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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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139 手も足も出ない?


 カズキの腹部から、どろりとした血液が垂れ落ちる。痛みに顔を歪め、カズキは思わず膝を着いた。


 一瞬の出来事だった。

 ハイディーンが時間を停止させ、その間に刃を振るわれた。下腹部の痛みが、カズキの意識を遠のかせる。


「はぁ……はぁ……クソッ」


 霞む視界の中、カズキは必死にハイディーンを睨みつける。友の仇敵は、残り火の中で舞い踊るかのように、優雅に両手を広げている。


「腹を刺し貫いた。もはや助かるまい」


 ほくそ笑むように呟かれた言葉に、カズキは内心で反論する。


 ――少しだけ、見えたぞ。


 そう、理由はわからないが、この腹を貫く瞬間のハイレザーを、カズキは一瞬“感じ取っていた”。

 本来時間を停止させられ、手も足も出ないはずなのに、だ。


 だからと言って、防御ができるわけでも反撃ができるわけでもないが、しかし確かに、ヤツの攻撃を知覚し、仕掛けてくるということが理解できた。


 もしかしたら……特訓の成果、なのかもしれない。


 カズキはルタのへの感謝を思い出し、再度勢いを取り戻してきている炎へと意識を向けた。


「……しぶとい男だ。さも害虫のようだ」


 鋭く眼光を飛ばすカズキに気づいたハイディーンが、不愉快そうに吐き捨てる。

 カズキは、血に濡れた唇を歪め、笑った。


「言われ慣れてるよ、それ。どいつもこいつも、語彙力ないのな」


「…………っ」


 ハイディーンの額に、青筋が浮かぶ。馬鹿にされることが我慢ならないようだ。

 カズキは挑発をしながら、高速に頭を回転させ続ける。


 ヤツの攻撃が見えたとしても、このままでは結末は同じだ。むざむざ殺されるだけでは、ルタを救うこともエルドラークの仇を取ることもできない。

 痛みと戦いながら、ハイディーンと戦うための策を絞りだそうと試みる。


「フゥ……」


 一つ、息を吐く。

 どうやら呪停無ジュテイムの効果も切れたらしく、体内での魂力の循環も可能となっている。

 急速に魂装手術カルマ・オペを行い腹を縫合する。痛みが幾分かマシになる。

 なんとか、反撃の糸口を。

 カズキは必死に、頭を回転させ続けた。


 しかし。


「目障りだ」


「あ……」


 再び、カズキの腹を剣が貫いた。

 カズキは立ち膝でいることも叶わなくなり、前のめりに倒れる。倒れた場所からジクジクと血だまりができていく。


「もう立ってもいられないようだな。害虫に相応しい格好だ」


 言いながらハイディーンは、這いつくばったカズキを見下ろすように周囲を巡る。コツ、コツと一定のリズムで続く靴音を不快に感じながら、カズキの意識は朦朧としはじめていた。


 ――二回目も、見えた。もう少しのはずなんだ。なのに……っ。


 やけに全身が冷たい気がする。悪寒が駆け巡り、呼吸を辛くする。

 それなのに、腹部だけはドクドクと熱く脈打っている。


 血が、流れ過ぎているのだろうか。


 カズキの思考は混濁しはじめ、音も遠くなってきていた。魂装手術も、間に合わない。


「こうなれば、時間を止める必要もない。潔く、逝け」


 祈るように両手で剣を握ったハイディーンが、カズキの身体の上で白刃をきらめかせる。その刃が、カズキの心臓を貫かんと振り下ろされた。


 死ぬ、のか。

 カズキの無念が、意識の中でわだかまった時。



 ――仕方ない。少しだけ、肉体を借りるよ――



 誰にも聞こえない声が、カズキの脳内で響いて、弾けた。


「ッ?」


 瞬間、ハイディーンの持っていた魂装の剣が、光の粒子になって消え失せる。

 突然の理解不能な状況に、さすがのハイディーンも思考が追い付かない様子だ。


「…………ふぅ、空気が少し、変わったね」


「……なに?」


 カズキが呟きながら、むくりと起き上がる。肉体から放たれる妙な違和感に、ハイディーンの表情が歪む。


 ――誰だ?


「さぁ、魂力の子らよ。身体が慣れるまで少し――遊ぼう」


 立ち上がったカズキの言葉に、大地が、大気が、空が。


 全てが、共鳴するように震えていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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