141 何が起こった?
未だ燃え滾る炎がそこかしこに見られる荒野に、カズキ――今はそう呼んでいいのかもわからないが――は一人立っていた。
ハイディーンを沈黙させるほどの変容を見せたカズキだったが、誰にもその変化の理由はわからなかった。
「さて、次は彼女か」
いつもとは少し違う声音で、カズキは言う。
おもむろに歩き出し、手近な炎の一つに手をかざすと、一瞬で炎を粒子状にして消し去ってしまう。
ひとしきり消火し、最後に残った一塊の炎へと歩むと、カズキは両手を伸ばして慈しむように、燃え盛る炎をじわりと解かしていった。
「ルタ、戻っておいで」
言葉が呟かれたのと同時、炎が全て消え去る。そして現れたのは――《世界火葬》によって炎そのものと化していたルタだった。目を閉じ、生まれたままの姿で蹲るように横たわっていた。
カズキは一体、どうやってルタを元の姿に戻したのか。それもまた誰も知るよしのないことだった。
「風邪を引くよ」
惜しげもなく晒されているルタの白い肌に、カズキは自分の上着をかける。ルタは目を閉じたまま、寝返りを打つように身じろぎした。
「僕も、そろそろかな」
言葉を漏らしたあと、カズキは目を閉じ、一息大きく吐いた。それに合わせて世界が穏やかに呼吸するように、静寂が周囲を包んでいく。
…………………。
…………。
……。
「……今の、なんだったんだ」
ふと呟かれた台詞は、カズキのものだ。
目には戸惑いの色が浮かび、つい今し方まで放っていた泰然としたオーラはない。普段通りのカズキに戻ったようだった。
カズキは頭を回し、周囲を確認する。
世界火葬によって炎の獄と化していた荒野は、今は乾いた風に晒されているだけだ。世界を焼き尽くすまで消えないと言われていた世界火葬の炎が、どうして消え去ったのか。カズキの頭の中には、そんな疑問が浮かんでいた。
「……ルタ」
目線を足元に向けると、ルタがすーすーと寝息を立てていた。先程まで自分が着ていたはずの上着が、彼女の身体にはかけられている。なぜこんな状況になったのかは判然としないが、ひとまずルタが戻ってきてくれたことは一安心だった。
「……っ!」
しかしここでカズキは、もう一つの重大な事実を思い出す。
ハイレザー・ハイディーンはどうなった?
視線を回すと、なんとハイディーンが意識を失い、無残にも倒れ伏していた。
プライドの権化のような存在であるハイディーンを、あんな状態にまで追い込まれるはずが――カズキはそう考えてから、ふとこめかみの辺りが痛むのを感じた。
朧気にだが、カズキ自身が見ていたイメージがあった。
その中で、微かにハイディーンを凌駕する瞬間があったような……カズキは根拠不明の自らの思考を意外に感じながら、頭痛を打ち消すようにかぶりを振った。
「ハイレザー様っ!!」
と。
こめかみの痛みが和らいだタイミングで聞こえてきたのは、忘れることのできない大会議室で聞いた声――ハイデュテッド王の近衛兵長にして軍事元帥代行、ダンストップ・オールドマンのものだった。
「神王様が、地に伏せておられる……貴様かあぁぁっ!?」
続けて聞こえてきたのは、ハイディーンの秘書官、宰相代行であるアビゲイル・ツィーゲルの、ヒステリックな金切り声だった。
二人の様子を見るに、ハイディーンはどうやら今回も、単独で先行してきたらしかった。
オールドマンとツィーゲルの魂力が揺れ動いたのを皮切りに――カズキも全身に魂力を充溢させた。
「「「魂装――燃!」」」
三者三様の魂装の詠唱が、重なった。
貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。




