持っていた種類が、龍頭の亜人の祖先とされているんすよー。

 ね、おもしろくないすか?」


 早口にまくし立て、ヴェノッキオは笑みを浮かべる。


「ということは……レイブラムの一族と、わしの一族とが――」


「そうそう、ルタちゃんとレイブラムさんが遠縁である可能性も、ゼロじゃないってことなんすよねー」


 心底嬉しそうに、自分が興味のある話をひたすら続けるヴェノッキオ。その様はまさしく、好きな玩具で遊び続ける子供のように感じられた。


 ルタは真剣な様子で話に相槌を打っているが、カズキとルフィアは小難しい話を理解しきれず、口を挟まずに、静かに食事を再開していた。


「ふむ……確かにそう言われれば、レイブラムはわしの仲間に似たかおをしてはいたな。じゃが、わしの一族はあんなに小型ではなかったぞ」


「そうなんすねー。やっぱドラゴンでか。ロマンあるわー」


「あ、あれで小型なのかよ……」


 眼を輝かせるヴェノッキオに対して、黙々と食事をしていたカズキは、レイブラムの体格を「小柄」と形容するルタの言いっぷりに、思わず声を漏らす。


 “真のドラゴン”というのはやはり、かなりの大型生物らしい。


「まぁ、仮に遠縁だったとしても、ドラゴン族の平均寿命は三千年ほどだったと考えられてますからねー。

 そんでもって、亜人の平均寿命は三百年なんで、ドラゴン族の一世代で、亜人が十世代重ねてしまうって考えれば、もうぶっちゃけ他の種族と言っていいぐらいかもしんないっすね」


「さ、三千年と三百年て……」


 途方もない数字に、カズキの想像力は限界を迎える。イメージするには、さすがにスケールが大きすぎた。


 ドラゴン族は一個体が三千年も生き、その十分の一の寿命しかない亜人でも、三百年もの歳月を生きるのだと言う。

 人間の寿命を百年だと考えても、亜人ですら人間の三倍生きるのだ。


 カズキには到底、想像のつかない年月だった。


「ふぅ……まだまだ、わしの旅は続きそうじゃな」


 独り言のように、ルタはぽつりと呟いた。

 遠縁かもしれないというレイブラムの存在だけでは、やはりルタの旅は終わらないようだ。


 カズキはルタの横顔を見ながら、その心中を想像した。


「まーまー、なにはともあれこうしてお近づきになれたわけだし、みーんなで仲良くやってきましょー。

 ボクなんかもまだ三十年そこらしか生きてないんで、ルタちゃんとルフィアンヌに比べたらまだまだ若輩なんすよ。だからこれからも、色々とご教示オナシャスー。

 あ、もちろんカズキーヌもね?」


「俺はついでかよ」


 へらへらしながら軽い会釈をするヴェノッキオに、カズキはツッコむ。


「いやいや、違うっすよ。ほら、ボクらもう友達っしょー?」


 悪びれる様子も一切なく、顔をくしゃっとさせて笑うヴェノッキオ。

 どこか愛らしいその顔は、狼というより愛嬌のある小型犬のように思えた。


「……言ったもん勝ちだなぁ」「……仕方ない奴じゃのう」「……まったくもう」


 カズキ、ルタ、ルフィアは顔を見合わせて、溜め息交じりに苦笑した。


 湿っぽい空気を吹き飛ばした、チャラく、ズボラで、テキトーな男、ヴェノッキオ。

 しかし、彼が憎めないキャラクターなのも、また事実だった。


 当の本人はと言えば、運ばれてきた食後の紅茶を啜って「うまー」などと言っている。


「ま……これからも色々と、よろしく頼むよ」


「うぃーす」


 言って、カズキとヴェノッキオは互いに拳を突き出し、こつんと合わせた。


「わしもじゃ」「わたしも」


 ルタ、ルフィアも加わり、同じように拳を突き出す。

 四人で輪を作るように、それぞれ拳をぶつけ合った。


「いやー、こういうの良いっすねー。会話のキャッチボールっていうか」


「「「お前が言うな」」」


 ともあれ。


 この国では、たくさん友達ができるなぁ――カズキはそんなことを考えていた。

 心地よい風が、通り過ぎる。


 太陽の下、皆の影が一つに重なり、長く長く伸びていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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