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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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163 決戦、ハイレザー・ハイディーン⑤


 乾いた風が戦場を吹き荒ぶ。

 幾重にも折り重なった遺骸が、干からびていく。


「く、そ……っ」


「…………」


「口ほどにもないな」


 ハイデュテッド本陣には、仁王立ちするハイレザー・ハイディーンがいた。

 その足元では、金と銀の美女――ルタとルフィアが呻くように転がされている。


 二人は、何度も何度も神王に果敢に挑んだ。


 その度に歯牙にもかけぬ様子で跳ね返され、攻撃は一切届かず、吹き飛ばされた。

 しかしそれでも二人は挑み続けた。カズキの仇を討とうと立ち向かった。


 だが今、力は尽きた。


 度重なる殴打、斬撃によって、心身はとうに限界を超えていた。

 足が動かない。呼吸が苦しい。意識が朦朧とする。


 かろうじて目を開けているルタが、這いつくばったままハイディーンを睨みつける。

 ルフィアは失神しているのか、すでに意識を失くして倒れている。まだ息はある様子だった。


「もう足掻くな」


「足掻くに、決まって、おるわ……!」


 地に伏したまま、腕の力だけでハイディーンへとにじり寄るルタ。自慢の金髪は血と泥にまみれ、もはや輝きは失われている。


「見苦しいな。……今楽にしてやる」


 言い、ハイディーンは魂装武器カルマ・ウェポンであるグレートソードを掲げる。

 白銀の刀身に金色の装飾を纏った剣は、神々しいまでに美しい。


「カズキ・トウワの元へ行くがいい」


 微笑をたたえたハイディーン。

 その剣が、ルタの首元へ振り下ろされ――


 止まった。


 刃の先に、巨大な盾――半ば壁に見える――が突如、出現していたからだ。


「俺らのことを忘れてもらっちゃ困るぜ。勘違い王様さんよぉ」


 岩を擦り合わせたような、ドスの利いた声。

 視界を覆う、熊以上の巨体。


「ガルカザン……!」


 目の前に現れたガルカザン・カザスタヌフに、ルタが思わず声を上げる。

 巨大なその背中が、いつも以上に頼もしく感じられた。


「……魂装道具カルマ・サーダンによる瞬間移動か。小賢しい」


 剣を引き、距離を取ったハイディーンが忌々し気に呟いた。


「はん、魔族にとっちゃ最終決戦だ、魂装道具だって底つくまで使うぜ」


 身体を解すようにカザスタヌフは腕を回した。大木のような両腕がゴリゴリと骨を鳴らした。


「嬢ちゃん、そこで見てな」


「恩に、着る……っ!」


 言われて、ルタは力を振り絞って後方へ退避する。


「さぁて、今度は俺が相手だ」


 一切の気負いも気兼ねもなく、カザスタヌフはハイディーンと対峙する。闘気は十分すぎるほどに充実していた。


 魔族は本来、戦いを欲する種だ。

 エルドラークとも互角に渡り合ったとされる彼なら、もしかすると……ルタの心に、淡い希望が灯った。


「おらぁぁぁ!!」


 瞬間、カザスタヌフが大砲のように飛び出した。盾を両手で構え、その圧力で圧し潰そうという格好だ。

 しかし当然、ハイディーンには届かない。

 ひらりと横にどく形で、攻撃を気にする素振りすらない。


「カザスタヌフ、腕が!」


「ん?」


 ルタの叫びに気づき、カザスタヌフは自らの右腕を見やる。肉が斜めに切り裂かれ、血が痛々しく滲んでいた。


「はは、こんなもん俺にとっちゃかすり傷だァァ!!」


 力んだ腕から、さらに血が噴き出す。しかしカザスタヌフは気にも留めずギラついた目で、ハイディーンへと再度攻撃を繰り出す。

 またも両手で巨大なタワーシールドを力強く握り込み、空気を切り裂くほどの速度で突っ込んでいく。喰らえばひとたまりもない大質量だ。


「低俗な生物だ」


 だが、ハイディーンには微々たる焦りすらない。

 カザスタヌフの重量級な一撃を毛ほどにも意に介することなく、再び場所を移動した。


「次は脚だ」


「んん?」


 ハイディーンの言葉通り、今度はカザスタヌフの右足が切り裂かれていた。血がドクドクと流れ出る。


「ははぁ、これぐらいでようやくやわな人間と対等かぁ?」


「……強がるなよ、“野蛮な魔族”めが」


 高揚しているカザスタヌフから挑発を受け、ハイディーンが不愉快そうに表情を歪めた。


「ははは! 野蛮で何が悪ぃんだぁ!? おらぁぁ!!」


 大振りにカザスタヌフがシールドを振り回した。同時に、轟音と表現できる空気の圧が周囲へと拡散される。

 それでも、思うまま時間を停止させているハイディーンに、攻撃が当たることはなかった。


 しかし。


「――呪停無ジュテイムっ!!」


「っ!?」


 自分に攻撃が当たるはずがない。

 油断を超えて傲慢と言えるほどの余裕の中、ハイディーンは致命的な一撃をもらうこととなる。


 死角――カザスタヌフのタワーシールドの裏側から、赤髪の魔女――アルア・アルマグドが飛び出した。ずっとカザスタヌフが両手で盾を掴んでいたのは、アルアを隠すためだったのだ。


 そして即座に、触れた者の魂力を完全停止する魂装真名カルマ・ヴェーダ、《呪停無》を放った。

 アルアの先鞭が、ハイディーンに直撃する。


 形勢は、逆転した。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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