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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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164 決戦、ハイレザー・ハイディーン⑥


 ガルカザン・カザスタヌフの魂装武具カルマ・アームズである巨大なタワーシールドの影から、アルア・アルマグドが飛び出し、《呪停無ジュテイム》を放つ。


 そうすることでハイレザー・ハイディーンの魂力チャクラを停止させ、時間停止による絶対的な優位性を崩壊させる――それが密かに計画していた作戦だった。


「これで勝ったも同然よ!」


《呪停無》を直撃させ、勝利を確信するアルア。勝鬨かちどきを上げながら華麗に着地する。


「一気に決めるわよ、ガルカザン!」


「おぉ、いくぞぉおらああぁぁぁぁ!!」


 アルアの声に応えるように、カザスタヌフが大腕を振り回しながら叫んだ。アルアの安全を確保しつつ動く必要がなくなり、その巨体からは躍動感が増していた。


 すかさず、カザスタヌフは盾をブーメランのように放り投げる。

 大質量の盾がいとも簡単に放られ、ハイディーンも一瞬気を取られる。


「こっちだぞぉぉ!」


「……ッ!」


 その隙を逃さず、カザスタヌフがハイディーンへと突進する。対して、すかさず防御姿勢を取るハイディーン。

 しかし背後から、投げられた盾が風を切り裂いて向かってきていた。


 盾と拳の同時攻撃が、ハイディーンへと襲い掛かった。


「……なッ!?」


「くらえ――巨盾挟撃拳シールド・バインドォォォォ!!」


 カザスタヌフの怒号の後には、地響きのような衝撃音が続いた。

 土煙が立ち込め、視界が遮られる。


「やった、のか……?」


 カザスタヌフたちの連携攻撃を見ていたルタが、痛む身体をなんとか起こした。立ち昇った土埃のせいでまだ様子は窺えないが、あれだけの圧力で攻め立てれば――唾を飲み込んだルタの喉が、ごきゅ、と鳴った。


 煙が引いていき、辺りの状況が次第にわかってくる。


 ルタの視界に飛び込んできたのは――


「…………な、なぜ、じゃ……?」


 白銀の剣で脇腹を貫かれた、カザスタヌフの背中だった。


「ぐぁ……ッ」


「先程までのやせ我慢はどうした?」


 カザスタヌフの巨体から剣を引き抜きながら、ハイディーンは挑発するような台詞を言い放つ。刃の差し貫かれた箇所から、血飛沫が上る。カザスタヌフの巨体が、膝から崩れるように倒れ伏した。


「他愛もないな」


 小さく微笑みながら、ハイディーンは瞬時に場所を移動した――このように見えるということは、ハイディーンの魂装真名カルマ・ヴェーダが問題なく発動されているということ。


 つまりアルアの《呪停無》が――効いていないということだった。


「あ、ぐっ……!」


 時間を停止され、カザスタヌフのように攻撃を受けて倒れ伏していたアルアの元に、ハイディーンは一瞬で移動する。そして彼女の髪の毛を乱暴に掴んで持ち上げ、顔を睨め付けるようにした。

 その際、髪の切れる痛々しい音が、ルタの耳にまで届いた。


「痛っ……!」


「魔族の牝が。貴様程度の真名ヴェーダに二度も屈するとでも思ったのか?」


「ど、どうして……?」


「単純な理屈だ。強者が弱者の力に屈するわけがなかろう?」


 ハイディーンはまったく動じないまま言い切った。

 圧倒的な力の差により、アルアの《呪停無》が通用しなくなった――ハイディーンはそうして、自らの力の圧倒的上昇を示した。


「そんな……」


 絶望がアルアの表情を支配する。

 瞳には涙が溜まり、口元は悔しさから噛み締められ震えはじめる。


 エルドラークの仇を取るために、今日までどれだけの想いでいたのか。


 アルアの気持ちを推し量り、ルタは憎きハイディーンを睨みつける。

 ハイディーンに掴み上げられたまま顔を歪めているアルアを助ける――ルタは心の底で闘志を燃やした。


 しかし……身体は思うように動かない。


「なぜ……なぜじゃ……!」


 悔しさのあまり、ルタの視界も涙で滲んでくる。

 なぜ、自分には力がないのか。


 一つ一つの悔しさを自覚するたびに、目の端から滴が零れ落ちていく。


 カズキ、お前なら今、どうする?

 わしに教えてくれ――――カズキ!



 ――ドクン。



 ルタが心底から願ったとき、周囲の魂力が震えた気がした。

 おそらくそれは、魂力を読むことのできるルタにしか感じ取れないような、本当に微細な振動だった。


 しかし確実に、その変化はあった。

 戸惑いの中、ルタは周辺を確認するように視線を這わせる。


 と。

 ハイディーンが嗜虐的な微笑みを浮かべたまま、白銀のグレートソードを掲げた。


「そろそろ、戯れも終わりだな」


 刃が閃き、死の宣告が落とされる。


 皆の命が、尽きかけていた。

貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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