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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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149 ルタ対オールドマン①


「来おったか」「ええ」


 魂装道具カルマ・サーダンから降り立ったルタとルフィアが、敵の二人――ダンストップ・オールドマンと、アビゲイル・ツィーゲルの姿を確認し、言う。


「二人とも、油断するな。出撃前にも話したけど、オールドマンは毒を使う。ツィーゲルの方は、まだ魂装真名カルマ・ヴェーダを使うかもわからない。未知数だ」


 カズキは腰を低くして、オールドマンとツィーゲルを睨みつけながら言った。


「……カズキ、お前は先に行くがいい」


「は?」


 と、そこでルタが「しっし」と手を振りながら、カズキに言った。カズキは拍子抜けして、間抜けな声を上げてしまう。


「そうです。時間がありません。ここはわたしたちに任せて、先に進んでください」


「ル、ルフィアまで!」


 しどろもどろになるカズキを、ルタとルフィアが両側から追い越す。


「“うぬ”は少し、わしらに過保護すぎるんじゃ」


「そうです。わたし達だって、こう見えて日々強くなってるんですよ?」


 二人並び立ち、堂々と胸を張る金と銀の威容。

 カズキから見える二人の背中は、確かにいつも以上に頼り甲斐あるものに感じられた。


「ルタ……ルフィア……」


 後光が差しているようにすら感じられる二人の背に、カズキは思わず感嘆の声を漏らす。


「……わかった、行かせてもらう!」


 叫び、カズキは素早く魂装道具に飛び乗る。そしてすぐに体勢を低くし、出発する。


「な、行かせは――」「どけっ!!」


 行く手を阻もうとしたオールドマンを、瞬時の加速で振り切る。カズキは戦場の中心地から、離脱していった。


「いきましょうか」「うむ」


 カズキが去った戦場で、ルタとルフィアが頷き合う。

 そして一歩、強く踏み出す。


「「魂装カルマ――アグニ」」


 二人の魂力が再び、手元に収斂しゅうれんした。




    †    †    †    †




 強く吹く風に、金髪が棚引く。

 ルタは両手に魂装武器カルマ・ウェポンである双刃刀そうじんとうを構え、相対する敵――ダンストップ・オールドマンへと睨みを利かせていた。


「貴様、毒を使うらしいのう」


 挑発的に、ルタは投げかける。


「……なぜこの私が、お前のような幼子を相手にせねばならないのか」


「幼子ではない! こう見えても齢千歳を超えるドラゴンじゃ!!」


 オールドマンの呆れかえったような表情に、ルタが地団駄を踏んでキレ散らかす。

 久しぶりにこの台詞を吐いたのう……などと、ルタは一瞬郷愁のようなものを感じた。すでにカズキの背中は見えないが、向かった先を見つめて、一瞬口角を吊り上げた。


「なぜ笑う」


 ルタの小さな笑みを見て取ったオールドマンが、不愉快そうに言う。すでにその手には、彼の魂装武器カルマ・ウェポンであるショテルが顕現している。


「ちと昔を思い出してな。なに、貴様を愚弄しているわけではないよ」


 独特な形状をしたショテルから、嫌な殺気が放たれている。ルタは再び警戒心を高め、腰を低くして身構える。

 対するオールドマンは、ショテルの歪曲部分を使い、器用に剣を回転させる。その動きだけで、彼がどれだけ愛刀のショテルを使いこなしているのかがわかった。


「……貴様、武功を上げるのに必死なようじゃの。前のめりな殺気が駄々洩れじゃ。若さゆえかの」


 オールドマンの殺気を感じ取ったルタが、ふと零す。


「お前のような子供に、若輩と呼ばれる筋合いはないっ!!」


 ルタの言葉に、オールドマンが感情的に叫ぶ。

 それが合図と言わんばかりに、オールドマンが駆け出す。ルタ目がけて、閃光のような速度で突進してくる。


「リャァァァ!!」


「ぅお!?」


 咄嗟い双刃刀で初撃をいなすルタ。しかしショテルは連続してその刃を閃かせる。


「お前にこれが防ぎきれるか!?」


「ぬおっ!」


 続くショテルの攻撃を、ルタは手首を柔らかく使いながら双刃刀で防ぐ。

 常人が見れば、剣閃すら目で追い切れるかわからないほどの速度で、両者は攻防を繰り返した。


 ギッ、と一度大きく金属音が鳴る。


 ルタとオールドマンの魂装武器が、激しく打ち合った音だ。

 それを境に、両者は距離を取る。


「幼子の分際で……小賢しい!!」


 出血するほどの音声で、オールドマンが忌々しそうに叫ぶ。

 ルタは「やれやれ」と言った表情で、短く溜め息をつく。


「はぁ、何度言えばわかるのじゃ。わしは幼子ではない。わしから見れば、うぬの方がよっぽど物分かりの悪い“おさなご”じゃよ」


 ルタの言葉のあと、ギギ、となにかが砕けたような音がした。

 見ると、オールドマンが口から石礫いしなつぶてのようなものを吐き出した。よく確認すれば、それは歯だった。


 どうやらオールドマンは怒りで歯を噛み締め、砕いてしまったようだった。


「私を、どこまで愚弄する気だ……? 身の程も知らないガキなら――仕置きしてやる」


 全身、毛の先まで怒りを充満させながら、オールドマンは呻くように言った。ショテルを持つ手が憤怒に震えている。


「それはこっちの台詞じゃ。何度言ってもわしを幼子と見下すのなら――ちぃっとばかし痛い目を見せてやろう」


 オールドマンの極限の怒りをその身に受けながらも、ルタは泰然とした態度を崩さない。両手の双刃刀を握り直し、再び腰を低く構え直す。


 一瞬の、静寂。

 すぐ後に。


 二人同時――地を蹴った。


 刃が、火花が咲かせる。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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