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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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170 旅立ち


 デーモニアとハイデュテッドの争いから、二週間が経過していた。


 両国の首脳陣は会談を重ね、和平への道を歩み始めていた。

 デーモニアの象徴であり、亡き魔王エドワルド・エルドラークの愛した居城、デーモニア城は返還された。


 今、カズキたちはデーモニア城の居室にいた。


 魔族はアルアを頂点とし、シャックとカザスタヌフがその両脇を支えていくという図式になった。

 この三人が揃うのなら、エルドラークもきっと安心するだろうとカズキは思った。


 しかし、そんな状況とは正反対に、カズキの身にはとんでもない変化が起こっていた。


「なぜじゃ!? なぜ魂力チャクラが操れぬ!?」


 居室に、ルタの声が響き渡る。


 そう、カズキは一切魂力を操ることができなくなっていた。

 そもそも、体内の魂力がほとんど枯渇していた。


「そんな……カズキさんが背負うことないのに!」


 自分の身に起こったことをざっと説明したカズキに、ルフィアは憤るような、悲しむような、複雑な表情で嘆いた。


「仕方なかったんだ。俺が自分で、選択したことなんだ」


 カズキは淡々と、ルタとルフィアを交互に見ながら話す。

 その場にいる誰一人として、口を挟む者はいない。


「俺が……もう少し、ルタとルフィアと、この世界を一緒に、見て回りたいと思ったんだ。そのためには魂力がなくなるって言うなら……俺はそれでも、二人といられる方を選ぶよ」


「カズキ……」「カズキさん……」


 カズキの言葉に感動したのか、ルタとルフィアが抱き着いてきた。


「おわっ」


 ルタは幼子のように、全身でカズキの上半身に飛びつく形だ。

 ルフィアはおしとやかに、飛びついたルタごと包むように抱き被さる。


「…………ちょっと恥ずかしいな」


 そんな風に寄り添ってくる二人に、カズキは照れ臭い気持ちになる。

 しかしそれでも、二人を遠ざけるような真似はしなかった。


 三人、身体を寄り添わせたまま、少しの間黙っていた。




    †    †    †    †




 デーモニア城、王室。


 城の象徴たる大尖塔最上階の部屋には、エルドラークの記憶を呼び起こす調度品がいくつも置かれたままだ。


 部屋の中央近く、エルドラークが使っていた執務机には、今はアルアが座っている。

 大きな椅子にまだ慣れないのか、どこか落ち着きがない雰囲気がある。服装も少し露出を控えたようなものに変わっている。


「行くのね」


「ああ」


 アルアの問いかけに、カズキは頷く。

 言うまでもなくその両脇には、ルタとルフィアが立っている。


「アンタなら魔族の友として、ずっとここに居てもいいんだけどね」


 照れているのか、アルアはそっぽを向きながらそんな台詞を吐く。

 魔族の頂点に立つ者の態度としては、いささか可愛すぎるな――カズキは微苦笑を浮かべた。


「な、なによ」


「いや。そういう言葉をかけてもらえて、本当にありがたいよ。でも、俺たちの目的は、別にあるから。な?」


 カズキはしっかりと感謝を伝えてから、隣のルタとルフィアに目配せをした。


「わしの仲間を探す。そもそも、ここに来たのも元はそれが理由じゃ」


「戦禍で有耶無耶うやむやになってしまってましたけどね」


 ルタとルフィアが懐かしむように会話する。


「おーう、邪魔するぜ」


 と。

 そこで王室に、カザスタヌフとシャックが入って来る。

 相変わらずの巨体のせいで、室内の圧迫感が一気に高まる。


「湿っぽいのは嫌いなんでな。サクッと話して終わろうってことでよ。な、シャック?」


「いや、私は魔族の恩人であるカズキらを、最高の形で送り出すべきだと進言して――」


「だから、その最高の送り出し方がさらっとだって言ってんだろ?」


 どこか間の抜けたやり取りを繰り出すシャックとカザスタヌフの二人に、場にいる皆の顔が綻んだ。


「ありがとう。シャック、カザスタヌフ」


 カズキは笑みを浮かべたまま、二人にも礼を言った。


「ところでよ、お前ら古代種を探してるんだって?」


「え、ああ、そうだよ」


 ふいにカザスタヌフから告げられた言葉に、カズキは一瞬呆気にとられる。


「それだったらよ、次は『クータスタ島』に行ってみろ。なにか手がかりがあるかもしれないぜ」


「クータスタ島……」


「ルタ、どうかしたのか?」


 島の名前を聞いた途端、ルタの表情が笑みから複雑そうなものに変わる。


「クータスタ島は、最後のドラゴン族が住んでいたとされる場所です」


 カズキの隣で、ルフィアが知識を共有してくれた。


「わしも、オブリビオンに飛ばされる前は、クータスタ島で暮らしておった……懐かしいと同時に、戦乱の記憶が蘇り……胸が痛む」


 ルタはそう零し、小さな右手で左胸を押さえた。心臓の鼓動が、激しさを増している様子だった。


「……ルタがきついなら、行くべきじゃ――」


「いや、だからこそ行くべきなんじゃと思う。行こう、クータスタ島へ」


 幾多の戦いを経て、強くなっているのはカズキだけではなかった。

 同じく旅をし、様々な経験を積み重ねているルタ、ルフィアも、同じように成長を遂げているのだと、改めてカズキは理解した。


 自分の魂力が消失してしまっても、これならきっと大丈夫――カズキはそんな安心感が胸に広がっていく中、再びアルアに向き直った。


「というわけで、俺たちはクータスタ島へ行くことにするよ。本当お世話になりました。ありがとう、魔族のみんな」


「ええ」「ああ」「おうよ」


 部屋にいた魔族全員が、気さくに返事をしてくれた。

 カズキはまた一つ、この世界での故郷が増えたような気がした。


「それじゃ、行ってくるよ」


 カズキは家から出かけるような気軽さで、デーモニアとの別れの挨拶を済ませた。


 また新しい旅路へと、その足を踏み出していった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

今回で『ハイデュテッド侵攻編』が終了となります。

ここまで読んでくれた読者の方、改めてありがとうございます!


171話から、新章開幕の予定です。

ただ、少しお休みをいただいて構想を練り直し、再びアップしていこうと考えています。

さらにワクワクできるような展開にできればと思っているので、何卒、よろしくお願いします!

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