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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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130 魂力の声


 ブオン、グオンという空気を切り裂く音が、辺りに間断なく響く。

 ルタの強力無比な連続攻撃が、その速度故に空間を震わせる。


 変わらず続く、カズキとルタと特訓。

 先程まではルタの覚醒により、カズキが押され気味となる展開が続いていた。


 だが今は、少し様相が変わってきていた。


「ラァァ!!」


「ッ!」


 目にも止まらぬ速さで繰り出されるルタの攻撃に、カズキが順応を見せはじめていた。

 ほぼ本能的な反射で躱しているに過ぎないのだが、それはある意味ではカズキの持つポテンシャルの高さを表しているとも言えた。


 カズキはこれまでの戦いの経験から、自分自身でも気づかないほどに戦闘技術が向上していたのだった。


 それもそのはず、カズキがこれまで生きてきた十八年の人生の中で、命のやり取りなど当然未経験だった。しかしそれゆえ、戦う者としての素地はスポンジのようで、経験するあらゆることを吸収できる状態と言えた。そんな中で、生き残らなければならないという飢餓感と、負ければ終わりという一発勝負の重圧の中で戦い抜いた全てのことが、真っ新な状態だったカズキの能力値を、大幅に上昇させていた。


 そして、能力が上ればそれだけ、戦闘における“勘”のようなものも冴え渡っていくものだ。


 熟達した者ほど、攻撃は洗練されていく。

 狙いは的確で、力は一ヵ所に集約され強力化され、威力は最大値を叩き出す。

 これこそが強者が生み出す上級の攻撃だ。


 だがなればこそ、その攻撃は正確で淀みがないゆえに読みやすい。


 ここに撃ち込まれる――細胞がそう感じ取った瞬間、研ぎ澄まされたカズキの神経が稼働し、考えるより早く身体を動かす。


 必要最小限の動きで、ルタの鋭い攻撃をすんでのところで回避する。

 洗練された攻撃ほど、高威力の代わりに攻撃範囲は弾丸のように最小化する。


 ルタが少しだけ、息を乱しはじめる。

 何度も何度も全身で、殴打や手刀、蹴りを繰り出しているためだ。さらにその全てを、カズキに躱され続けている。


 ルタは魂力チャクラを全身に十分に流し込み、筋力や反応速度を上昇させているにも関わらず、だ。


 カズキはすでに、全身の魂力を停止させている。



「末恐ろしい才能、というわけじゃの……!」


 攻撃を続けながら、ルタは誰に聞こえるでもない声で囁いた。

 カズキは必死な表情を浮かべて集中しているが、ルタは逆に、少しだけ穏やかな感情が降って湧いていた。


 こやつの才覚を持ってすれば、努力型の遠き道のりであるとは言え、真名ヴェーダすらすぐにものにできるのでは――そんな期待を抱かせるものがあった。


 ルタは自ら吹っ掛けた戦いの中で、自分の道化ぶりを少し滑稽に感じた。

 自嘲気味に口角を吊り上げて、休むことなく乱打を繰り出す。しかしすべて、カズキに躱され、いなされていく。


「カズキよ、意識が研ぎ澄まされていくだろう? その感覚の先に、自らの魂力との対話が待っている。もう少しじゃ! 集中を、途切れさせるな!!」


 師としての自分は、とうに弟子であるカズキに抜かれている。力を取り戻した今でも、こうしてもはや一撃を与えることすらできない。

 しかしなればこそ、可愛い教え子がさらなる高みへと歩みを進められるよう、人身御供になろうではないか。


 ルタの内心には、そんな決意と喜びが湧きたっていた。



「……っ!」


 集中の極致に到達しようとしていたカズキは、意識の端でルタの言葉を認識する。

 肉体の反応と反射が全神経によって究極にまで研ぎ澄まされている中、カズキの視野にはルタとその背後の景色が、少しだけ鈍く、遅くなるかのように感じられていた。


 これは、なんだろう――カズキの無意識は、なんとなくそんなことを考えた。


 感覚が、不思議に遠のいていく。

 戦闘中であるのにも関わらず、だ。



「――――やあ、カズキ。ようやく会えたね」



 誰かの声が、頭の中に響いた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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