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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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137 灼熱の炎


 灼熱の炎が、辺り一面を覆い尽くそうとしていた。

 ルタとの特訓場所に戻ったカズキが見たのは、燃え広がる炎の壁だった。


 カズキがここを離れていた間に、炎は最早手が付けられないほどの規模に拡大し、さらにその勢いを増していた。燃え盛る幾本もの火柱により、体感温度は極限まで上昇している。

 肌を焼く猛炎により、ルタとハイディーンのいる中心部に近付くことすらできない。


「ルタ! ルタッ!!」


 カズキはできる限り火の壁に近付き、大声でルタを呼んだ。

 しかし反応はなく、高温に炙られた肌がジリジリと痛んでくるだけだった。


「くそ、どうすれば……」


 一度炎から距離を取り、思考を巡らせるカズキ。魂力チャクラを停止させられてしまっている状況でこの炎の壁に飛び込めば、一瞬で灰となってしまうだろう。


 魂力が平常通りに使える状態で、かつ魂力操作チャクラ・コントロールによって体表面に熱を遮断するための被膜などを作れれば、この業火の中を進むことはおそらく可能だろう。

 だがアルアの魂装真名カルマ・ヴェーダである『呪停無ジュテイム』によって魂力が停止している状態では、それは無理難題と言えた。『呪停無』による魂力停止が、いつまで続くのかもわからない。


「……だからって、突っ立てるわけにもいかないよな、ルタ」


 軽く話しかけるように、カズキは独り言を零す。当然、ルタからの返答はない。


 シャックの話から推察するに、ルタの魂装真名『世界火葬ホーマ・プラマーナ』が完全発動しなければ、術者自身であるルタの意識が潰えることはないはず。

 ならば、この炎が極限まで燃え広がり、世界を焦土と化す獄炎となる前に、ルタを救出できれば――カズキはそう考え、ルタを見つけ接近する方法を考えはじめる。


 熱さが肌を焼く中、必死に思考を回転させる。


「…………くそ!」


 しかし妙案は、浮かんではこない。


「困っているようだね」


 どこからともなく、“声”が聞こえてくる。

 その声は相変わらず、他の誰のものよりも聞き慣れているようであり、同時に今まで聞いた声の中で一番違和感を感じるような、愛着と不快感を同時に感じさせるような声音だった。


「……またお前か」


 カズキは一つ息を吐き出しながら、短く応じる。以前であれば多少のイラつきを持って声を迎えたカズキだったが、今回はなぜか腹立たしさはなかった。


 むしろ、現れそうな気がしていたぐらいだった。


「魂力が止めらているせいか、僕のいる領域に来やすいのかもしれないね。さて、再びの対話といこうじゃないか」


 “声”は今までと同じく、淡々と、それでいてどこか情熱的に、相反する感覚を同時に纏わせながら語り掛けてくる。

 カズキはこれまでなら鬱陶しさを感じていたであろうその声に、なぜか今回だけは会話をしたいという妙な心地があった。


「俺は、どうしたらいい? こんなとき、どうすればルタを助けられるんだ?」


 意識することもなく、カズキは自然とそんな台詞を吐き出していた。

 カズキ自身は意識していなかったが、藁にも縋る思い、というような心境に近いものがあった。


「どうすればいい、か。今回はどうやら、僕の話を聞く気があるみたいだね」


 嫌味のニュアンスが含まれた言葉にも、今のカズキが心を荒立てることはなかった。静かに、語りかける。


「あとでいくらでも茶化してくれていい。ただ今は時間がない。なにかヒントでもいい。この炎はどうすれば止まる? どうすればルタの意識を引き戻せる?」


 ただ実直に、カズキは言葉を紡ぐ。


「どうやら、あまり余裕はないみたいだね。よし、それじゃ少しだけ問題解決の糸口を提示しよう」


 カズキの態度を受け、声も反応を改め、語り出す。


「あの炎は、純然たる炎ではない。あくまでも、ルタの魂力を根源とした炎だ。ということは?」


「と、いうことは……?」


 示された難問に、カズキの頭は追い付かない。思わず“声”の台詞をオウム返ししてしまう。


「よく思い出してごらん。魂力を自在に操り、力の居所や魂装カルマの形状を操作コントロールできるのは、ごく限られた者だけだ。その中の一人である君になら、魂力がなくともできる方法があるだろう?」


「俺になら、できる方法……」


「魂力は無くなったんじゃない。“止められている”だけだ。その意味をよく考えるといい」


 カズキは呼吸も忘れて、考え込む。

 自分になら、できる方法がある。

 それは、いったい――


「……もしかして」


 ある一つの()()()に、カズキは思い至る。しかし確信が持てず、一度奥歯を噛み締める。


 だが。


「――やってみるしか、ないよな」


 今の状況を鑑み、そう結論付ける。

 深呼吸して、腹に力を込める。


「ふふ、見つけたみたいだね。また、しばしお別れだね」


「今回は、ありがとう」


 淡く、小さくなっていく声に、カズキは礼を言う。微かに、声が微笑んだような気がした。


 頭を切り替え、カズキは肉体に意識を向けた。

 確かに声の言った通り、魂力の脈動は止まっている。

 しかし身体の奥底に、しっかりと存在を感じられる。


 これなら、できる。


「あれが魂力の炎だってんなら……」


 カズキは念じ、体内の奥底に留まった魂力へと意識を向ける。そして全身に均等に、普段行っている魂力の操作をするように、満遍なく魂力が全身に流れ込むようなイメージを持った。


 魂力は揺蕩う波のように、穏やかに、確かに存在していた。


 目を閉じ、カズキはこの場所に満ちるすべての魂力に、あらゆる神経を傾けた。

 大地が、揺れ動き、鼓動したように感じられた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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