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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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151 ルタ対オールドマン③


「だからどうしたっ!」


 得意げなルタの笑みを、オールドマンが吹き飛ばすように叫ぶ。体勢を立て直し、強く踏み込み、ショテルを振り抜いてくる。


「ぬ!」


「貴様が武器を回していられぬほどに攻撃を浴びせればいいだけのこと!」


 毒霧の対抗策を示したルタだったが、オールドマンはそれを破るため、さらに攻撃を加速させる。高速の斬撃を防ぎきるためには、双刃刀を回転させて気流を遮断している余裕はない。


 激しさを増すオールドマンの連撃に、ルタははじめ、なんとか片手で食らいつこうと奮戦した。当然もう一方の手は、毒霧への対策として残しておけなければならないからだ。


 しかし。


「くっ、ここでも鍛錬の甘さが仇になるか!」


 徐々に押されはじめ、挙句は両手で防御を敢行しなければならなくなる。ここでもやはり、己の武器の扱いにおける熟練度によって差が出ている形だった。


 ルタの魂装武器カルマ・ウェポンである双刃刀には、二刀流であることも含めれば四枚の刃が存在している。対して、オールドマンのショテルは湾曲した刃が一枚あるだけである。

 手数で言うなら、本来はルタの方に分がある。

 だがオールドマンは熟達したその剣技と身のこなしで、刃四枚分以上の斬撃を繰り出してきているのだった。


 そんな桁違いの実力を見せつけられ、ルタはほぞを噛むような思いになる。


 カズキを送り出したはいいが、結局はこんな形で苦境に陥るとは。

 ショテルを繰り出すオールドマンの背後からは、再び紫色の毒霧が迫ってきていた。


「毒で死ぬか、ショテルの刃で死ぬか、決めることだな!」


 敵を追い込んでいる状況を把握し、オールドマンが勝ち誇ったように言う。言葉に合わせて、より力のこもった一撃を脳天から振り下ろした。


 まずい――ルタは双刃刀を頭上で交差させ、防御姿勢を取る。


 が。


「甘いっ!」


「むぅっ!?」


 オールドマンは手首を柔らかく使い、ショテルの刃先が向かう方向を変える。流麗な動きでルタの横っ面、側面へと刃を向けた。

 ルタは咄嗟に、双刃刀の柄の部分で防御しようと試みるが――間に合わない。


「ぐっ」


 一瞬、肉を裂くような音のあとに、衝撃音。

 ルタの小柄な身体が横薙ぎに吹っ飛び、カズキが隆起させた土壁に激突した。


 視界を覆いつくすような土煙が、辺りを包む。


「今の手応えならば……」


 オールドマンの声が、戦場に零れる。

 ルタの吹き飛んだ先を睨みつけながら、彼は一度大きく息を吐いた。間断なく攻撃を浴びせ続けていたがゆえか、少し息が荒くなっている。

 魂装真名カルマ・ヴェーダは、使用者の身体、魂力の状態に大きく左右される。体力的な消耗が影響してか、はたまた土煙によってかき消されたのか、オールドマンが発した毒霧は、文字通り雲散霧消していた。


 オールドマンはもう一度、大きく肩を上下させた。




    †    †    †    †




 土煙舞う中、ルタは瓦礫をどけ立ち上がる。


「う、ぐ」


 瞬間、右脇腹付近に激しい痛みが走る。

 患部に左手を添えると、生暖かい血液が、ぬめりと手のひらを汚した。


 斬られている――痛みに歯を食いしばりながら、ルタは自らのダメージを認識する。


 内臓までは達していないが、このままでは出血多量で死ぬな……痛みから額に冷や汗を浮かべながら、ルタは芳しくない戦況を客観的に分析した。


 このまま防戦一方では、確実に死ぬ。


 これ以上の長期戦は、今の出血量を考えても不可能だった。ルタは絶望的な状況を悟るが、ここからどう勝機を掴むかを必死に思考した。その間も、どくどくと出血が続く。


 土煙が、徐々に晴れていく。


 オールドマンの姿が、微かに視界に入って来る。しかし出血の影響か、土煙が引いてきたのにも関わらず、少し霞んで見える。


 覚悟を決めるか――ルタは遠退きそうな意識を気合でなんとか押し留め、集中力を高める。


「弟子のやり口を真似るというのは、師としてあるまじき行為ではあるが……なぁに、あやつを黙らせればそれで済むこと」


 ボソボソと独り言を紡いでから、ルタは


 腰を低くし、呟く。



世界ホーマ――火葬プラマーナ



 ルタの口から零れ落ちた、真の名。禁断の、名前。

 弟子との約束を、反故にするルタ。


 だがそこには、以前のような無謀も、暴走も、悲嘆もない。

 ただ勝利への欲求があった。



 炎が、吹き上がる。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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