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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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131 禅問答をする気はない


「これは……なんだ?」


 カズキの口から思わず言葉が漏れる。


 視界の先では、ルタが素早い攻撃を幾重にも繰り出してきている。身体感覚では、自分がそれを必死に躱している。

 だが、意識のどこか一ヵ所が、完全に別の次元に行ってしまったような、正確には形容しがたい感覚があった。


 一体、俺はどうなってしまった?


「カズキ、今のその状態が、真に魂力チャクラと対話するということなんだよ」


「……誰だ?」


 自分の中にあるが、決して自分のものではないような、そんな不明瞭な意識の一ヵ所から、誰かの声が聞こえる。

 声は他の誰のものよりも聞き慣れているようであり、同時に今まで聞いた声の中で一番違和感を感じるような、そんな声音だった。


「言うなれば僕は、君の魂力の意識みたいなものだ。僕と対話し、魂力のまことを“思い出す”ことで、魂装真名カルマ・ヴェーダひらかれるんだ」


 正体不明の声は、淀みなく続ける。

 カズキは五感と身体感覚でルタの激しい攻撃をいなし続けながら、それとは違う意識が鮮明に覚醒していくのを感じていた。


 他の感性が邪魔だ――カズキはどうしても人間が感じ取ってしまう視界や音を遮断するため、瞼を閉じた。それは戦闘中においてはある意味で、自殺行為と言えた。


 しかし、集中力が極限にまで高まっている今のカズキには、そもそも視覚情報が寸断される方が攻撃に対する反応が上昇するのだった。


 カズキは、どこからともなく聞こえ、段々と大きくなっている声に意識を傾けた。


「……で、どうすれば真の名ってやつを教えてくれるんだ?」


 意識の中で、カズキも言葉を紡ぐ。魂装真名を習得せんとする気持ちが、語調を少し早足にした。


「焦りは禁物だ、カズキ。そもそも、僕は君に真名まなを教えることはできないよ」


「どうしてだ?」


「さっきも言ったろう。真名は教えられるものじゃない。思い出すものなんだよ」


 声は淡々と、カズキを諭すように語る。穏やかでもあり、無機質でもある。そんな掴みどころのない雰囲気が、焦っているカズキには少し腹立たしく感じられた。


「だったら、早く思い出させてくれ。あんまり時間がないんだ」


 棘のある言い方で、カズキは言う。


「時間? 時間は無限だよ、カズキ。時間がなくなることなんてない」


「いや、時間は有限だろ」


「違うよ。有限なのは人の生命であり、人が勝手に数値的に規定した時間だ。もっと概念的な時の流れというものは、本来無限でとこしえに続いていくものさ」


「禅問答をする気はないんだ。いいから、どうすれば真名に辿り着けるかを教えてくれ」


 痺れを切らしたカズキが、詰問するように声を荒げる。

 もっと端的に、効率良く魂装真名へと至らなければ。今のカズキの意識は、そういった考えに支配されていた。


「かなり焦っているみたいだね。ただ、どれだけ気を急いたところで真名に近付くことはできない。何度も言っている通り、真名は思い出すものだ。君の無意識は、すでに真名を知っているのだから」


 怒りが滲んだカズキの声を聞いても、声は決して調子を変えることはない。相変わらず、澄んだ清流のようでいて、吹き荒れる嵐のようでもある、聞く者次第で表情を変える声だった。


「君たちのような知的生命体がなにかを思い出そうとすればするほど、記憶や情報が絡み合って思い出せないということがある。逆に、意識が思い出そうとすることから離れた際、ふっと思い出すといったこともあるだろう。実際、真名への覚醒もその現象に近い」


「だったらなんだ、真名ヴェーダを習得しようと意識するなってことか? それじゃわざわざ戦いの中でここまで意識を研ぎ澄ませたのが無意味じゃないか」


 カズキは腹立たしさを隠す気もなく、尖った声をぶつける。


「この状態に至ることができたということは、今後いつ何時でも、自らの魂力との対話が可能になったということなんだ。あとは真名を思い出すまで、根気強く魂力に触れ続けるしかないんだよ。無意味かどうかなんて、問題じゃない」


「俺もさっきから、禅問答をする気はないと言っている。結局は時間がかかるってんなら、やっぱり無意味だ」


「有意味か無意味かなど、所詮は人の価値や物差しがあるから生じるものさ。世界はそんなちっぽけなものだけでは成り立たないよ」


「だから、何度言えば――」


「おっと、そろそろおしゃべりは終わりみたいだ。カズキ、君がまた会いに来てくれることを願っているよ」


「っ! 待て!!」


 カズキは正体不明の声――意識の一画を支配していた何者か――の真意がついぞ掴めぬまま、極限の集中状態から俗世へと舞い戻ってくる。


 ゆっくりと目を開く。

 そこに飛び込んできた景色は――



魂装カルマアグニ



 金色の魂力をまとい、魂装の呪文を唱えるルタの姿だった。

 その細腕を目一杯に伸ばし、魂装武器カルマ・ウェポンを出現させようとしている。


 ルタの魂装武器は、いったい――カズキの喉が、ごくりと鳴った。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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