142 対ダンストップ・オールドマン&アビゲイル・ツィーゲル①
乾いた荒野に、三人分の魂力が迸る。
カズキは先ほどまでの戸惑いを胸の奥に仕舞い込み、目の前にある戦闘状況へと意識を集中させた。
「アビゲイルッ! 貴様は神王様をお連れして離脱しろッ! ここは私が引き受けるッ!!」
長い黒髪の男、ダンストップ・オールドマンが苛烈に叫ぶ。彼の手にはショテルと呼ばれる、大きく湾曲した刀剣が握られていた。
あれがヤツの魂装武器か――カズキは体内の魂力を練り上げながら、敵を分析する。
「御意! わたくしは神王様の御身を最優先に動く!!」
オールドマンの指示に頷き、魔女のようなとんがり帽を頭から取りながら、横たわるハイディーンの方へとツィーゲルが疾駆する。
狙いは言うまでもなく、ハイデュテッドの神王を保護することだ。
「そうはさせるかっ」
しかしカズキはすかさず、両手から魂力を地面へ向けて放出し、ツィーゲルの行く手を阻むように、岩壁を出現させる。フシンから教わった魂力による地形操作術だ。
期せずして回ってきた、ハイディーンを討つための最大のチャンス。それを逃してなるものか。カズキはそんな想いを抱きながら魂力を操っていた。
「邪魔ァァァ!!」
「な!?」
しかし、その必死さを上回るような裂帛の気合いと共に、ツィーゲルは岩壁へ向けて突進する。無謀とも思えるその行動に、カズキは一瞬呆気に取られてしまう。
次の瞬間。
ツィーゲルが手にしていた独特なとんがり帽子が、流し込まれた魂力によって瞬時に変容する。
「突き破れぇぇ、我が雨傘よぉぉ!!」
そう、ツィーゲルの魂装武具は、頭にかぶっていたとんがり帽子それ自体だった。
尖った形状の帽子が、まるで騎槍のような――いや、正確には長大な、閉じた雨傘のような形状へと変わったのだった。
ツィーゲルの傘が、カズキが出現させた岩壁を悠々と突き破る。突進力に特化したタイプか――カズキは次の行動へと移りながら、ツィーゲルの戦闘スタイルを予測する。
「だったら……ぅおっ!?」
「この私を忘れてくれるなよ、神に盾突く不届き者めがっ!」
一歩踏み込みツィーゲルを迎撃しようとしたカズキの胸元へ、オールドマンのショテルの先端が襲い掛かる。カズキは瞬時に身体を捻り、寸でのところで切っ先を躱す。
「甘い!」
初撃を凌げたと思ったカズキだったが、オールドマンのショテルは蠢く蛇のようにその刃を煌かせ、肉を切り裂かんと追従してくる。三日月のような歪曲部分が、カズキの胸元を抉らんと襲い掛かる。
「う、おッ」
カズキは腰を捻ったような体勢からさらに、仰向けに寝転がるように身体を地へ放る。その体勢から素早くバク転し、次の動きへと繋げる。
「まだ終わらないぞ!」
だが、オールドマンはさらなら追撃を仕掛けてくる。着地したカズキの腹を狙い、ショテルでの連続刺突攻撃を繰り出す。
カズキは魂装の義眼である左眼を駆使し、尋常ならざる反射神経で刺突を躱す。
無傷でオールドマンの猛攻を凌ぐカズキだが、凌ぎ続けるその“時間”が致命的となる。
「アビゲイル! 飛べ!!」
目にも止まらぬ速度でショテルでの突きを繰り返しているオールドマンが叫ぶ。
「わかっている!」
オールドマンの叫びに、ツィーゲルも感情的に応じる。
ツィーゲルは極彩色のローブの懐から、結晶型の魂装道具を取り出した。
退避する気か――カズキは相手の意図を悟り、叫ぶ。
「待てッ!!」
カズキは喉がはち切れんばかりの大声を張り上げる。
が。
「お前はここに釘付けになっていろッ!!」
「く……!」
オールドマンの絶叫が、カズキの声を上書きする。怒りをそのまま刃にしたようなショテルの連撃が、カズキに一切の暇を与えず襲い掛かる。
全身に漲らせた魂力を躍動させ、カズキは自らの身体能力、反射神経を極限まで高める。そうすることで、全ての攻撃をかわし切る。
だが、攻撃は終わらない。
「まだまだッ! 喰らえ、《毒々柵》!!」
「ッ!?」
ショテルを正面に構え直したオールドマンが、空気を切り裂くように叫ぶ。
声の残響が引かぬ間に、刃から帯状の気体が溢れ出た。
カズキは腰を低くし、迎撃態勢を整えた。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




