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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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144 新しい約束


 上半身を起こしていたルタの元に、カズキは一目散に駆け寄った。


「ルタ! 大丈……夫、そうだな」


 カズキはすぐに心配の声をかける。が、途中から歯切れが悪くなる。

 理由は、ルタが大きな欠伸をしたからだった。さらに暢気な様子で、本気で寝起きのような調子で、目元を擦っている。


 拍子抜けするルタのいつも通りすぎる様子に、カズキの肩から力が抜けていく。


「なんだよ……いつものまんまじゃん」


 よくよく見れば、ハイディーンの魂装武器カルマ・ウェポンによって刺された腹部も、綺麗に傷がなくなっていた。

 不死の炎――ルタの魂装真名カルマ・ヴェーダである《世界火葬ホーマ・プラマーナ》が、回復力をも備える強力な技なのだと理解できた。


 しかし。

 カズキには、絶対に言っておかなければならないことがあった。


「おい、ルタ」


 まだ眠そうに半眼となっているルタへ、カズキはぐっと顔を近づける。


「今後は絶対に、《世界火葬》は使うなよ。不死の炎とか言っても、ルタ自身の意識がなくなるんじゃ、それは死ぬのと一緒だ」


 ルタの碧眼を見つめながら、カズキは真剣に訴えた。

 もう、自分を犠牲にするような真似はやめてくれ――対等な同盟相手として、それだけはルタに分かってほしい。そうカズキは考えていた。


「……また、わしは迷惑をかけてしまったかの?」


 ルタは俯きがちに、カズキに問うてくる。自分がした判断や行いを、悔いているのかもしれない。


「迷惑なんかじゃない。むしろ、ルタの機転と《世界火葬》がなかったら俺はやられてたかもしれない」


「カズキ……」


「でも、もしルタの意識が消えてしまって、俺に魂力のことを教えてくれて、一緒に旅したルタがこの世からいなくなるってんなら、俺にとってはそっちの方が問題なんだよ」


 視線を逸らすことなく、カズキはルタへ言葉を紡いだ。聞いていたルタの眉尻が、感情を表すように揺れている。


「だから……これからは、絶対使うな。約束だ」


 言って、カズキは小指を立てて手を出した。日本では一般的な、約束をする際のまじないだ。

 ルタはその意味がわからないのか、カズキの手を見て小首を傾げている。


「こうするんだ」


 カズキはルタの手を取り、指切りの形にして小指と小指を結ぶ。ルタはまだ意味を理解していない様子で、眉間にシワを寄せている。


「指切り拳万げんまん、嘘ついたら針千本飲ます、指切った」


 抑揚の少ない感じで歌い上げながら、カズキは結んだ小指を放した。ルタはされるがままになっており、解いた小指を不思議そうに見つめていた。


「約束を破ったら、マジで針を千本飲ませるからな。覚悟しとけよ」


 言い聞かせるように、カズキはルタに言った。


「それは痛そうじゃな……善処する」


 言わんとする意味と、小指を結び、切る意味をなんとなく理解したルタが、緩く口角を吊り上げて苦笑いした。


「もうお互い、自分を犠牲にするんじゃなく、活かしあうように心がけよう」


「ふん、その言葉、そっくりそのまま返すぞ」


「あー、うん、善処する」


「真似するでない」


 こうして、カズキとルタは改めて、自分たちの同盟関係を再構築したのだった。

 二人の間には、少しだけ照れ臭そうな雰囲気が漂っていた。


「……この戦い、必ず生きて勝とう」


「ふん、当たり前じゃ。さっそく約束を破るわけにはいかぬからのう」


「よし」


 その場から立ち上がり、カズキとルタは改めて前を向く。

 殺伐とした闘争の束の間で、二人の団結はまた一つ高まったのだった。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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