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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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129 懐かしい二人での特訓


「ルタ、お前……」


 鱗粉を零したような美しい金髪が、風にさらされ四方に舞う。

 ルタから放たれる鋭いパンチを喰らったカズキが、短く呻く。


「ふむ、気づいたようじゃの」


 カズキの動揺を嘲笑うかのように、ルタは口の端を吊り上げた。その場でファイティングポーズを解き、仁王立ちのような姿勢になる。


「強く、なってるよな?」


 思ったことを素直に吐露するカズキ。ダメージを受けた腹部を撫でながら下半身に力を込め、姿勢を正す。一方のルタはカズキの言葉を聞き、今度は少し憂いを帯びたような表情をして、視線を外した。


 重々しく、口を開く。


「……喜ぶべきかどうか、微妙なところではあるのだがの。エドワルドが逝ったせいで、わしにかかっていた呪いが解けたのじゃ」


「……そっか」


 カズキはルタの心中を察し、呟くように返事をする。ルタからは七百年近く、力を封じ込められていたと聞いていた。その呪いが解け、古代種ドラゴン族としての自らの本領を発揮できるようになった。本来であればそれは、ルタには心の底から喜ぶべき出来事であったはずだ。


 しかし、そのための犠牲は――カズキにとっても――あまりにも大きすぎた。


 ルタにとっては親の仇のようにも感じられていたエルドラークではあったが、カズキを通しての交流や直接の決闘によって、心の中でようやく一区切りがついたばかりだった。

 だからこそ、これからエルドラークときちんとした対話ができるはずだった。だがその矢先に、彼はもう帰らぬ存在となってしまった。


 そうして手に入れた力を、ルタ自身がどう受け止めるべきなのか、まだ心の中で整理できていないのだろうとカズキは感じた。


「もし、わしとの決闘のダメージがなければ、ヤツも少しは戦えたのかもしれぬしの……」


 ルタは全身から漲っていた闘気を萎ませて、悲しげに語る。風に舞う金髪が、その目元を隠している。


「それは、違うだろ。エドワルドは、望んでお前と喧嘩したんだ。ああいう風にできたからこそ、ルタだってエドとのわだかまりを水に流せたんだろ」


「それは、そうじゃが……」


「今となっては、あのタイミングでああして()()できなかったら、ずっとルタもエドも、お互いを変に誤解したまま別れることになってたわけだろ? だから俺としては……本当に、良かったんだと思うよ。今となっては、なんだけどさ」


「カズキ……」


 ルタの心境に寄り添うように言葉を連ねながら、カズキの心にはやはり自分を許せないという感情が渦巻いていた。

 自分が弱いから、エルドラークは死んでしまったのだ。

 自分が未熟だから、ハイディーンを招いてしまうことになったのだ。

 自分が悪いから、こんなにも辛く悲しい目に遭うのだ。


 そんな自責の感情が、カズキの心の中にはどす黒く渦巻きはじめていた。


 が。


「……ならばこの力、エドワルドの敵討ちにこそ使うべきじゃな」


「ルタ……」


 湿っぽさや、悪しき感情を全て吹き飛ばすように、ルタがニヤリと口角を吊り上げる。


「カズキ、お前ももはや強者ではなく、弱者として、あの憎きハイディーンを倒さんと挑戦しなければならん。これまで得た強さにあぐらをかかず、全身全霊でできる限りをしようぞ」


「……ああ!」


 ルタの鼓舞に、カズキも強く拳を握って呼応する。


「そのためにも、まずは魂力チャクラなしで、本来の力を取り戻したわしと対等になってみせよ。いいな?」


「わかった。やってみる」


 重々しく紡がれたルタの言葉に、カズキもようやく腹が据わる。

 息を深くゆっくり吐き、自然の静けさに身を委ねるようにする。ルタと出会ったばかりの頃、オブリビオンにて行っていた型の修行の意識に近い。


「ふむ。そうして魂力を自らの内側にとどめることで、自分の魂力との対話が可能となる。そのためには、まず魂力が体内から一切漏れ出ぬよう、あらゆる局面で意図的に魂力を留め置くことができるようにならなければならぬ。言うなれば今までと逆に矯正しなければならんわけじゃな」


「魂力を、内側に、留める……」


 カズキの魂力の揺蕩たゆたいが、動から静へと色を変える。

 元々こういった操作コントロールは、カズキにとってはお手の物だ。


「ただ留めるだけなら楽勝か。……じゃが!」


「っ!」


 弾かれた球のように突進してくるルタに、カズキの全身が反応する。それと同時に、魂力を放出してしまわぬように意識を張り巡らせる。しかしこれまでと正反対の感覚に身体と心が追い付かず、一瞬の隙を生んでしまう。


「せいっ!!」「がはっ」


 今までとは違うやり方にカズキが戸惑う中、ルタの拳が襲いかかる。小さな握り拳は、見た目からは想像もできないほどの膂力を誇っていた。カズキの視界がぐらつく。


「ほれっ、フラついている暇はないぞ!!」「っく!」


 唇の端を噛み、痛みで無理矢理に意識を奮い立たせるカズキ。本能的な反射神経だけで、なんとかルタの猛攻をいなしていく。


「魂力を留めっ、毛穴からも一切漏らすなっ! それでいてっ、わしの攻撃をっ、肉体の力と人間の本能だけでっ、かわし切るのじゃっ!!」


「んなこと、言われてもっ」


「それが考えるでもなくっ、できるようにならなければっ、自らの魂力と対話なぞっ、できんぞぉぉ!!」


 黄金の魂力を纏わせたルタの全身が、無秩序に躍動する。ずっとルタに師事してきたカズキでなければ絶対に躱し切れないであろう独特の格闘術の乱舞が、金色の竜巻となって吹き荒れる。


 カズキは今自分が、紛れもない命のやりとりの中にいるのだと自覚した。


 集中力が、研ぎ澄まされる。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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