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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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166 決戦、ハイレザー・ハイディーン⑧


「貴様は……何者だ?」


 ハイディーンはほぼ無意識に、一歩後退っていた。

 無理もない。

 確かに死亡したはずのカズキ・トウワが、ゆらりと立ち上がっていたのだから。


「…………っ」


 しかし同時に、ハイディーンの中には愉悦にも似た感情が湧き上がっていた。

 自分をコケにしたカズキ・トウワ、その本性が現れたと思ったからだ。


 これで真なる復讐を遂行することができる――ハイディーンは口の端を歪めた。


「相変わらず、空気が濁っている。世界はかなり汚れてしまったみたいだね」


 ハイディーンの眼前でカズキは、ゆっくりと呼吸しながら歩き出した。

 ゆらり、とした独特の歩行は、存在そのものがまるで宙に浮いているかのような、掴みどころのない感覚を他者に与えてくる。


 確かにそこにいるが、実際にはいないような不気味な存在感。

 ハイディーンの《空間途絶ディメンション・ジェノサイド》による影響から、髪が白く変化したままなのも、その怖気に拍車をかけていた。


 白髪の幽鬼――そんな形容が自ずと浮かぶような、そんな様をしていた。


「……私の質問に、答えろ!」


 自分を意に介した様子のないカズキに、ハイディーンは声を張り上げる。


魂装カルマアグニ!」


 瞬時に魂装カルマし、白銀の剣と盾を出現させる。

 グレートソードを大上段に構え、カズキへ向けて自らの刃を叩き込もうと踏み込む。


 が。


「そう急くなよ」


「ッ!?」


 ハイディーンが勢いよく振り下げた剣は、カズキが視線をこちらに向けた途端に粒子となってかき消えた。

 自らの剣が中空に消えていくのを、ハイディーンは呆けたように目で追うことしかできない。


「貴様ぁ……魂装、燃ッ!」


 動揺を打ち消そうと、再び約束の文言を叫ぶハイディーン。

 消え失せた白銀のグレートソードが、再度手の中に現れた。


「その首を大罪人として、公衆の面前に晒してやるッ!!」


 悠然と佇んでいるカズキの首筋に向けて、とびきりの憎悪を込めて横薙ぎに振り抜く。

 奴の首は分断され、無様に地に転がる――そう考えていたが。


「無駄だよ」


「な……ッ?」


 やはりハイディーンの手からは、剣が消え失せていた。

 そしてカズキには、一切の変化が見られなかった。首はなんの問題もなく身体と離れることなくそこにある。


 影響を及ぼすに値しない――そう言われている気さえした。

 怒りからか、カズキを睨みつけるハイディーン。

 対してカズキはわざとらしく首を回してみせた。


 ブヂ、と血管の切れる音がする。


「貴様はぁぁ……いったい何者なのだと聞いているッ!?」


 ヒステリックな叫びも、カズキはまったく意に介する様子はない。


「殺す、殺す殺す…………殺す!!」


 プライド、尊厳を踏みにじられたハイディーンは、ありったけの魂力チャクラを持って再度の魂装を行う。

 収斂しゅうれんしていく高濃度の魂力が、ハイディーンの両足から大地へ伝わり、地鳴りのような振動を巻き起こす。


「やはりかなりの才能を持っている。なかなかの魂力だ」


 賞賛するような言葉を紡ぐカズキだったが、今のハイディーンにとっては愚弄されているようにしか感じない。眉間に入っていた力が、さらに色濃く深くなる。


「無に還るがいい! 《空間途絶》ッ!!」


 このときはじめてハイディーンは、全身全霊の力をもって一人の対象へと殺意を向けた。

 母以外の人間を、はじめて一個人として意識していた。


 莫大な殺気が、カズキへと襲いかかった。




    †    †    †    †




 ハイデュテッドの神王、ハイレザー・ハイディーンの必殺の魂装真名カルマ・ヴェーダ《空間途絶》の後には、鼠一匹生き残ることはできない。

 そのはずだった。


 しかし――カズキは立っていた。


 穏やかに、それでいて厳かに。

 神と自称するハイディーンの存在など、すでに凌駕しているかのように。


「なんなんだ……なんなんだ貴様はぁぁ!?」


 カズキの鼓膜を、ハイディーンの咆哮が震わせる。

 もはや金切り声とも表現できる必死の叫びに、カズキは淡々と応える。


「僕は魂力そのものに近い。魂力を操って力を誇示している君に勝ち目はないよ」


「私を……か、神であるこの私を、馬鹿にするなぁぁぁぁ!!」


 瞳孔を大きく見開き、ハイディーンが向かってくる。


 ゆっくりとカズキは右手を上げ、正面に向ける。

 戦場に、一陣の風が吹いた。


「カズキ……わかるよ。思い出したんだね。そう、これが君の――()()()魂装真名だ」


 穏やかな笑みの中、約束の言葉が紡がれる。

 声を、世界が受けとめる。



 ――――《魂全統一デーヴァター



 零れ落ちた真名が、カズキを中心に広がっていく。

 全ての魂力が、共鳴し、歓喜し、色づいていった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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