表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

172/177

171 クータスタ島への道 ヴェルスヴェル大迷宮①

大変お待たせいたしました。連載再開となります。

楽しみにしてくださっていた方々、お待たせして申し訳ありませんでした。


「ここが、ヴェルスヴェル大迷宮……『ダーナの十三迷宮』の一つか」


 透き通るような青空の下、岩が重ねられ、遺跡のようになった入り口でカズキが言う。


 視線の先、奥へと続く道には松明たいまつらしき光が続いており、あまり不気味さは感じない。


「それにしても、本当に徒歩で向かうのでよかったのか? アルアたちは、クータスタ島へ即時転送される魂装道具カルマ・サーダンがあると話しておったが」


 右隣に立っていたルタが、カズキに向けて疑問を投げかけた。 


「ハイデュテッドとの戦いで疲弊してるデーモニアの、貴重な魂装道具を使うのが申し訳なくてさ。それに、久しぶりにこう、なんというか……二人とゆっくり、旅したいっていうか……」


 言いながらカズキは妙な恥ずかしさを感じ、ポリポリと頬を掻いた。


「カズキさん……」


 彼の言葉に、今度は左隣のルフィアが反応する。

 ハイデュテッドとの戦いを経て、各々の表情には落ち着きが見られ、一段と逞しさが増した印象があった。


「いや、ほら、俺が魂装カルマもなにもできなくなって、二人には今まで以上に迷惑をかけてしまうだろうし。だからこそ『ダーナの十三迷宮』を攻略しながら進んで、少しでも今後への糧にできたらなって、思ったんだよ」


 なんか言い訳っぽいな、などとカズキは他人事のように自分の言葉を聞いた。


「なんじゃ、言い訳じゃの」「素直じゃないですね」


 ルタとルフィアは、穏やかな笑みを見せて笑いあった。


「そ、そうかな?」


 カズキも、二人の和やかな空気に引っ張られるように笑う。


「準備も万端だし、いっちょ行くか」


 ひとしきり笑ったあと、カズキは荷物を背負い直して言う。


 魔族の者たちに持たされた様々な食料、道具、カズキの感覚で言うところの寝袋のような物といった物資が、大きな荷袋にはたくさん詰まっていた。

 それらはカズキにとって、まるで旅立ちの際に持たされるお土産のような気がしており、一つ一つを大事にしたいと自然と考えていた。


 ただ、結構重たい。


「当たり前だけど、油断はしないように」


「ふん、当然じゃ」「はい、了解です」


 そうして、三人は迷宮へと足を踏み入れて行った。




    †    †    †    †




「ヌッハッハッハ! 楽勝じゃのう!!」


 薄い胸を張り、ルタが油断しきった表情で高笑いする。


 迷宮へと足を踏み入れる前の誓いはどこへやら、相変わらずの傲岸ごうがんさを放ちながら、ルタはどすんと壁際に腰を降ろす。


 その様を見て、カズキは苦笑いした。


「よし、じゃあ今日はこの辺にしておこう」


 カズキは背の荷袋から取り出した布地を足元に広げ、そこに荷物を降ろした。

 ルタはすかさず「一番乗りじゃ!」などと言い、布の上に堂々と横になった。カズキはルフィアを顔を見合わせてから、肩をすくめる。


「それにしても、迷宮の中に本当に安全な場所があるなんてなぁ」


「ですね。確かに、危険な気配は感じません」


 カズキとルフィアも同じく敷いた布の上に腰を降ろしながら、辺りを見回しつつ言った。


 ヴェルスヴェル大迷宮の内部は、燃え続ける松明たいまつのような魂装道具が常時、光を放っており、暗闇に迷う事がほとんどない。


 魔物が出現しはするが、いくつもの修羅場、戦場を潜り抜けて来たカズキらにとっては、もはや障害にはなりえず、ここまで探索はなんの問題もなく順調と言えた。


 今のところは、カズキが魂力チャクラを失った影響もほとんど感じられなかった。


「魂装道具って、本当に便利だよな。こんなに長い年月、ずっと機能し続けてくれてるわけだし」


 今カズキらが腰を落ち着けている場所は、ヴェルスヴェル大迷宮内の、魂装道具によって魔物除けの結界が張られている場所だった。


 アルアによると、ヴェルスヴェル大迷宮は魔族がクータスタ島へと渡るための経路として、整備された『ダーナの十三迷宮』であるとのことだった。


 内部には半永久的な光を放つ松明のような物や、迷宮内に簡易的な結界を張り、魔物除けとなってくれる物など、多種多様な魂装道具が設置されており、未だに稼働を続けている。


 ただ、すでに気が遠くなるような年月、クータスタ島への渡航は魔族らの間でも行われていなかったらしく、内部の状況は魂装道具の状態を含め、未知数のことが多かった。


 しかし、未だこうして魂装道具は機能し続けており、カズキは改めて、その利便性の恩恵は計り知れないと感じていた。

 迷宮の中、魂装道具のおかげで魔物が近づいてこず、安全に休息することができる。なんと、ありがたいことか。


「んじゃ、明日に備えてちゃちゃっと食べて、さっと寝るぞー」

「うむ!」「了解です!」


 各自、慣れた手つきでテキパキと野営の準備を整え、束の間の団欒を描く。

 そうして、迷宮内での一日目は過ぎて行った。




    †    †    †    †




 ズズ、ズズ……と、何かが擦れるような音がする。

 カズキの意識が、少しずつ覚醒していく。


「…………?」


 魂装道具がある、魔物は近寄ってこれないはずだ。


 魂力を読めば――いや、今の自分にそれは無理だ。


 一瞬の強い自己嫌悪を感じ、ハッキリと目が覚める。


「……っ!?」


 ――目を開き、視界に飛び込んできたのは。


 全身に不気味な文様を描かれた、一人の、全裸の女性だった。

 ゾンビのように、低速で、魂装道具の張った結界の外を、足を引きずり這いずるように歩いている。


 その表情からは、一切の感情が、抜け落ちていた。


「…………っ」


 カズキの背筋を、言いようのない悪寒が走った。



貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ