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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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146 ハイデュテッド、侵攻を開始する


 魔族の国、デーモニアの象徴たる城、デーモニア城――現在は、ハイデュテッドに占領され、人間の居城となっていた。

 城の最上階と言える大尖塔のバルコニーに、ハイデュテッドの神王、ハイレザー・ハイディーンは立っていた。感情の読み取れない瞳が、地平の向こうを見つめていた。


「神王様、お加減はいかがでしょうか」


 室内に現れたのは、黒い長髪の男、ダンストップ・オールドマンだ。恭しく片膝を着き、深々と頭を下げたままお伺いを立てる。その声を聞いたハイディーンは振り返り、オールドマンに近付く。


 そして、片手でその喉元を掴み、足が浮くほどに持ち上げた。


「ぅぐ」


「神王であるこの私が、あんな害虫にコケにされて、気分が良いとでも思うのか?」


 片手でオールドマンを締め上げながら、怒りの形相でハイディーンは語る。鬼でも宿ったかのような憤怒の表情は、憎悪や悪意などという言葉すら陳腐に思えるほど、怨念めいた何かを感じさせた。


「神王様、失礼いたします」


 続いて部屋に入室してきたのは、宰相であるアビゲイル・ツィーゲルだ。トレードマークであり魂装武器カルマ・ウェポンでもあるとんがり帽子を入り口で取りながら頭を下げる。


「首尾はどうか?」


 端的に、ハイディーンはツィーゲルに訊ねる。腕の先ではオールドマンを締め上げたままだ。


「はっ、我が軍は補給等を終え、全軍、敵本拠地近隣の平野部に横陣にて展開しております。いつでも魔族の籠城する砦に攻め込むことが可能です」


「早いな。素晴らしい」


 笑みのないままハイディーンは言い、オールドマンの喉元から手を放した。短い呻き声の後、オールドマンは膝を着き頭を垂れた。苦しいのか、額には多量の冷や汗が浮かんでいるが、神王の御前という意識からか、呼吸を乱さないよう静かに肩を上下させている。


「次こそが、魔族の最後だ。根絶やしにする」


「「はっ」」


 言い切ったハイディーンの言葉に、オールドマン、ツィーゲル両名の短い声が呼応する。


「全軍に通達。神王ハイレザー・ハイディーンが命ずる。――魔族を、殲滅する」


「「はっ!」」


 両名は素早く立ち上がり、一糸乱れぬ動きで同時に部屋の出口へと向かう。

オールドマンだけが立ち止まり、一度ハイディーンを振り返り、敬礼をしながら「ハイデュテッド、万歳!」と叫び、出て行った。


 その様を見たハイディーンは、ようやく口角を少しだけ持ち上げ、オールドマンに笑みを返した。彼のこの戦いに賭ける意気込み、覚悟を感じ取ったがゆえだ。

 必ず、オールドマンはこの私のために死ぬまで戦い抜くことだろう――そう確信したからこその笑み、とも言えた。


「今度こそ、我がハイデュテッドの全戦力を持って、確実に息の根を止める。……待っていろ、カズキ・トウワ」


 ハイディーンはカズキへの憎悪で、その身を震わせる。唇は出血するほどに噛み締められ、一筋の赤い筋が口元から垂れ落ちた。

 自らの鳩尾辺りをゆっくり、ハイディーンは撫でた。痛みはないが、鎧の下では青痣となっているのは確認済みだ。


 神王の身体に痣を作るなど、無礼甚だしい――殺し尽くし、殺しく。


 デーモニア城の頂から見える、大陸独特の乾きくすんだ灰色の大地を眼下にしながら、ハイディーンは初めて抱える一個人への感情に、ある種のたかぶりを覚えていた。こんなんにも、人間一人のことを考えることができるなんて。根底にあるのは純然たる殺意であるにも関わらず、その感情は見方によっては、親愛のような側面すら持っていた。


 その日、ハイデュテッドの魔族殲滅作戦が、いよいよ開始された。

 曇天の雲間では、雷鳴が轟きながら激しく発光していた。


 嵐が、来る。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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