154 ルフィア対ツィーゲル②
「ふふ、ふふふ……良い度胸じゃない! ますます気に入ったわ!!」
ルフィアの態度に、ツィーゲルは嬉々とした声を上げる。
喜色満面のまま雨傘を振り回し、正面から突っ込んでくる。
そして、巨大な雨傘を騎槍のように構え、激しい刺突攻撃を繰り出して来た。
「ほらほらほらほらほらッ!」
「くっ!」
重たい一撃一撃が、防戦状態のルフィアの体力を削っていく。
ルフィアは斧槍を短く持ち、素早い突き攻撃に対処できるよう工夫する。柄の刃先に近い部分を持つような形だ。そうしてなんとか激しい連撃をいなしていく。
「遅い、遅いよぉぉ!!」
「あぐ!?」
しかし何度目かの攻防で防御が追い付かなくなりず、ツィーゲルの傘の先端が脇腹をかする。服ごと肉が抉られ、ルフィアは痛みに顔を歪めた。
「隙ありぃぃぃ!」
それを見逃さず、ツィーゲルが追加の攻撃を浴びせてくる。突き出していた雨傘を素早く引きタメを作り、思い切り横薙ぎにフルスイングする。
横っ面を、思い切り殴りつけてやろうという魂胆だった。
「つぅぅ!?」
ルフィアはなんとか反応し、斧槍の柄の部分で殴打を受け止める。それでも衝撃は殺せず、防御姿勢のまま吹き飛ばされる。
斧槍ごと、数メートル先まで転がる。
灰のような砂埃が立ち込めた。
「く、くぅぅ……」
斧槍を杖のようにし、ルフィアは立ち上がる。
砂にまみれ、汚れ、全身には痛々しい傷がついていた。
身体のあらゆる場所から痛みを感じるが、引き下がるわけにはいかない。
「そろそろ観念して頂戴。せっかくの身体をあまり傷つけたくないの」
自らの魂装武具である雨傘を、開いたり閉じたりしているツィーゲル。顔には余裕を感じさせる恍惚とした笑みが、未だ浮かんでいる。
「傷だらけの汚い身体じゃ、神王様の御身を受け入れるに相応しくないわ。夜伽の前に湯浴みをしてもらわないとね」
ツィーゲルは言いながら、自らの肢体を悠々と広げた。
極彩色のローブから伸びる手足は白く細い。それはまさに、激しい戦いの中であっても自分は決して傷一つつけないという、彼女の余裕を表していた。
「……傷は、全部勲章です」
対するルフィアは、短く応える。
痛みに震える手で斧槍を握り直す。
力を込めて掴んでみると、不思議と魂力の温かさを感じる気がした。
まだ、戦える――ルフィアは自らの魂力の確かな鼓動を感じ取り、両手で斧槍を構えた。
「おや、まだそんな眼ができるなんてね。そそるわ」
ルフィアの態度を見て取ったツィーゲルが、再び舌なめずりをして嗤う。
開いていた雨傘を閉じ、臨戦態勢を取る。
「まだ諦めないって言うんなら…………神王様の求めを全て受け止められるように、マゾに目覚めるまでいたぶってあげなくっちゃねぇぇ!!」
目を見開き、嬉々とした顔で突進してくるツィーゲル。
ルフィアは歯を食いしばって腰を低くし、迎撃態勢を取った。
また突き攻撃か――ルフィアの思考が、一瞬そう考えたとき。
「甘いのよぉぉぉ!」
「っ!?」
間合いに入るか入らなかギリギリの距離で、ツィーゲルは跳躍する。身構えていたルフィアは虚を突かれ、思わず見上げることしかできなくなる。
「跪きなさい――《雨宿ノ友!!》
ツィーゲルは叫び、空中で雨傘を広げる。雲間からわずかに差し込んでいた陽光すら、その傘が遮ってしまう。辺りが重く、暗くなったようにすら感じられた。
魂装真名――ッ!!
ルフィアには、開いた巨大な雨傘が、悪魔が両手を広げたように見えた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




