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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第一章 ジプロニカ王国編

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042 耳飾りの正体


 アン・グワダド地底湖遺跡での特訓や、フェノンフェーン城の探索、歩き疲れた挙句の厨房での愚行、そこからのペネロペによるガチ説教など、様々な経験をしたその翌日。


 カズキたちは朝早くから、フェノンフェーン城のすぐ近くにある、魂装道具カルマ・サーダンの研究施設にやってきた。


 目的は、アン・グワダド地底湖遺跡で手に入れた、金色の耳飾りについての調査報告を聞くためだった。

 研究施設は一見、城の関所のようなおもむきだった。こじんまりとした小屋で、城の入口近くに造られているという位置関係も影響しているだろう。


 案内役のペネロペを先頭に、研究施設の扉の前に立ち、ドアノッカーを叩く。

 カンカン、と小気味良い音が鳴った。


「へーいらっしゃいー」


「店員!?」


 と、なぜか小屋の中から、日本の居酒屋の店員さんのような声が届く。

 思わず反射でツッコミを入れてしまうカズキ。


 覇気のない様子で現れたのは、エプロンのような前掛けを着用した、二足歩行の狼頭の亜人だった。

 耳と耳の間、頭髪(?)が異様に長く伸びており、それを寄り集めてリーゼントのような独特の髪型を成形している。


 一度見たら忘れられないようなインパクトだ。


「彼は、フェノンフェーン随一の考古学者であり、王が直々に魂装道具の研究を依頼している、魂装道具研究局のヴェノッキオだ。彼が今回、多忙を押して耳飾りの調査を担当してくれた」


「どもー」


 ペネロペに紹介されたヴェノッキオは、軽く片手を上げて小さく会釈した。


 妙に、ノリが軽い。

 カズキの第一印象はそれだった。


「あ、まずー、ルタさんとルフィアさんと握手、いいすかー? 考古学やってる身としては、やっぱ古代種のお二人は推すしかないっしょ、ていうー」


 間髪入れず、ヴェノッキオが口元をヘラヘラさせて手を差し出す。


 ……推す? なんでそんな言葉知ってんの?

 カズキの疑問は、ジト目となって表情に現れる。


「……なんなんじゃ、こやつの妙な空気感というか、雰囲気というか。そこはかとなくイラっとするのに、なぜか怒る気にもならぬという」


「わたしにもわかりませんが……ただ、この方にはどんなに真面目な話をしても無意味なのだと、本能が叫んでいる気がします」


 カズキが抱いている不信感と、同類のものを感じ取っている様子のルタとルフィア。

 二人とも、かなり困惑気味だ。


 カズキはその様子を、まるで育ちの良いお嬢様がチャラいギャル男にはじめて絡まれたときのように見えた。

 そんな瞬間を目撃したことはないけれども。


「あれ、握手無理すかー? 握手したいなー、握手。シェイクハーンプリーズ?」


「う、うむ……」「え、ええ……」


「やりー。握手握手ー」


 言いながらヴェノッキオ氏は両手を器用に使い、ルタとルフィアと同時に握手をした。

 相手の妙な強引さ、ぶれない調子に押され、結局握手の手を差し出してしまったルタとルフィアなのだった。


 これがチャラ男のモテテクなのだろうか……などと考えながら、カズキは冷めた目でその様子を見ていた。


「うわー、マジ感動すわー。ペネッペさー、マジその案内役的なポジションいいよねー。変わってほしいわー」


「はぁ……その呼び方だけはやめろと言っているだろう」


 誰よりも呆れ顔なのはペネロペである。

 その表情からは、もう何度も何度も注意を重ね、諦めてしまった諦観が見て取れた。


「えー、ペネッペって可愛くないすか? 良いと思うんだけどなー。

 ペネッペは頭固いから、あだ名だけでもプリティな方がよくないすか? ねー?」


「は、はぁ……」


 突然、謎の同意を求められたカズキ。

 考える間もなく頷くしかなかった。


「いいから、早く例の物の鑑定結果を聞かせてくれ」


 呆れたように溜息をつきつつ、話の先を促すペネロペ。

 カズキは堅物なペネロペが、なぜこんな性格の人物を注意しないのかと訝しんでいたが、今のペネロペの表情を見て、改めて納得する。


 このヴェノキオ氏は、やはりいくら言っても暖簾のれんに腕押し、話をほとんど聞かないタイプの性格のようだった。


「あれすか、昨日、地底湖遺跡でゲトったヤツっすよね。了解了解、ちょい待ちっすー」


 言うとヴェノッキオは、小屋の奥へと引き返し、乱雑に本やら資料やらが山と積んである机へと身体ごと突っ込むと、なにやらガサゴソと漁りはじめる。


 どこに保管してんだよ……とカズキは呆れたが、口には出さないでいた。


「あーこれこれ。これねー、あったあった。失くしたかと思ったー」


「失くしてたらフル○ッコじゃぞ……」「間違いなくフル○ッコでしたね……」


 ルタとルフィアが、同じように眉間にしわを寄せ、低く呟く。

 というか二人もなぜフル○ッコなんて物騒な言葉を……とは口に出さないカズキなのだった。


 どうやらヴェノッキオは、昨日カズキらが死線を越えて手に入れたアイテムを、一切整理整頓をしていない様子の机のどこかに保管(?)していたらしい。

 恐れ入るズボラさ、テキトーさだった。


「端的に言うとー、まあアレっすね、かなりのレアアイテムっすね、ぶっちゃけ」


 ヴェノッキオは、カズキたちが遺跡で手に入れた環状かんじょうの耳飾りを、指先でぶら下げるようにしながら言った。

 かなりのレアアイテム――専門家(に見えないが)から語られた事実に、カズキの心は否応なく沸き立っていた。


 自分の足で遺跡に潜り、魔物を倒し、手に入れたアイテムが貴重な物だった。

 その事実は、一度でもRPGなどを遊んだことがある者からすると、非常に胸高鳴るものだった。


「ちなみに、どうレアなんだ?」


 浮足立つカズキを差し置き、ペネロペが訪ねる。


「長くなるかもっすけど、いいんすか?」


「ああ」


「あー……説明めんどいな」


 ペネロペの応答に、ヴェノッキオは若干面倒そうに頭のリーゼントを掻く。

 ヴェノッキオの台詞と態度に、全員の額に青筋が立つ。


「えとー、まずなんでレアなのかって言うと、ルタちゃんの祖先に当たる、超昔に生きてたドラゴン族が造った魂装道具なんすよね、これ。超古いもんだから、まぁ当たり前に、超レアってこと。

 あ、ちなみに、アン・グワダド地底湖遺跡をはじめとした『ダーナの十三迷宮』も、太古の昔にドラゴン族とエルフ族が造ったって考えられてるっすね」


 すらすらとこちらを気にすることなく、自分のペースで話すヴェノッキオ。


「ルタ、ちゃん……だと?」


「ルタ、押さえてくれ。全員のイライラが長くなる」


 マイペースに馴れ馴れしくちゃん付けされ、いよいよ拳を震わせるルタ。

 しかし、ここで乱闘騒ぎになってしまっては、話が進まずさらにイライラする時間が伸びることになる。

 カズキは冷静に、ルタの肩に手を置き、深呼吸を促した。


「で、これ、ドラゴン族専用の魂装道具みたいなんすね。どうやら装着した者の魂力チャクラを、増強する能力があるっぽくって。なのではい、ルタちゃんどーぞ」


 言うとヴェノッキオは、軽い手つきで耳飾りをルタに返した。

 ルタはビキビキと額に青筋を浮かべながら「……ありがとうよ」と吐き出すのが精一杯だった。


「ささ、着けてみましょ着けてみましょ」


 耳飾りをルタに手渡したヴェノッキオは、今度は急かすように耳飾りの装着を促してきた。

 ルタは一度彼を睨みつけたが、自分の手元で再び金色に輝き出した耳飾りを見て、意識がそっちに向かった様子だった。


「これ、危険はないんですか?」


 心配そうにルフィアが問う。


「ルタちゃんならたぶん大丈夫っしょ。ドラゴン族が造った、ドラゴン族専用なわけだし。ボクら亜人とか人間が着けたら、どうなるかはわからないっすけどね」


「無責任な……」


「だって考古学は実践がありきっすからねー。ビビってたらなんも発見なんてできないっすよー」


 あっけらかんと言い切るヴェノッキオ。

 もう全員が彼のマイペースぶりに負け、やつれはじめていた。


「まぁ、確かにわしが着けてみるのが一番じゃろうて。どれ」


 ルタは意を決したように、金髪を耳にかき上げ、耳飾りを装着した。


 すると――


「む……これは――」


 装着した途端、ルタの金髪が一度波打つように光沢を放った。

 魂力がうごめくのが、カズキにもすぐに感じられた。


 カズキは魂力の流れを読みつつ、状況を注意深く観察する。


「呪いによって押し留められていた魂力が、せきを切ったように溢れ出てくる!」


 言葉通り、ルタの全身にこれまでにない魂力の脈動が巻き起こる。


 両手の拳をぐっと握り込み、心底嬉しそうな笑顔を見せるルタ。

 無邪気に笑うルタの様子に、その場の全員が微笑ましい気持ちになる。


 しかし――


「むぐ!?」


「! おい、ルタ! 大丈夫か!?」


 一度、ルタが腰を低くして気張ったタイミングで、急に胸元を押さえて苦しみ出す。

 どうやら、さらに魂力を引き出そうとして、身体の奥で“なにか”が抵抗する感覚があったようだ。


 魂力の流れを読んでいたカズキには、魂力の流れに“引っ掛かり”のようなものがあったことが、よくわかった。


「げほ、ごほ……ふう、油断してしまった。どうやら、完全に呪いが解けたわけでもないようじゃ。

 今流れ出た魂力の、奥の奥のそのまた奥に、まだまだ強大な力が沈んでいるのがわかる」


 大きく息を吐き、気を落ち着けるルタ。

 魂力の流入により浮き上がるようになっていた金髪が、重力に準ずるように落ち着いていく。


「ひゅー。ドラゴン族の魂力って、やっぱすげー。生で見れてよかったぁ……」


 ルタの様子をまじまじと観察していたヴェノッキオが、小躍りしながら独り言ちる。世が世なら、きっと彼はクラブかなにかで夜通し踊り明かすタイプなのだろう……クラブになんて行ったことないけど。


 カズキは一人で、まったく無関係なことを考えていた。


「……結局のところ、どうなんだ? 状況は良くなったのか? それとも悪くなったのか?」


 ふとカズキは、気になったことを単刀直入に尋ねてみる。

 すると――


「良くなったに、決まっておる」


 ルタが、真面目な表情で答えた。

 両耳の金色の輪が、より一層(きら)めく。




「ぬふふ、喜べ。これでわしも――戦える」




 口角をぐっと吊り上げ、ルタは凶暴に――笑った。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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