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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第一章 ジプロニカ王国編

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038 アン・グワダド地底湖遺跡②


「そこじゃぁぁ!」


「ギギャ!?」


 カポエラのような独特な動きで、出現した魔物をほふるルタ。

 魔物は息絶えると光の結晶になり、粒子となって空気中へ溶けていく。その現象のあと、ルタは気力が漲ってくるのか、満足そうに深呼吸を繰り返す。


 すでにカズキたちが倒した魔物の数は、三十を超えた。


 戦うルタを見守るようにポジションを取っているカズキの後方では、ペネロペ、ルフィアも戦っている。

 薄暗く狭苦しい中でも、両者とも縦横無尽に魔物を倒している。


 それぞれの距離があまり開かないよう注意しながら、互いが互いを目視できる距離感で、各自特訓を行っているという状態だった。


「ふはははは! 戦いとはいつも二手三手先を考えて行うものだ!」


 遺跡に入って以来、なぜか急にア○ナブル化したルタの高笑いが、遺跡内にこだましている。

 その声に引き寄せられるように、魂装道具カルマ・サーダンの光が届かない暗闇に、また赤い眼がぼうっと浮かび上がった。


「おぅおぅ、身の程知らずめが。わしの糧となるがいい」


 自分が強く美しくなっているのがよほど嬉しいのか、ルタはこれまでになく上機嫌だ。

 凶暴に笑い、片手を突き出すようなファイティングポーズを取る。そして、赤い眼へ手を向け、クイ、クイと手招きするように動かした。


 実に挑発的な仕草である。


「ギギャギャ!!」


 ルタの誘いに乗ったのかどうかはわからないが、無謀にも突撃してくる魔物。暗闇から現れたのは、やはりねずみが変異したような姿の魔物だった。


「せいやっ!」


 飛び掛かってきた鼠の横腹目掛けて、ルタはフックの形で拳を叩き込んだ。インパクトの瞬間、拳に込めた魂力チャクラぜているのか、チリと電撃がスパークしたような現象が起こる。


 一撃で絶命したのか、鼠は瞬時に粒子となって消えていった。


「ふん、もうこの辺りの魔物では物足りぬな」


「うーん、確かに」


 自らの豊かな金髪をかき上げながら、ルタは言った。動きにくかったのか、今はローブを腰に巻いて、簡素な麻の服を腕まくりしている。


 カズキは、ルタがすでにこの辺りの魔物では敵なし状態であるのを理解し、適当に頷いておく。


「では、そろそろ奥へ進むとしようか」


 カズキとルタの左後方辺りで、魔物と対峙していたペネロペが、二人の元に戻りながら言った。両手にはトンファーが握られ、器用に風を切って回っている。こちらもルタと同じく順調な様子だ。


「トンファー……いいよな」


 どこかうっとりしたような様子で、カズキは独り言ちた。

 ペネロペが身体の一部であるかのように扱っているトンファーを、カズキはかなりカッコイイと感じていた。


 今度自分も魂装カルマでやってみよう……密かにそんなことを考えているほどだった。


「わたしも……問題ないです」


 カズキらの右後方、来た道を守るように戦っていたルフィアも、息を整えながら賛同を示した。斧槍ハルバードの柄の位置を持ち変え、杖のように抱える。

 それがどうやら、ルフィアなりの戦闘態勢を解いた姿勢のようだった。


「よし、そうこなくては!」


 皆の声を受け、言い出しっぺのルタがときの声を上げる。

 その声に合わせて、全員が頷き合った。


 パーティは再び隊列を形成し、遺跡のさらに奥へと歩みを進めていく。今度は先頭には、ルタが陣取った。ペネロペの案内を耳に入れながら、むんずむんずと歩き進んでいく。

 カズキはその様子を見て、ルタはやっぱりこうでなくちゃな、と心の中で笑った。


 皆を照らす魂装道具の明かりが、まとわりつくような暗闇を、徐々に切り裂いていった。




    †    †    †    †




 石壁伝いに慎重に、暗い遺跡の中を歩き進んでいくカズキ一行。

 頭上から光を降らせる魂装道具を頼りに、時折襲いかかる魔物も確実に排除しながら、入り組んだ迷宮内を踏破していく。


「戦いは非常じゃ!」「だから、どこで覚えたんだその台詞!?」


 ルタが得意げに叫びながら、足元の鼠を粒子化する。カズキは思わず、声に出してツッコミを入れた。こんなやり取りもすでに、数回続いている。


 魔物の鼠は、奥に進んだためか、全体的に少し巨大化し、猫のような体格になっていた。

 赤い眼もかなり大きく、ギラギラと光るようになってきており、不気味さが増している。

 カズキは密かに、背筋にうすら寒さを感じはじめていた。


「お、開けた場所に出たようじゃ」


 ノリノリで先頭を行くルタが、カズキらを振り向きながら言った。


 ルタに続いてペネロペ、ルフィア、カズキの順番で進むと、ルタの言う通り、通路のような狭い空間ではなく、開けた広場のようなところへ出た。高さが確保されたからか、頭上の明かりが自動的に、上に昇っていく。


 広場は相当天井が高いようで、かなりの高度まで魂装道具は昇っていった。そして、カズキたちが光を感じられるギリギリの位置で、正確に留まった。


 高所から明かりが降り注ぐおかげで、視界が良好になる。ざっと見回してみると、広場はどうやら、ドームのような円形の空間らしかった。どこかで水が流れているのか、せせらぎのような心地良い音がする。


 だが、高度の光で開けた視界の中でも、広場の全容は見通せなかった。

 カズキは、このドーム空間がかなり広々としているのだと悟る。


「……ん?」


 天井、壁、足元とカズキが周辺に視線を巡らせていたとき。


 なにかを察知した様子のペネロペが、眉間にしわを寄せて呟いた。頭の兎耳うさみみが、ぴくりと何度か反応を示している。まるでなにかを探すアンテナのように、様々な方向に耳の先が動いていた。


 ペネロペの眉間には、皺が寄ったままだ。


「どうした?」


 カズキは少し心配になり、声をかける。

 ルタ、ルフィアも警戒心を高めたのか、各自で体勢を取り直す。


「一瞬、水の音に交じって、唸り声のようなものが聞こえた気がしたのだが……」


 周囲を再び見回したペネロペが、訝しんだ様子で言った。

 広場の奥には、未だ重たい暗がりが広がっている。


「油断は禁物だよな。俺も確認してみるよ」


 カズキはペネロペの言葉を受け、空間の魂力を読もうと眼を閉じた。その行動を受け、ルタ、ルフィアらも、周囲を警戒しつつ身を寄せ、しっかりと隊列をとる。


 耳を澄まし、カズキは前方奥の暗闇へと意識を研ぎ澄ませる。


 すると――


 ドク、ドク。


 激しい脈動をする魂力の流れが、確かにある。

 さらにその脈動に合わせて不規則に、ざ、ざ、ざと、ノイズのような音が断続的続く。


 ドク、ドク。


 なにかが近づいてくる……?

 果たしてこれは、自分の鼓動なのか、何者かの魂力の脈動なのか。


 カズキは言い知れぬ不安を感じながら、ゆっくりと目を開けた。


「大きな魂力の塊が……近づいてる」


 カズキは隊列から一歩進み出て、腰を低くして構えながら、呟く。

 断続的なノイズは、続いている。


「魂力の塊……ま、まさかっ」


 ペネロペが、切羽詰まった声を上げた途端――



「グリュルアアァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!」



 鼓膜を切り裂くような奇声を発しながら、前方の“暗闇”が浮き上がった。


 次の瞬間には、真っ赤な目がぎょろりと動き、漆黒の体毛を生やした生物が突進してきた。

 生物は、蜘蛛くものような多関節の脚をいくつも伸ばし、不規則に曲げ、ゆがめ、しならせながら地を蹴る。

 そして、カズキを先頭にした隊列に身体ごと突っ込んできた。


「うぐぁ!?」


 咄嗟に反応し、魂装によるシールドを展開するカズキ。自分の後ろにいる三人全員が防御範囲に入るよう、盾を縦横に大きく広げる。

 だが、右手にこれまでに経験したことのない負荷がかかる。

 シールドだけで転がる大岩を止めようとしているような、そんな重さだった。


 このままでは、右手が魂装の盾ごと引きちぎられる――カズキは瞬時に判断し、盾の形状を小回りの利く小さなものに変質させる。


「こ、こいつ……一体なんなんだ!?」


 カズキは黒い生物の膂力に圧されぬよう、両手で防御しながらペネロペに問う。その間も黒い生物は、触手のような脚を無秩序に動かし、後方のルタらを狙って刺突攻撃を仕掛けてくる。

 ルフィアが斧槍を使い、生物の脚をいなすようにして守っているが、手数の多さに押され気味だ。



「こいつは、魂力を喰らう者――マウナ・クーパだ!」



 化物の名が、ドームに反響する。


 カズキの目の前で、真紅の眼球が怪しく蠢いた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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