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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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157 勝利に浸る暇もなく


 土煙る灰色の戦場で、極彩色のローブが翻る。

 そのローブは、ハイデュテッドの宰相であるアビゲイル・ツィーゲルのものだ。


 しかし今それを着ているのは、ルフィアだった。


 治療の終わったツィーゲルが、ほぼ裸のような状態だったルフィアに譲ってくれたのだった。


「敗者に権利はありませんわ。身包み剥ぐなりすればいいのです」


「そ、そんなことしませんよ」


 ちょっとしたやり取りを思い出し、ルフィアの口角が微かに上った。

 敵であったツィーゲルを、なんとか退けることができた。しかも、自分が最良だと思う方法で。


 ルフィアは一種の達成感を感じながら、まだ痛む身体で一歩一歩進んだ。


「ルタさんと合流しないと」


 辺りを見回したあと、ルフィアはルタの気配を探った。

 カズキが周辺の地形を変形させたおかげで、未だ地域一帯は混乱の渦中だ。兵や馬が叫び声を上げながら、無秩序に行き交う状況はまさに混沌と言えた。


「っ! ルタさん!!」


 反り返るように隆起した地盤の隙間、瓦礫の間に身を隠すようにして、金色が蹲っていた。

 ルフィアは一目散に駆け寄る。


「おお、ルフィアか……お前も勝ったようじゃのう」


 近寄ると、ルタはいつものようにふてぶてしさを漂わせる台詞を吐いた。しかしその声は小さく、どこか弱々しい。


「ルタさん! 大怪我してるじゃないですか!?」


 ルタの右脇腹から、色濃く血がにじんでいることに気づいたルフィアが、慌てて手を伸ばす。状態を探るように手を這わせると「うぐっ」とルタが痛みに顔を歪めた。


「今すぐ治療します。そのまま、座っていてください」


「く……圧勝して、すぐにお前の助太刀に入る予定だったのじゃがのう……自分の不甲斐なさが、一番の誤算じゃ」


 傷口に両手を伸ばしたルフィアに対して、悔しそうに言うルタ。その表情には、痛み、悔しさ、不甲斐なさといった様々な感情が読み取れた。


「まずは回復に努めましょう。このままカズキさんを追っても、足手まといにしかなれませんから」


「……悔しいが、確かにそうじゃ。すまぬ、おぬしには迷惑をかけるな」


「いいんです、わたし達三人は全員、対等な同盟仲間なんですから。いつだって助け合って、迷惑をかけ合っていいんです」


「…………フ、そうじゃな」


 ルフィアの手元から、暖かな光が湧き出て来る。それはルタの傷口を癒しながら、体内に染み込んでいくかのように魂力チャクラの消耗をも満たしていった。

 確実に、ルフィアの回復能力は向上していた。やはり生命の危機に瀕していたシャックを、懸命に治療した経験が成長を促したのだろう。


 遠く聞こえる戦場の怒号を聞き流しながら、ルフィアは集中してルタの傷へと魂力を流し込んでいった。


「どうですか? 完璧に回復とまではいきませんが」


「うむ、充分じゃ。ありがとうよ」


 ルタには珍しく、回りくどいことを言うこともなく、即座に礼を返してきた。

 受け取ったルフィアの顔が、綻ぶ。


「ふふ、今日は素直なんですね」


「い、いつもわしは素直な良い子じゃ!」


 ぷりぷりと怒るルタの表情を見て、ルフィアはある程度回復させることができたと判断した。


「……素直ついでに伝えておくがの、ルフィア」


「はい、なんでしょう?」


「一人じゃないというのは、なんとも心強いものじゃの」


「……はい」


 ルタにしては珍しい、少し憂いを帯びたような表情で紡がれた言葉。それを噛み締めるようにして、ルフィアは小さく頷いた。


「カズキにも、一人ではないということを伝えようぞ」


「はい!」


 ルタとルフィアは視線を交わした後、カズキが向かっていった方角を同時に見据えた。


「さて、急ぐとするか」


「ええ!」


 二人は、逞しい表情で歩みをはじめた。

 空の向こうでは、雷鳴を孕んだ雨雲が、蠢いていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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