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無能勇者の復讐譚 ~異世界で捨てられた少年は反逆を誓う~  作者: 葵 咲九
第四章 ハイデュテッド侵攻編

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127 できることをする


 雨が上がったばかりの地面に、額を擦りつけ土下座する人影が一つ。

 身体中に包帯を巻いた姿の、カズキであった。


「ルタ、頼む。時間がないんだ」


 カズキは頭を下げたまま懇願する。目の前ではルタが、腕を組んで胡坐で座っていた。


「俺を強くしてくれ」


「イヤじゃ。断る」


「どうして!?」


「身体の傷をよく見ろ、カズキ。そんな状態で特訓を行えば、勝利どころか勝負にすらならん」


 先程からずっと、こんな問答が続いていた。


 エルドラークを失ったカズキは、自分の無力を責めた。そこから導き出される結論は、当然のごとく『もっと強くならなければ』というものだった。

 しかしカズキ自身も『分断の壁』でハイディーンから受けた傷はかなり重症だった。

 今は応急処置を済ませた上で食事やルフィアによる回復治療などがあり、なんとか平時の状態に近付けているという状況だった。


 だが、特訓をするとなれば話は別だ。


 しかもカズキが望んでいるのは、魂装遣カルマつかいの持つ戦闘技術の中でも最高峰であり最高難度――魂装真名カルマ・ヴェーダの習得を懇願しているのである。


 ハイレザーがこの場所にまで侵略してくるのは、最短で三日程度だとカザスタヌフが結論している。そんな限られた時間の中で、重傷から脱したばかりのカズキが魂装真名を習得することなど、考えるまでもなく不可能だとルタは言っているのだった。


 なればこそ、最善手はできるだけの時間を休息にあて、ハイディーンに対抗するための作戦を何とかして捻りだすということ以外にあり得なかった。


「ヤツの真名ヴェーダは魂力を抑え込めば抑止できるということがわかっておる。よって、アルアの呪停無ジュテイムを軸として、時間停止を封じるための作戦立案することがなによりの勝利への近道じゃ。うぬが万が一にも強力な真名を習得できたとしても、時間が停止させられていてはなんの意味もないのじゃ」


「でも、だからって黙って寝てるなんて俺には……」


「あまりたわけたことを言うなよ、カズキ。あのエドワルドですら、一つの抵抗をすることもなく負けたのじゃ……」


「ルタ……」


 顔を上げ、しつこく粘るカズキに対して、ルタは怒気をはらませて返してくる。

 エルドラークの名前を出されて、さすがにカズキは少し怯んだ。


「いいか、エドワルドの魂装真名はのう、全ての魔族の魂装真名を自分の真名として使いこなすという、常軌を逸した強さを誇るものだったのじゃ。その力でアルアの真名である『呪停無』を使い、わしの魂装を封じ込んでいたんじゃ」


「魔族全ての……魂装真名、を?」


 圧倒的なその事実に、カズキは息を飲む。


「そんな力を以てしても、ヤツには一切歯が立たなかった……それどころか、なんの手出しすらできなかったわけじゃ。それだけ、時間を自在に操るという能力は恐ろしい。わかるな?」


「…………っ」


 理路整然と、カズキを諭そうと言葉を並べていくルタ。カズキの拳がぐっと握られ、小刻みに震える。


「ハイディーンが使う真名に敵う能力など、おそらくは存在しない。あったとしても……そうじゃな、それは時間の支配を逸脱するとか、もしくはこの世の魂力全てを支配できるだとか、そんな絵空事のような力だけじゃろう。じゃが、そんな魂装真名がそうそう存在するわけもない」


 ルタは両手を広げ、諦めるかのように頭を振った。

 カズキはルタの口から語られる途方もない真実に、ずしりと腹の底が重たくなるような気がした。

 自分が役立たずだと断罪されているような心地になりながら、カズキは歯をぐっと食いしばることしかできない。


 では、どうすればいい? このやり場のない焦りや怒りは、どうやって乗り越えればいい……?


 カズキは再び頭を下げ、雨が上がったばかりの地面に額を擦りつけた。


「頼む。お願いだ、ルタ。何かしていないと、俺は自分が許せない」


「カズキ……」


「傷なら大丈夫だ。もう自分で魂装手術カルマ・オペをできる状態にまで回復してる。体調には細心の注意を払う。約束する。だから、頼む」


 カズキは顔を下げたまま、言葉を紡いでいく。


「魂装真名を覚醒させられなくてもいい。ただ俺はもがきたいんだ。無力なんだとしても、もがけるだけもがいたっていう事実がほしい。じゃないと俺は、自分で自分を……」


 語り続けるカズキに対して、ルタは。


「……はああぁぁぁぁぁぁ」


 長大な、溜め息を吐いた。


「ルタ?」


「うざい、うざいのぅ、うぬは。まだまだ青二才じゃ」


「す、すいません……」


 頭をボリボリ掻きながら、ルタは呆れたように言う。わざとらしく、()()()ではなく見下すように()()と呼ぶのも、呆れからなのだろう。

 カズキは謝罪を述べることしかできない。


 しかし。


「……仕方ない。そこまでもがき苦しみたいというのなら、久しぶりにわしが特訓をつけてやる」


「本当か!?」


 ルタは呆れるほどのカズキの真っ直ぐさを、完全に否定することはできないのだった。

 カズキはルタの言葉に、跳ね上げるように顔を上げる。


「ああ、こうなったらとことんやってやるわい。覚悟せい」


「望むところだ」


 久方ぶりの、二人での特訓。

 カズキとルタは同時に、口元をニヤリと歪め――あの凶暴な笑みを浮かべ合った。


「久々に楽しもうぞ」


 雨雲はすっかり流れ去り、青空が見え始めていた。




貴重なお時間をこの作品に使ってくださり、ありがとうございます。

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