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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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135 間隙でもがく


 カズキはルタと特訓していた場所から目一杯のスピードで駆け、ガルカザン・カザスタヌフの根城に舞い戻った。


「みんな! ハイディーンが攻めてきた!」


 カズキの切羽詰まった声が、岩肌に反響する。

 カザスタヌフの拠点は、洞窟型の住居だった。カズキは洞窟の入り口で声を張り上げていた。声が少しだけエコーする。


「来やがったか」


 声に応えたのは、岩を擦り合わせたような重低音――カザスタヌフだった。広々とした洞窟の出入り口から、ずしりずしりとその巨体を揺らして現れる。


「カズキ、おめぇは一度奥で体勢を整えてきな。出入口は俺が見張っておく」


 カズキと違い、カザスタヌフは声に焦りもなく落ち着いていた。


「わかった。すぐに戻って来る」


「ああ」


 豪胆さすら漂わせるカザスタヌフの態度に安堵し、カズキは奥へと歩を進めた。


 洞窟住居の一番奥、木製の扉をはめ込んで個室に区切られた部屋には、大量の干し草で作られた巨大なベッドが置かれている。そこでは、身体中に包帯を巻いたシャックが静かに寝息を立てている。ベッド自体は巨体のカザスタヌフの物だ、長身で体格の良いシャックでも、多分にスペースが余っている。

 脇では、真剣な表情のルフィアが今も変わらず、シャックへと治癒の魂力チャクラを送り込み、必死の治療を続けている。


「……ルフィア、大丈夫か?」


「あ、カズキさん。はい、シャックさんかなり回復したと思います」


「違う、ルフィアの方だよ。無理だけはしないでくれ」


「カズキさん……はい。ありがとうございます」


 懸命なルフィアを見て、カズキは思わず声をかけてしまう。

 シャックを治療する手を止めさせてしまったことを心苦しく感じながらも、カズキはルフィア自身の状態を慮らずにはいられなかった。


 ルフィアはほとんどまともな休息も取らず、カズキとシャックの回復に努めていた。


 絶対にルフィアは俺が守らなければ――治療へと戻ったルフィアの背中を見ながら、カズキはもう何度目かもわからない決意を、改めて噛み締めた。


「カズキ……」


 ベッドから部屋の端に視線を移すと、アルアが椅子にもたれるように腰掛けていた。

 目元には濃い隈が出来ており、この数日泣きはらしていたことが否応なくわかった。カズキはアルアの心中を想い、黙って頷きを返した。


「みんな聞いてくれ。俺とルタが特訓しているところに、ハイディーンが単独で攻め込んできた」


「え……」


「ハイ、ディーン……ヤツが」


 ルフィア、アルアがそれぞれの反応を見せる。

 治療の手を止めることなく不安げな表情を浮かべるルフィアに対して、アルアはむしろ生気を取り戻し、背筋が伸びた。

 アルアの元々の意志の強さが戻ってきたかのように、目の奥にキリっとした光が宿る。それは亡きエルドラークの仇として、ハイディーンへの敵意を湧き立たせているのだと感じられた。


「今ルタが魂装真名カルマ・ヴェーダを発動させて、一人でハイディーンを足止めしてくれている。今のうちに俺たちは、急いでヤツを倒す作戦を考えなくちゃいけない」


 カズキは早口に伝達事項を述べる。


「ルタが言っていたのは、ヤツの時間停止を食い止められるアルアの『呪停無ジュテイム』を中心とした作戦を構築しろってことだ」


 続いた言葉に、アルアも身を乗り出す。


「ええ、その通りね。ワタシが死角から攻撃できれば、その間に総攻撃を仕掛けて終わらせてやるわ」


 アルアは意気盛んに言葉を紡ぐ。

 ようやく元通りの力強さを取り戻した姿に、カズキはほんの少しだけ安心する。

 しかし、今は一刻の猶予もない。心内で気を引き締め直し、作戦会議に意識を集中させる。


「問題は死角をどうやって作り出すかってことだよな。ハイディーンの能力は視野に依存してる。それが俺たちとの戦闘で弱点として明確になって、本人もそれを強く認識したはず。その辺りの油断はほとんどないと考えれば、視界を確保し続けて戦おうとするはずだし……」


「でもヤツは一人でここにやってきたのよね? それって相変わらず、多かれ少なかれ油断しているってことじゃない? というか、自分以外を舐め切ってるのよ。結局、どこまでいってもハイディーンの急所はその傲慢さってことよ」


「確かに……でも、だからって正面突破なんかできないだろ?」


「ええ、自殺行為ね」


 自分の考えを述べていたカズキの話に、アルアが割り込む。その顔は苦虫を噛み潰したようで、ハイディーンへの怒りが際限なく吐き出されていく。

 カズキはアルアの話から導き出されるハイディーンの急所を突くため、さらに思考を巡らせた。


「んー…………」


 しかし、そう簡単に妙案が浮かぶわけもなく、ただただカズキは懊悩する他なかった。


「う、うぅ……」


「シャックさん!」


 と。

 カズキの思考が行詰いきづまったタイミングで、ベッドのシャックが短く呻いた。すかさず傍にいたルフィアが反応して声をかける。やっと意識を取り戻してくれたらしい。


「私、は……どのくらい、眠っていたんだ……?」


「三日近くです」


 シャックのか細い声に、ルフィアが応じる。痛みなのか、三日動けなかった自分に対するイラつきなのか、シャックは顔を歪めた。


「……シャック、あのね、実は……」


 一歩進み出たのはアルアだ。エルドラークのことを話そうと決意したはいいが、途端に悲しみが思い出されたのか、彼女の瞳が濡れそぼる。


「……わかって、いる。断片的にだが……声は、聞こえていた」


「シャック……」


 静かに、シャックはアルアの言葉に返答していた。

 全てを悟り、身体の痛みに苛まれているのにも関わらず、シャックは傷ついているアルアのことを慮っていた。


 その生き様に、カズキは胸を打たれていた。


「今の、状況は……?」


 シャックは自らの体調を顧みることもなく、今の現状を理解しようと努める。カズキはさらに、シャックの利他的な姿勢に感銘を受けた。


「ついさっき、ハイディーンが単独で攻め入ってきた。ルタが一人で、魂装真名を使って押し留めてくれてる」


 カズキは先ほどから話していることを、シャックにも共有する。


「ルタリスアが……? まさか『世界火葬ホーマ・プラマーナ』か?」


「あ、ああ」


 驚愕したようなシャックの表情に、カズキもつられて妙な焦りを感じる。


「ルタリスアは…………死ぬ気だ」


「……ッ!?」


 少しの間を置いて語られたシャックの言葉に、カズキは強く動揺した。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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