表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第一章 ジプロニカ王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/177

014 決闘②


 大きな人の輪が、できあがっていた。


 急遽はじまった、名もなき魂装遣カルマつかいの少年と、王国最強の魂装遣いで近衛兵長の決闘――ハンズロストックの関所には、この関所が設置されて以来の数の人々が、集っていた。


 大門の脇、通常は衛兵たちの憩いの場となっていた広場は、今や小規模な闘技場のようになっている。


 人々の視線が集中する先では――名もなき少年であるカズキが、王国最強の男セイキドゥを、激しく攻め立てていた。


「クソが、クソがぁ!!」


 セイキドゥの口から発せられる汚い言葉が、辺りに響いている。


 カズキは右手を一本の太刀ではなく、何本もの細い刃に変質させ、鞭のようにしならせて、様々な方向から同時攻撃を敢行していた。

 それはまるで、いくつもの腕を持つ修羅のような攻撃だった。


 剣一本で盾も持たないセイキドゥは、防御するので手一杯だった。


 防戦一方と形容できる現在の戦況に我慢ならないのか、罵詈ばりを叫びながら、巨大な剣を右へ左へと振り乱している。


 観客は、暴かれた近衛兵長の下品な姿など気にする余裕もなく、固唾を呑んで戦いを見守っていた。


「一瞬じゃなかったのか?」


 多段の攻撃を浴びせながら、カズキは先ほどの言葉の揚げ足を取る。

 セイキドゥの眉間に、これ以上ないほどの皺が寄る。


「こんの無能がぁ、喚くなぁぁぁぁ!!」


 瞬間、セイキドゥは両足で踏ん張り、あえて鎧や籠手のある部分でカズキの攻撃を受けた。

 いくつかの刃が彼の身体に切り傷を作るが、致命傷には至らない。


 傷から血が滲むのも意に介さず、セイキドゥは巨大なツーハンデットソードを横薙ぎに、力任せに振りぬいた。

 それは斬撃というより、もはや殴打に近いものに感じられた。


「っ!」


 カズキは刀身から発せられるプレッシャーに一瞬気圧され、攻撃を止めて後ろに跳び退すさる。

 巨剣がスイングされた後に強烈な風圧が巻き起こったのか、下草が切断されて舞い上がり、宙を漂っていた。地面の土も砂埃となり、若干抉られていた。


 カズキが攻勢を強めていたとは言え、やはりセイキドゥは強い――あの一撃をモロに喰らえば、確かに生きている者はいないだろう。

 気がつけばカズキは、唾を飲み込んでいた。


 セイキドゥは一度肩を揺らして深呼吸してから、両手で剣を地面と水平に構えた。

 ちょうど、騎士が君主に向かって剣を捧げ持つような格好だ。



はなはだ不本意だが…………オレ様の《魂装真名カルマ・ヴェーダ》で殺してやる」



「……カルマ・ヴェーダ」


 カズキはその言葉に、息を飲む。

 『魂装真名カルマ・ヴェーダ』――少しだけ、ルタから話を聞いていた。


 魂装真名とは、自らの魂力チャクラの真の在り様を知った者のみが使える、魂装カルマの真の力のこと。

 比類なき強さであり、それを打ち負かすには、同じ真名ヴェーダで対抗するか、命がけの特攻でもする他ない。


 何にせよ、魂装を習得したばかりのうぬに勝ち目はない、使いこなす者に出会ったら即逃げるのじゃ、ともルタは話していた。


 どうする――?

 当然だがカズキは、“真名”に覚醒していない。


「奴め……“真名ヴェーダ”に覚醒していたとはっ! カズキ、逃げろっ!」


 ルタが、叫ぶ。

 群衆が驚き、一斉にルタの方を見る。フードを被っているとはいえ、ここまで注目されてしまうのはまずかった。


 しかし――観客たちの注目は、すぐに別のところへと向けられた。


「な、なんだあれ!?」


 戦局から目を離さずにいた誰かが、おののくように叫んだ。

 カズキの前で、セイキドゥの剣が――禍々しく形状を変えていた。


 その姿はもはや剣と呼べるようなものではなく――死神の鎌のように見えた。


「頼む、カズキ……逃げてくれ」


 ルタは願いを込めてカズキを見つめる。フードの端を握り締め、小声で「逃げろ」を繰り返す。

 しかし……。


 ルタの願いも虚しく、カズキは背を向けることなく、腰を低くし、再び構えた。

 両目は燃えるような意思をたたえながら、セイキドゥを見据えている。


「カズキ……!」


 ルタには、わかってしまう。

 だからこそ、もどかしい。


 カズキが決して――逃げないことが。


「無能は、この力の恐ろしさもわからないか……フフ、まぁいい」


 両足を地に踏ん張り、さらに大きく変質した両手剣へと魂力を流し込みながら、セイキドゥが独り言のように呟く。

 対してカズキは右手を拳大にして、腰を低く構えたまま、目を閉じた。


 一瞬の、間――




「喰らいやがれ――《空中切断エアリアル・スラッシュ》!!」




 ――すぐ後に。

 セイキドゥの裂帛れっぱくの声が、カズキの耳朶じだを打った。


「……っ!!」


 カズキの全細胞が、活性した。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ