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003 魂力(チャクラ)と魂装(カルマ)


 カズキが命を繋ぎ止めて、何度目かの朝日が降り注ぐ。

 すでに命の危機は脱し、体力も回復してきていた。

 命の恩人であるルタと共に日の当たる岩肌に腰掛け、会話を交わしている。


「『魂力チャクラ』は、この世に暮らす生きとし生けるもの、その全てに宿っていると言われている力じゃ。

 言うなれば生き物にとっての根源的な生命力そのものじゃな。まあ、常識や価値観、宗教観などで形容する言葉が変わったりすることはあるじゃろうがの」


「あー。魔力とか、気とか、オーラみたいなもんだな」


 上半身裸で胡坐をかいているカズキと、その周囲でなにやら手を動かしているルタ。

 カズキの上体にある大小の傷には、破いたシャツが包帯のように巻かれている。

 ルタに傷の手当てを受けつつ、カズキはこの世界についての基本知識を学んでいたのだった。


「何度も言うが、『魂力』を使って武具を顕現させる行為を『魂装カルマ』と呼ぶ。うぬが言っていた戦った男の剣も、おそらく『魂装』で作りだした物であろうな」


「カルマ…………」


 カズキは呟きながら、右手首の辺りをさする。

 今は布が巻かれ、出血は完全に止まっている。


 カズキが最初に呼び出された場所、王らのいた玉座の間で、彼らに半ば無理矢理、絵巻のような物を読まされた。その中に、確かに『魂力』と『魂装』という単語があった。

 そして、一瞬目を通しただけにもかかわらず、書物に従ってやってみろと急かされ、断ることもできないカズキが試みたのが『魂装』であった。


 当然、カズキはその時がはじめてのチャレンジだったのにもかかわらず――あっけなく成功させた。


「だけど、俺の『魂装』は……」


 カズキは左の人差し指と親指で、輪っかを作った。


 そう、カズキの『魂装』は極小の指輪だったのだ。

 現象を確認した途端、召喚に湧いていたジプロニカ王らの目が一気に冷めていったのを、カズキははっきりと覚えていた。


「指輪……のぅ。それは確かに、何もわかっとらん無知な連中からすれば、無能な者に見えるかもしれんの」


「……お前も俺を蔑むのか?」


「そう怒るでない。『何もわかっとらん無知な連中』と言うておろうが。わしは断じて、その限りではないぞ。なにせ、かつて最強を誇ったドラゴン族の王位継承者なのじゃから。他者の力量を見誤るほど愚図ぐずではない」


「……そうか」


「よし、いいか、よく聞のじゃぞ」


 ルタはそう言うと、手近なところから小石を持ってきて、がりがりと地表になにやら描きだした。どうやら『魂装』の仕組みを図解してくれるらしい。


「よいか。『魂力』というのは先ほど言った通り、誰の身体にも流れておる」


 岩肌の表面と石が擦り合わさる音が、カズキの耳を震わせる。

 ルタの手によって、一体の棒人間が描き出された。


「魂の声、生物の生の象徴と言ってもいい。本来それは、共感し、共鳴し、共生するものじゃ」


 スラスラと解説を空で謳いあげるルタ。

 どこか得意げなその様子はまるで、自分が描いた絵を自慢する小学生のようだった。カズキは気持ちよく話しているのを邪魔してはいけないと考え、黙って頷いておいた。


「ということは、じゃ。この世界の生きとし生ける者たちは『魂力』を有効に使えば、種や言語の垣根を超えて、共に生きていくことができる、ということなのじゃ。

 これはわしの推測じゃが、異界から来たといううぬと、わしらこの世界の種族が不自由なく言語コミュニケーションを図れているのも、『魂力』が作用してのことじゃろう」


「あー、それで言葉がわかるし、伝わるのか」


 今まで感じていた疑問に対する合点がいく。

 当然だが、カズキはずっと、普通に日本語を話せば伝わり、他人の言葉が日本語で聞こえることを不思議に思っていた。

 日本独自のオタク文化による先入観から『そういうもの』という風には、カズキは割り切れていなかったのだった。


 要するに、この世界では『魂力』によって、どんな言語を発しても、相手に届く形で自動翻訳されるというわけだ。

 これにより、各々が母国語しか扱えないとしても、問題なくコミュニケーションが成立するということになる。


 さらにもう一点、カズキはこの世界の文字を読むことができた。


 その事実から察するに、声に出した言葉だけでなく、文字も翻訳されているという風に考えられた。


「『魂力』、便利だな」


「その通りじゃな。まぁ、それが当たり前すぎて、この世界の者たちは、なんのありがたみも感じておらんのが現状じゃがの」


 ルタはため息混じりに肩を落とした。


「そして、そんな便利な力を、一点に集中させて放出することで、具現し、武器、または防具となるのが『魂装』というわけじゃな」


 言いながらルタは、先ほど描いた棒人間の体に沿うように、たくさんの矢印を書き加えた。それらの矢印が指し示すのは、手の先だ。

 そして、矢印の集中した手の先に、ルタは棒のような縦線を書き加えた。棒人間が棒を掲げているような図が出来上がった。


 それを見たカズキは(うん、ルタには絵心がない)と率直な感想を抱いた。

 しかし、確実に怒ると思ったので、口には出さなかった。

 その代わり、違う言葉で相槌を打った。


「……俺にも『魂装』ができた、ってことでいいんだよな?」


「ああ。うぬの話を信じるなら、異界から召喚された者にも『魂力』が流れているということになる。それがそもそも驚きじゃが、まさか『魂装』まで行えるとは。

 こればかりは、さすがに誰もが使えるというものではないのでな。本来であれば人間は、素養を持つ者が長年の修行と鍛錬を経て、ようやく『魂装』へと至るのが普通じゃ。それをうぬは、一瞬で発現させたというわけじゃな」


「そ、そんなに難しいことだったのか……」


「そうじゃ。ゆえに、そんなうぬを無能などと言う連中は、かなりおつむがおめでたいというわけじゃよ。『魂装』への造詣が浅い、無知蒙昧な輩と言わざるをえん」


 おつむという言葉に合わせて、ルタは自分の頭を指さした。

 カズキはあからさまに褒められているのがわかり、若干気恥ずかしくなった。


「ルタは使えるのか?」


 話を逸らすように、聞いてみる。


「……使えないこともない、といったところかの」


 カズキは興味から聞いただけだったが、その質問をした瞬間、少しだけルタの表情が曇った。いつもの自信満々な雰囲気ではないのを感じ取り、カズキは少しいたたまれなくなった。


「で、じゃ。

 この『魂装』というのは、人間にとっては“出す”か“出さない”かしかないのじゃ。要するに“零”か“百”かということじゃな。

 そして、百の場合の武具というのは、『魂装』を行った者――『魂装遣カルマつかい』の総魂力量そうチャクラりょうに比例するとされている。

 それがどういうことか、うぬ、わかるか?」


「えっと……」


 カズキはルタの話から、愛読書である少年漫画の設定を連想していた。


 それぞれのキャラクターに設定されている不思議な力(魔力など)の総量が武器の大きさに比例する、そんな設定は少年漫画ではよくある。


 そしてお決まりのパターンとして、ひょんなことからその力を使って戦うことになった主人公は、はじめての能力開放にも関わらず、誰よりも巨大な武器を出現させる――カズキも大好きな王道の展開である。


「あ……じゃあ俺は、めちゃくちゃ弱いと思われたのか」


 漫画の王道展開をイメージし、自分が他者からどう思われたのか、かなり腑に落ちたカズキ。

 だが理解はできたが――納得はできなかった。


「その通りじゃ。人間の魂装遣いの常識では、武具の装飾や大きさで、遣い手としての格が決まるものじゃからの」


「そんな価値観の中じゃ、指輪はそりゃ笑われるか……」


「しかし、じゃ」


 ルタは持っていた石でカズキの左胸を指し示す。


「『魂装』にはの、人間はわかっておらん“第三の選択肢”があるのじゃ」


 にやりと、ルタは笑った。


 カズキとはじめて出会ったときに見せた、あの凶悪な笑みだった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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