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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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150 ルタ対オールドマン②


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 裂帛の気合が、戦場に響き渡る。

 ルタの眼前では、三日月のような独特の形状をした武器ショテルが、幾重にも閃いていた。全身全霊の集中力で、ルタはなんとか連撃をいなしていく。


「こなくそじゃ……っ!」


 相対する敵は、ハイディーンの右腕、ダンストップ・オールドマン。

 目にも止まらぬ斬撃を受けながら、ルタは剣技では自らの方が劣っていると痛感していた。

 ショテルという扱いが難しい武器を、ここまで自在に使いこなすだけのことはある。


 ルタは敵ながら、オールドマンという男のここまでの鍛錬、修練を認めざるを得なかった。


「わしにも、驕りがあったのかもしれんのぅ……!」


 ショテルの一撃を双刃刀を交差させるようにして受けながら、ルタは毒づく。


 自分は五百年以上、剣の修行はしてこなかった。

 オブリビオンに封じられていた頃、自己鍛錬で気を抜いた覚えなど一切なかったつもりだったが、魂力を封じられ、魂装武器カルマ・ウェポンを出現させられないからと、不貞腐れてしまっていたのかもしれぬな――ルタは攻撃をギリギリのところで避けながら、そんなことを考えていた。


「集中を乱すなっ!!」


「ぬっ!?」


 オールドマンの叫びが、ルタの意識をかき乱す。

 高速で横薙ぎに繰り出されたショテルの一撃を、ルタは腰を反らせて回避する。


「舐めるなっ!」


 言葉のあと、オールドマンは横薙ぎした反動を利用して、身体を回転させてさらに遠心力を生みだす。

 そして、今度は斜め下から救い上げるようにショテルを振り回した。


「ぬっ!?」


 ルタは腰を反らせたままで、下半身のバネを使って後方宙返りする。ショテルの白刃が、余韻のように金髪の毛先を切り裂いた。


 着地したルタを、オールドマンが睨みつけている。


「……認めよう。お前は幼子ではない。そして、雑魚でもない」


 ショテルを片手で振り回しながら、オールドマンが低い声で言う。剣を交えたことで、ルタの実力を正しく把握したらしかった。


「わしも認めるよ。おぬし、若さの割には良い戦士じゃ」


 互いから発せられる戦士としての闘気が、中空でぶつかり合う。

 元から張り詰めているはずの戦場の空気が、さらに鋭利さを増す。


「ならば、私の全身全霊を持って、この場から排除するまで!」


 オールドマンは腰を低くし、ショテルを一度回転させ、逆手に持ち変える。瞬時に魂力を高濃度に練り上げ、解放する。


 来る――ルタは考えるでもなく、悟る。


魂装真名カルマ・ヴェーダ――ポイズンズフェンス!」


 瞬間、ショテルの刃全体から、紫の毒霧が溢れ出る。

 霧は意志を持っているかのように広がり、蠢き、ルタを取り囲まんと拡散する。


 魂装手術カルマ・オペの技術を持たぬルタにとっては、毒を一呼吸でもしてしまえばそれは死に直結する。警戒し、大きく距離を取ろうと下半身に力を込める。


 が。


「逃がさんぞ!」


「っ?!」


 毒霧を追い抜かすような速度で、オールドマンが突進してくる。ルタをその場に留めようと、ショテルの激しい連撃を繰り出してくる。


 その間にも、毒霧が周囲を取り囲むように漂っていく。


「このまま死ぬがいい!」


 毒霧が迫って来る中でも、平気で攻撃を浴びせてくるオールドマン自身は、恐らく毒に対する耐性があるのだろう。ルタの足を止めるため、俊敏に動きながら四方八方から切りつけてくる。


 ルタはショテルの斬撃を防ぐので精一杯となる。その背からは、紫色の“死の霧”が迫ってきていた。

 一呼吸すれば、死――万事、休す。



「こぉ、なぁ、くっ、そぉじゃああぁぁ!!」



 だが、ルタは大きく叫んだ。

 小さな身体のどこからそんな声が出るのかと思われるほどの大音声。そして叫びと同時に、ルタは双刃刀を思い切り振り抜いた。

 二刀による同時攻撃で、ショテルを大きく弾き返す。

 一瞬、オールドマンとの間合いが生まれる。


 しかし、間合いを作ったところで毒霧からは逃れられない。

 後退ったオールドマンも、自らの勝利を確信しているのかのように口の端を吊り上げていた。


「なっ!?」


 ところが次の瞬間、オールドマンは、驚きの声をあげた。


 距離ができた刹那の隙に、ルタは双刃刀を両手を中心軸として回転させていた。

 そうすることで気流を遮断し、毒霧を四散させていた。手元では、ビュンビュンと刃が激しく風を切り裂く音がしている。ルタは瞬時に機転を利かせ、曲芸じみた技によって毒の霧の防御策を編み出していたのだった。


「貴様の魂装真名、破れたりというところじゃの」


 ルタは得意げに、ニヤリと笑う。


 その笑みは久しぶりに見せた、凄惨な笑みそのものだった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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