176 突然の別れ
「スカしておれるのも――」「今だけですよ!」
ルタとルフィアが叫ぶと同時に、地を蹴った。
その阿吽の呼吸とも呼べる連携攻撃には、カズキすら目で追うことがやっとだった。
一気に岩場を駆け上がり、ディウレリス・ディウメンジャーの喉元めがけて突き進む。
「ディウメンジャー様をお守りしろっ!」
少し遅れて反応したウムプリが、危機を察知して強く言う。
だが、すでに加速しきっているルタとルフィアを制することはできない。
瞬く間に、ルタとルフィアがディウメンジャーの懐へ接敵した。
「いい、ウムプリ。これだけレベルの高い女の子には、オレ直々に触れてあげないとね」
動こうと腰を低くしたウムプリを、ディウメンジャーが制止した。
その隙に、ルタとルフィアが魂装武器を煌めかせる。
「調子に乗るでないぞ、小童!」
「わたしはわたしを物扱いする人は嫌いです!」
二人の魂装の刃が、ディウメンジャーの喉元に届かんとした瞬間――
「「……っ!?」」
ルタとルフィアが、止まった。
なぜかルタとルフィアの身体が硬直し、ディウメンジャーの眼前で停止した。
まさか、魂装真名の能力か?――カズキは咄嗟に頭をフル回転させ、状況を把握しようと努めた。
「はい、もーらい」
「かはっ」「あ、うっ」
カズキを意に介する様子もなく、ディウレリス・ディウメンジャーはなにやら手を舞いのように動かしはじめた。
そしてその最後に、ルタとルフィアの視界を覆うように掌を拡げた。
途端――二人の身体が、だらりと脱力した。
「ルタ! ルフィア!」
異常事態を察知し、カズキは足に力を込め、ディウメンジャーを攻撃せんとした。
だが。
「あなたの相手は、この私です」
「っ!?」
既に動いていたウムプリにより瞬時に背後をとられ、後頭部に殴打をくらう。
カズキの視界がぐわりと揺れ、膝を着いてしまう。
「く、くそ……!」
魂力が読めてさえいれば、こんな打撃を直撃されることなどなかったのに――カズキの頭の中が、ある種のもどかしさで一杯になる。
「こやつ、いかがしましょう?」
「んー、労働力も足りてるしな。魂装道具で捨てておいて」
「かしこまりました」
「ま、待て……!」
カズキは朦朧とする意識の中、必死に抵抗しようとする。しかし、身体は思うように動かず、頭がずしりと重たいままだ。
「ルタ……ルフィア……今、助け……!」
「鏡に投げ入れろ!」
ウムプリの掛け声でどこからともなく現れた女性たちによって、カズキは鏡の魂装道具へと放り投げられた。
それはまさに、ジプロニカ王によってゴミ扱いされたときに酷似していた。
カズキが伸ばした手は、誰に届くこともなかった。
† † † †
「……ズキ、カズキ!」
呼びかける声がする。
どこかで聞いたことのある、懐かしい声だ。
「ルタ! ルフィア!!」
大切な人を思い出し、カズキは跳ね起きる。
二人を、助けなければ――しかし。
目の前にいたのは、ルタとルフィアではなかった。
――兎耳の亜人、ペネロペだった。
「ペ、ペネロペ!? どうしてここに!?」
「それはこっちの台詞だ、カズキ・トウワ。なぜこんなところにいる?」
言われて、カズキはようやく自分に起こったことを思い出す。状況を把握するため、改めて周囲を見渡した。
そこは以前、ペネロペと共に修業した『アン・グワダド地底湖遺跡』の入り口だった。
どうやら、魂装道具によってここまで飛ばされてしまったようだった。
「くそ……! ルタ、ルフィア……っ!!」
水音が響いていた遺跡の門に、カズキの嘆きが空しく響いた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




