149 ルタ対オールドマン①
「来おったか」「ええ」
魂装道具から降り立ったルタとルフィアが、敵の二人――ダンストップ・オールドマンと、アビゲイル・ツィーゲルの姿を確認し、言う。
「二人とも、油断するな。出撃前にも話したけど、オールドマンは毒を使う。ツィーゲルの方は、まだ魂装真名を使うかもわからない。未知数だ」
カズキは腰を低くして、オールドマンとツィーゲルを睨みつけながら言った。
「……カズキ、お前は先に行くがいい」
「は?」
と、そこでルタが「しっし」と手を振りながら、カズキに言った。カズキは拍子抜けして、間抜けな声を上げてしまう。
「そうです。時間がありません。ここはわたしたちに任せて、先に進んでください」
「ル、ルフィアまで!」
しどろもどろになるカズキを、ルタとルフィアが両側から追い越す。
「“うぬ”は少し、わしらに過保護すぎるんじゃ」
「そうです。わたし達だって、こう見えて日々強くなってるんですよ?」
二人並び立ち、堂々と胸を張る金と銀の威容。
カズキから見える二人の背中は、確かにいつも以上に頼り甲斐あるものに感じられた。
「ルタ……ルフィア……」
後光が差しているようにすら感じられる二人の背に、カズキは思わず感嘆の声を漏らす。
「……わかった、行かせてもらう!」
叫び、カズキは素早く魂装道具に飛び乗る。そしてすぐに体勢を低くし、出発する。
「な、行かせは――」「どけっ!!」
行く手を阻もうとしたオールドマンを、瞬時の加速で振り切る。カズキは戦場の中心地から、離脱していった。
「いきましょうか」「うむ」
カズキが去った戦場で、ルタとルフィアが頷き合う。
そして一歩、強く踏み出す。
「「魂装――燃」」
二人の魂力が再び、手元に収斂した。
† † † †
強く吹く風に、金髪が棚引く。
ルタは両手に魂装武器である双刃刀を構え、相対する敵――ダンストップ・オールドマンへと睨みを利かせていた。
「貴様、毒を使うらしいのう」
挑発的に、ルタは投げかける。
「……なぜこの私が、お前のような幼子を相手にせねばならないのか」
「幼子ではない! こう見えても齢千歳を超えるドラゴンじゃ!!」
オールドマンの呆れかえったような表情に、ルタが地団駄を踏んでキレ散らかす。
久しぶりにこの台詞を吐いたのう……などと、ルタは一瞬郷愁のようなものを感じた。すでにカズキの背中は見えないが、向かった先を見つめて、一瞬口角を吊り上げた。
「なぜ笑う」
ルタの小さな笑みを見て取ったオールドマンが、不愉快そうに言う。すでにその手には、彼の魂装武器であるショテルが顕現している。
「ちと昔を思い出してな。なに、貴様を愚弄しているわけではないよ」
独特な形状をしたショテルから、嫌な殺気が放たれている。ルタは再び警戒心を高め、腰を低くして身構える。
対するオールドマンは、ショテルの歪曲部分を使い、器用に剣を回転させる。その動きだけで、彼がどれだけ愛刀のショテルを使いこなしているのかがわかった。
「……貴様、武功を上げるのに必死なようじゃの。前のめりな殺気が駄々洩れじゃ。若さゆえかの」
オールドマンの殺気を感じ取ったルタが、ふと零す。
「お前のような子供に、若輩と呼ばれる筋合いはないっ!!」
ルタの言葉に、オールドマンが感情的に叫ぶ。
それが合図と言わんばかりに、オールドマンが駆け出す。ルタ目がけて、閃光のような速度で突進してくる。
「リャァァァ!!」
「ぅお!?」
咄嗟い双刃刀で初撃をいなすルタ。しかしショテルは連続してその刃を閃かせる。
「お前にこれが防ぎきれるか!?」
「ぬおっ!」
続くショテルの攻撃を、ルタは手首を柔らかく使いながら双刃刀で防ぐ。
常人が見れば、剣閃すら目で追い切れるかわからないほどの速度で、両者は攻防を繰り返した。
ギッ、と一度大きく金属音が鳴る。
ルタとオールドマンの魂装武器が、激しく打ち合った音だ。
それを境に、両者は距離を取る。
「幼子の分際で……小賢しい!!」
出血するほどの音声で、オールドマンが忌々しそうに叫ぶ。
ルタは「やれやれ」と言った表情で、短く溜め息をつく。
「はぁ、何度言えばわかるのじゃ。わしは幼子ではない。わしから見れば、うぬの方がよっぽど物分かりの悪い“おさなご”じゃよ」
ルタの言葉のあと、ギギ、となにかが砕けたような音がした。
見ると、オールドマンが口から石礫のようなものを吐き出した。よく確認すれば、それは歯だった。
どうやらオールドマンは怒りで歯を噛み締め、砕いてしまったようだった。
「私を、どこまで愚弄する気だ……? 身の程も知らないガキなら――仕置きしてやる」
全身、毛の先まで怒りを充満させながら、オールドマンは呻くように言った。ショテルを持つ手が憤怒に震えている。
「それはこっちの台詞じゃ。何度言ってもわしを幼子と見下すのなら――ちぃっとばかし痛い目を見せてやろう」
オールドマンの極限の怒りをその身に受けながらも、ルタは泰然とした態度を崩さない。両手の双刃刀を握り直し、再び腰を低く構え直す。
一瞬の、静寂。
すぐ後に。
二人同時――地を蹴った。
刃が、火花が咲かせる。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




