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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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154 ルフィア対ツィーゲル②


「ふふ、ふふふ……良い度胸じゃない! ますます気に入ったわ!!」


 ルフィアの態度に、ツィーゲルは嬉々とした声を上げる。

 喜色満面のまま雨傘を振り回し、正面から突っ込んでくる。


 そして、巨大な雨傘を騎槍ランスのように構え、激しい刺突攻撃を繰り出して来た。


「ほらほらほらほらほらッ!」


「くっ!」


 重たい一撃一撃が、防戦状態のルフィアの体力を削っていく。


 ルフィアは斧槍ハルバードを短く持ち、素早い突き攻撃に対処できるよう工夫する。柄の刃先に近い部分を持つような形だ。そうしてなんとか激しい連撃をいなしていく。


「遅い、遅いよぉぉ!!」


「あぐ!?」


 しかし何度目かの攻防で防御が追い付かなくなりず、ツィーゲルの傘の先端が脇腹をかする。服ごと肉が抉られ、ルフィアは痛みに顔を歪めた。


「隙ありぃぃぃ!」


 それを見逃さず、ツィーゲルが追加の攻撃を浴びせてくる。突き出していた雨傘を素早く引きタメを作り、思い切り横薙ぎにフルスイングする。


 横っ面を、思い切り殴りつけてやろうという魂胆だった。


「つぅぅ!?」


 ルフィアはなんとか反応し、斧槍の柄の部分で殴打を受け止める。それでも衝撃は殺せず、防御姿勢のまま吹き飛ばされる。


 斧槍ごと、数メートル先まで転がる。

 灰のような砂埃が立ち込めた。


「く、くぅぅ……」


 斧槍を杖のようにし、ルフィアは立ち上がる。

 砂にまみれ、汚れ、全身には痛々しい傷がついていた。


 身体のあらゆる場所から痛みを感じるが、引き下がるわけにはいかない。


「そろそろ観念して頂戴。せっかくの身体をあまり傷つけたくないの」


 自らの魂装武具カルマ・アームズである雨傘を、開いたり閉じたりしているツィーゲル。顔には余裕を感じさせる恍惚とした笑みが、未だ浮かんでいる。


「傷だらけの汚い身体じゃ、神王様の御身を受け入れるに相応しくないわ。夜伽の前に湯浴みをしてもらわないとね」


 ツィーゲルは言いながら、自らの肢体を悠々と広げた。

 極彩色のローブから伸びる手足は白く細い。それはまさに、激しい戦いの中であっても自分は決して傷一つつけないという、彼女の余裕を表していた。 


「……傷は、全部勲章です」


 対するルフィアは、短く応える。


 痛みに震える手で斧槍を握り直す。

 力を込めて掴んでみると、不思議と魂力の温かさを感じる気がした。


 まだ、戦える――ルフィアは自らの魂力の確かな鼓動を感じ取り、両手で斧槍を構えた。


「おや、まだそんな眼ができるなんてね。そそるわ」


 ルフィアの態度を見て取ったツィーゲルが、再び舌なめずりをして嗤う。

 開いていた雨傘を閉じ、臨戦態勢を取る。


「まだ諦めないって言うんなら…………神王様の()()を全て受け止められるように、マゾに目覚めるまでいたぶってあげなくっちゃねぇぇ!!」


 目を見開き、嬉々とした顔で突進してくるツィーゲル。

 ルフィアは歯を食いしばって腰を低くし、迎撃態勢を取った。


 また突き攻撃か――ルフィアの思考が、一瞬そう考えたとき。


「甘いのよぉぉぉ!」


「っ!?」


 間合いに入るか入らなかギリギリの距離で、ツィーゲルは跳躍する。身構えていたルフィアは虚を突かれ、思わず見上げることしかできなくなる。



「跪きなさい――《雨宿シェルター・フロム・ザレイン!!》



 ツィーゲルは叫び、空中で雨傘を広げる。雲間からわずかに差し込んでいた陽光すら、その傘が遮ってしまう。辺りが重く、暗くなったようにすら感じられた。


 魂装真名カルマ・ヴェーダ――ッ!!


 ルフィアには、開いた巨大な雨傘が、悪魔が両手を広げたように見えた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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